第27話 欲神まルさルおス、世界の歪みを語る


「とりあえず王子様の首級は……持っていても困るし地面に転がしておくのも可哀想だから玉座にでもおいておこう」


 そう言ってセドリックの首を玉座に鎮座させる。良かったなセドリック、念願の玉座だぞ。だがそんな俺に不思議そうにクロガネが聞いてきた。


「えぇ……?それでいいのかよ大将。その首級使ってこの騒乱収めたら普通に玉座につけるんじゃないのか?」


「いやぁ、こんな国いらんよ。俺には流刑地があれば十分」


「そうか。……ま、俺は大将がいいってんならそれでいいさ。任せな、流刑地は俺がきっちり守護するぜ!」


 そう言ってサムズアップをするクロガネ。だがそんな俺達の会話に割り込んでくる声があった。


「あ、あー。悪い。玉座の上のそれ、ミミィの情操教育によくないから何か布とかかぶせてくんない?」


 ケモ幼女の目隠しをしているまさお(ぜんらのすがた)だった。そうか、子供に見せるようなものじゃないもんな。ササッと首に布をかぶせた後、クロガネがヒュッと火を噴いてセドリックの身体を灰にしてくれた。ついでに王様の死体にも布をかぶせてくれるクロガネは本当によいこだなぁ。


「かみさま、おうたはおわりですかー?」


 ケモ幼女はしっぽをぶんぶんと振っているが、どうやら俺とセドリックの会話は聞こえてなかったようだ。そんな俺の視線に気づいてかまさおがドヤ顔を浮かべる。


「あの王子の聞くに堪えない罵詈雑言は俺様の上手なお歌で聞こえないようにキャンセルしておいたぜ、子供に聞かせたくない口汚さだったからな!!」


 そういえばお前歌い手(笑)だったもんな!!歌はお手の物ってわけね、わかるよー。


「そうか。……とりあえず、俺はお前の以前の悪行を知ってはいるけどまずはお前の話を聞かせてもらおうかな、なんで歌い手のまさおくんがこんな異世界にいて、欲神なんて大層なモノになって挙句に聖女教会に使われていたのか」


 そんな俺の言葉にきょとんとした後で驚くまさお。


「……えっ?!俺の話聞いてくれるの?問答無用でぶちのめされると思ってたんだけど」


「あぁ?いや、そりゃ俺はお前に直接迷惑をかけられてないし―――いやセドリックがゆんやーになって暴走させられたのは迷惑極まりないがお前の意志じゃないんだろ?

 お前が歌い手の女の子に二股かけたり手当たり次第にファンに手を出したりした挙句に下半身丸出しで警察から逃げ出そうとしたりしたどうしようもない事したのは前世の事だしな。そのことでお前を裁けるのはお前の被害に遭った人たちだけだと思うワケ、だからお前の前世の事について俺は何も言う資格ないから今のところぶちのめす理由がない」


「……何かすごいな少年。俺より子供なのに達観してるというかなんというか」


 感心したような呆れた様な微妙な顔をした後、ケモ幼女の目から手を放した後膝の上に寝かせて、背中をたたいて寝かしつける。ほどなくして幼女が寝息をたてだしたところでまさおが語りだした。


「少年の言う通り、前世の俺はどうしようもないクズでたくさんの人に迷惑をかけて、揚げ句自分の父親も死に追いやった親不孝者の生きる不良債権だった。

 ……死の間際になってその事を自覚したってのは皮肉なんだが、気が付いたらこの世界にいたんだよ」


 へぇ、俺は転生したけどまさおは異世界に召喚されたのか。


「おれがやっちまった罪は消せないけど、異世界から償う方法もないし大体死んじまってるからな。せめてまっとうに生きてみようと思ってたところで小卒引きニートがサバイバルなんてできるわけがなく即座に野垂れ死にかけたところでこのミミィ達が暮らしている村に拾われたんだ」


「シームレスに野垂れ死にそうになってるんじゃねえよ」


 思わずツッコんでしまった。反省以前に根本的にこいつ残念な奴なんじゃなかろうか。


「異世界に来たらチートで無双出来る、そう考えていた時が俺にもありました。―――現実は非常である。死なないだけで痛みとダメージは受けるんだわこの身体。それなのに攻撃手段ないんだぞ速攻で魔物に袋叩きにされたわ」


 そう言うと強いのか弱いのかわからんなまさお。まぁ、まさおだしなぁ。


「オホン。で、ミミィ達の村に助けられた後は穏やかに暮らしながら、俺は作物の育て方を教えたりして村の食糧事情を改善しながらのんびり暮らしていたわけよ」


「まさおなのにそんな高度な事が出来るの?」


「少年俺に辛辣すぎなぁい?!俺小学校の頃アサガオを学年で一番上手に咲かせたんだぞ!アサガオまさくんって呼ばれてたんだ。それに部屋でミニ家庭菜園とかやってたし、食べれるものを作る事には自信があるぜ」


 そうか……30過ぎたおっさんが小学生の自分の姿を自慢するのが大人として良いかはさておき、本人がそう言うならそういうことにしておこう、うん。


「話がずれちまったが、そんな日々もそう長く続かなくてな。そもそもこの世界は獣人を家畜とか労働力とかなんなら性のはけ口にしてるところもあるのは知ってるな?俺を救ってくれた村はそういうものから逃げたり、ミミィみたいな混血がひっそりとくらしている集落だったんだ」


 急に話が重くなりまさお弄りしてる雰囲気ではないので静かに聞く。獣人差別が出たことでクロガネもスッと目を補足して真剣に聞いている。


「あの日、俺はたまたまミミィを連れて、村から離れた渓流に泊まり込みで釣りに行ってたんだ。

 それで帰ってきたら、村は人間の獣人狩りにあって壊滅してた。まだ息があった奴に聞いたら、人間狩りが来たけど、一生懸命育ててきた作物があるこの村を捨てれずに抗戦して、見せしめに皆殺されちまったんだって言っててな。何で逃げないんだよって泣きながら言ったらさ、“かみさま”が与えてくれた大地の恵みを捨てる事なんてできなかったから、なんて笑ってから死んじまってな。俺は神様なんて言われて感謝されるような大層な人間じゃない、異世界クズだってのにさ。村の皆を弔ってから、ミミィとの旅のはじまりよ」


 過去を思い出すその表情には悔恨や無念さ、哀しみがあった。


「……そこからミミィと世界を旅する中で、獣人や混血が奴隷にされ道具のように扱われたり、慰み者にされたり、酷い扱いと差別を受けているのをみた。凄惨、なんてもんじゃなかったよ。性のはけ口にされて飽きたら殺す、そんなことを平気でする奴らが当たり前のようにいたんだ。ゲスでクズの俺がドン引きするくらいの本物の邪悪だった。俺は世界の歪みをみた……だから俺はこの世界を変えたいと思ったのさ」


 その言葉は前世のまさおネットミームでみた、下半身丸出しで警察から逃げながら言う「この世界を変えたい」とは違う、真摯な重みを感じる。


「それで俺は決意を新たに、この異世界ではびっぐまぐなむさんを封印して人の為になる正しいと思う事をしようと旗揚げをしてな。

 どんな人種も分け隔てなく暮らせる国を興す、そのために俺は戦いをはじめて悪徳領主とか獣人や亜人を人身売買している組織を潰したりして、勢力を拡大していったんだ。けど不思議な事に、えっちなのはいけないと思います!ってし始めたら何かモテはじめてな、周りに可愛い女の子達が集まってきたんだよ。あぁ、勿論まさおに二言はないから手は出さなかったぞ?なのにハーレム王とかチンポ先生とか下世話な呼び名ばかりつけられてなぁ。モテたいと思う気持ちから解脱したらモテるんだからこれもうわかんえぇよな」


「お前顔だけはいいからな」


 歌い手(笑)してただけあって顔面偏差値は高いのでそれがまっとうな活動してたらモテるとは思うぞ。


「よせやい……照れるぜ」


「照れてないでとっとと話せ」


 照れているまさおに容赦なく先を促すと、そんなー、と情けない顔をした後で続きを話しはじめた。


「俺に協力してくれる国も合流したり、仲間も増えて、俺の勢力は大きくなった。少なくとも俺の勢力圏では、獣人や亜人が酷い目に合う事は無かったと思う。大陸を平定できるかと思ったところで―――アイツ等が現れたんだ」


 そういってセドリックからひっぺがした鎧を見るまさお。


「俺と同じように異世界、もとい地球から来た奴ら。そこに転がってるバエ……なんとかとか、そういうロボットのガワをきているやつらや、青髪で剣をバカスカ飛ばしてくる魔法少女もいたかな。俺の持ってる能力じゃとてもたちうちできないような圧倒的な力を持った奴らに、俺達の軍は負けちまった」


 ……それは興味深い話だ。このなんとかフレームっぽい鎧もその召喚者の使っていたものだしな。


「俺は何とか女の子達やできる限りの仲間を別の大陸に逃がして、殿に残ったんだが……結局フルボッコにされて封印されてな。

 その時に逃がしたと思ったミミィが俺の封印に飛び込んできて、一緒に封印されちまった。後は、俺の能力である知力低下と引き換えに耐久力が劇的に上がる効果を聖女教会が何百年もの間、マッチポンプに使わってたってワケ。ただ使われる程封印は少しずつほころんでいって、そこの王子様が過剰適合した事でこうやって封印が解けて自由になったのねん♪」


 ねん♪じゃないがー。……思ったよりも重いファンタジーしててまさおマジまさおとかいじれない。とりあえず俺が出来ることとして、さっき確保した捕虜のバルフェの顔を掴んで問いただそう。クロガネが抱えてくれていたバルフェを受け取り、顔面を鷲掴みにしながら問いただす。


「―――と、まさお……あぁ、マルサルオスが言ってるけど、実際どうなのよ。起きてるんだろ、吐け、ゆめのけむり吐け、おら!って違うか。吐け!」



「――――だいたいあってましゅう!!」


 恐怖に泣きながらも答えるバルフェ。大体あってんのかよ、というかちょっとでもあってたら駄目だろ聖女教会!!裏取りのつもりで聞いたけどダメだこりゃ。やっぱりロクな組織じゃねーな!!!!!潰していいかな?いいともー!

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