第28話 教会の敗北者(笑)たち


 色々と教会の暗部にも詳しそうなのでバルフェを恫喝してみるとあっさりとゲロを吐いた。

 バルフェ曰く何百年か前に起きた騒乱の顛末というのは概ねまさおの言う通りで、大陸を平定間近までいったまさおの勢力だったが、時を同じくして現れた“英雄”達に打倒され、殺しきれないため封印したまさおの能力に目をつけて利用していた、というのは教会の上層部では周知の事実だそうですよ。

 勝てば官軍とばかりにまさおを悪として今に続く獣人や亜人種の差別や弾圧を行っていたのは既得権益などもあってその方が得だったから、と言われたけどそういう政治的にクソな部分も含めて聖女教会がドス黒い邪悪すぎるわ!!!!

 何も知らずに真面目に世界の危機を救うべく奔走していた義姉上が希少種すぎるというか居た堪れなくなる。

 ……教会、潰さなきゃなぁ。どうやって仕掛けるかなぁ。

 そんな事を考えていると、上空から幾つかの気配が接近してくるのを感じたので身構える。クロガネも同じくリリアンを抱えて身構えているが、まさおは何々チミ達どったの?ぐらいで呆けている。まさおだしな、仕方ないね。


「やれやれ、増援を連れて聖女様のお迎えに来たのにこれはどういうことだ?磔刑と火刑がやられているとは……それに聖女様も酷い有様だ」


 俺達が入ってきた大穴から続々と謁見の間に入ってきたのは、俺と同じ竜に乗った白揃えの甲冑を来た騎士だった。俺達に対峙するように入ってきた竜騎士は合計で12騎。1騎が大部隊に匹敵する竜騎士の希少性を考えたら破格の人数だ。それらが俺達に対峙するようにホバリングしながらこちらを威圧している……まるで竜騎士のバーゲンセールだな。


「おぉ、我らが教会が誇る白竜騎士団!!やっときてくれましたか!!」


 まだ息があったのか、ローンがよろよろと立ち上がりながら歓喜の声をあげている。


「計画とは随分と違う様子だな火刑。君たちが制圧したこの城を拠点に、王国に侵入する魔物を我らで倒していくと麗しの“姫”から承っていたのだがこれはどういう事だい?」


「……プリンス、そこにいる“英雄”ユーマがあまりにも強すぎた。供の少年も強い。そして欲神の封印も解けてしまった!頼む、計画は失敗だ、俺を連れて撤退してくれ」


 そう言って竜騎士達の方に歩いていくローンだが、気づいたクロガネがリリアンを抱えたままローンにかけよって蹴り飛ばした次の瞬間、ローンがいたところに竜騎士の一人が投げた槍が突き刺さっていた。

 クロガネがローンを蹴り飛ばさなければ刺し貫かれていただろう。


「な、なにを、プリンス……」


 自分の命を狙われた事が信じられないのか、呆然としながら呟くローン。


「計画が失敗したこともお前たちが敗れたこともみればわかる。

 そんな事よりも麗しき姫の言葉は絶対。みすみす敗れ、聖女様を護る事もできずあまつさえ捕虜になるなど論外だ。火刑、磔刑、君たちにはここで死んでもらう。無論、“英雄”ユーマ、君にもだ」


 成程、こいつらは教会の後詰めって事ね。確かに竜騎士がこれだけの数居ればその機動力と戦闘力で今王国を襲う魔物はどうにかできてしまうかもしれない。

 ……しかし即座に仲間を口封じしようとするとかロクなもんじゃないな。

 つまり連戦続きになるし結構疲労しているけど、この竜騎士たちをどうにかしないと俺達は帰れない……ってコト?


 そしてまずいかな、と思ったのが竜騎士たちの恐らく指揮官が来ている“鎧”だ。

 右腕に巨大なクローのような武器、左手には小型の盾を装備している。

 白と紫色の騎士甲冑のような姿で、兜の正面には十字のような意匠がデザインされた全面防護になっている。あと後頭部から頭頂部までブレードのような飾りが伸びているのも特徴的だ。

 ……これ知ってる。召喚される前の地球で見たことあるアニメに出てきた奴だ。なんか世界を巻き込んでクーデター起こそうとして失敗したカスが使ってたロボットがモチーフでしょ、わかるとも!


「教会に伝わる伝説の防具、『ミハエルスの鎧』を“プリンス”の名と共に襲名するこの私がな!」


 ぷ、り、ん、すぅぅぅっ?ヤバイ思わず吹き出しそうになってしまう。そうか、そういう名前と共に受け継がれているのね、プリンス、プリンスねぇ。

 ミハエルス……そう言う風によめないこともないしそう言う風に伝わってたんだろう。でもこれあのミカエ……いや、いうまい。

 王国の伝説の鎧も“そういう”代物だったんだし他の遺物が現存していてもおかしくないものな!!!!!!まさおもいっぱいあったっていってたしな!!!畜生!!!

 万全の状態ならまず負けないと思うけど今の状態でまたこの手合いに加えて竜騎士の軍勢と戦うのは少ししんどいかもしれない。いくらクロガネと2人だといっても捕虜とまさおと幼女を庇って戦うのは――――


「起きろミミィ!耳を塞いで安全なところに隠れていろっっ!」


「はい、かみさまー!」


 まさおの言葉に起こされたミミィちゃんはねぼけまなこのままケモ耳を手で押さえながらとてとてと広間の陰に走って逃げていった。カーテンに頭を突っ込んでふるえているけれど隠れているつもりのカーテンからおしりが出ている。小動物みたいな雰囲気があるなぁ……ちいさきいのち、俺が守護(まも)らねばならぬ……。


「ひとまずここは一緒に戦わせてもらうぞ少年!」


 おっとまじか!まさおがやる気である……大丈夫かなぁ。


「俺のスタイルはミミィには刺激が強すぎるからな―――最初に言っておく、教会が相手な以上、俺はかーなーり容赦しない!!」


 そう言って竜騎士たちに両手の中指を立てるまさお。そういうところはかわらずまさおなのね、ちょっと安心(?)したぜ。


「欲神か。お前達、欲神は捕縛して再封印するぞ。あれは教会の重要な道具だからな!!」


 そう言ってプリンスが部下に指示をしているが、道具、道具ねぇ。――――プリンス、おまえブ・チ・の・め・し・か・く・て・い・な!!!


「クロガネ、一番やばそうなプリンスは俺が相手をする。他の連中は任せてもいいか?」


「やるしかないんだろ大将。そっちの姐さんもこっちへ、俺っちは防御しながら――――」


 バルフェをクロガネに投擲しながら役割の分担を即座に打ち合わせていると、話の最中なのにまさおが竜騎士たちの方に歩いていった。


「ヘェイヘェイピッチャービビってるぅ?っていうか何お前らわらわら出てきてプーックスクス、もしかしてびびってるんでちゅかぁ?うわダッセ、ダッセ」


 変顔しながら竜騎士たちを指さして煽り始めた。ちょっと何やってんのまさお?!?!?!


「我ら白竜騎士団は皆、強き力と幼馴染を奪われた哀しみを知る無垢なる者のみが所属することを許される教会最強の精鋭。苦しき教義を乗り越えし我らへの愚弄は許さんぞ!!」


 煽りに耐えられなかったのか竜騎士の一人がまさおの挑発に乗ってきた。


「幼馴染を奪われた悲しみって、それきちんと好きって伝えてアタックしたんですかねぇ?」


「――――相思相愛の筈が俺が想いを胸に秘めているうちに他の男に奪われていたのだ」


「それ普通にヘタレなだけでは?」


「ぬわあああああああああああああああああっ!!誰がヘタレだオラァ!!お前顔がいいからって調子に乗るんじゃねーよぉぉぉぉぉっ!!」


 まさおの煽りに竜騎士さんたちがだんだん釣られ始めている。これはまさおの能力……じゃないな、普通に煽り性能がバチクソ高いだけだわ。


「自分がモテないのを教会の教義(笑)とかいって現実逃避してるの醜くないか?お前たちのHay!Say!って醜くないか?あ、違った醜いのはお前の顔だわ!パ・パパパパーリィ!ドゥクシドゥクシ」


「何がドゥクシだ!言ってる意味わけわかんねぇけどいっぺん殴らせろクソ欲神!!」


「落ち着けっ、欲神の挑発だ乗るな!」


 俺が対面して威圧しているプリンス君だけは気を抜かず挑発に乗らず部下を制止しようと声をかけているが、他の竜騎士たちはまさおの挑発に釣られクマーされつつある。まさおに殴りかかりたい奴とそれを止めている奴で……あれ、数の不利がひっくり返ってる?


「敗北者!敗北者!白ひ…じゃなかった白騎士童貞敗北者♪ゴミ山童貞敗北者♪」


「―――その減らず口に用がある!!」


 敗北者ラップに堪忍袋の尾がきれたのか、プリンスをのぞく竜騎士たちが一斉にまさおに躍りかかった。


「そこは取り消せよとかいうところだろうがよぉ~わかってねぇなぁ~~敗北者たちさぁそんなんだから惚れた女をポッと出の奴にもっていかれるんじゃないのぉ~?」


「欲神貴様ぁぁぁぁぁぁっぁっ!!」


 凄い、いや別に凄くはないけど煽り文句が踊るように飛んでいく。

 最初に宣言したとおりに容赦なく心を抉って煽っていくけど教会の連中相手だしなぁ、流れ的にまさお悪用してるのを知っていて加担しているような奴らだし、よかろうもん!

 しかし教会の竜騎士も顔真っ赤っかでまさお(ぜんらのすがた)をおいかけているのは見てる分には面白くて笑ってしまう。


「すげぇな大将、あの竜騎士たち皆マルサルオスに群がっておいかけてるぜ。あれが欲神のスキルなのか」


 ごめんなクロガネ、違うと思う。普通にまさおの煽り性能が高いだけだと思うんよ……しかし人を顔面クリムゾンヘッドにして思わず殴りにいきたくなるような煽りと、ほぼ無敵の鉄壁の防御力ってもしかしたらすごく強力な組み合わせなんじゃなかろうか……?

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