第24話 偽聖女の顔面なんてなんぼ殴ってもいいですからね


 地面に磔にされているのに、引き抜こうとしたり叫んだりみっともなくじたばたもがくセドリック。

 無視してトドメを刺そうとしたところで魔力の波を感じたので咄嗟に飛びのくと俺がいた場所に何本もの杭が地面から発生していた。

 身動きできないセドリックも巻き込まれているが、装備している鎧が杭を防いでいるのでまだ生きてた……う~ん、さすが伝説の鎧。

 しかしまともに動けない所に生えた杭に身体中を滅多打ちにされて断続的な悲鳴を上げていた。衝撃で手足があらん方向へねじ折れたり曲がってるのでこれはさぞや痛かろうもん、はようおいが楽にしてやらねば。


「チェッ、外しちゃったぁ。次は外さないよ」


「バルフェ、あのアホ王子は用済みだから死んでもいいけどユーマは必ず生け捕りにしなさい。――――あれは私の玩具。改めて調教して心を折って楽しむんだから」


 遊戯を愉しんでいるような態度のバルフェに対してリリアンが指示を出していた。

 ……そうだよねぇ、明らかに聞いちゃいけないような企み事をベラベラ喋ってきたからこういう展開になる事は予想してたしまぁそうなるな。だから俺も予め宣言しておくことにする。


「こっちもやる気だったからいいけどさ。

 ……リリアン、お前には予め宣言しておいてやるよ。

 両親がどんなにクズで下種でも産まれてくる子供に罪はないから子供に影響が出ないように細心の注意を払うけど――――お前の顔面だけを殴り続けてやる、死なない程度に回復アイテム使いながらな。

 あと取り巻きは最低一人は生け捕りにさせてもらうからよろしくな!」


 そんな俺の言葉に苛立ちを表すリリアン。まってろすぐその顔面にそげぶなパンチを連打してやるからぞっ!


「生け捕り、ねぇ。3対1で私たち勝てると思ってるのぉ?英雄クン」


「違うぜ、3対2だ―――柄まで通ったぞ、本日2回目ッ!」


 俺の言葉にバルフェが言い返してきたが、その言葉が終わるや否や声が広間に響きローンに駆け寄ったクロガネ(にんげんのすがた)がその腹部を刀で貫いていた。

 俺を着地させた後は人の姿をとって潜伏してくれていたのは知っていたが、見事に奇襲が決まりローンが吐血している。ヒューッ!


「な、にっ……?」


 驚きながらも掴んで捕らえようとするローンの動きを回避し、刀を引き抜き飛びずさって俺の傍まで戻ってくるクロガネ。そうそう奇襲ってのはこうやるのよ!ナイスゥゥ!!


「やるじゃん、さすが俺の相棒!」


「こんな事もあろうかと待機しておいたんだ。さぁ、やっちまおうぜ大将」


 さすがクロガネできる子!まさに“こんな事もあろうかと”なのが凄いところ。


「その程度の傷、私の力ですぐに回復出来るわよ」


 そう言ってローンの傷を治しているリリアン。流石偽物でも聖女、腐っても回復魔法は使えるのね、義姉上の回復魔法に比べたら回復の速度も回復量も完全下位互換なようで完全に回復はしていないが動ける程度には回復したらしい。


「―――不意打ちとは品がないな少年。仕置きの覚悟は十分か?」


 ローンはクロガネに攻撃を定めたようだ。


「それじゃあそっちの男の子はローンに譲るわねぇ。さぁ、楽しみましょう英雄クン」


 そう言って俺を視てニヤニヤしているバルフェ。俺が戦うべき相手は決まった。そうと決まれば全身に魔力を走らせながら駆ける。


「さあ、やってしまいなさい2人と――――ぶげらっ?!」


 全身に雷の魔力を通して反応速度を引き上げる。目にもとまらぬ速さ、というやつで加速してバルフェの横を通り過ぎてリリアンの顔面に膝蹴りを叩き込んでやった。一撃で鼻が折れたのか、リリアンの鼻先がつぶれておかしな形になっている。蹴られた威力でそのまま吹き飛び壁にめり込むリリアン。


「……おっとすまん、最初に顔面だけを殴ると言ったがありゃウソだ。殴る以外にも踏んだり蹴ったり顔面しばりで何でもやるぞ」


「ぱ、ぱぴゃぁっ、ぱぴゃぴの、ぴゃああああああ?!」


 混乱して奇声を発しているが、顔面の激痛に即座に回復魔法を使っている。おぉ、治してくれると魔法薬ぶっかける手間が省けて助ける。だってこれから数えきれないくらい顔面をボコるからな!


「う、ぐぞおおおっ!なんてことを!私の顔は傷つけちゃいけない人類全体の宝だってあんただって知ってるでしょ!!」


「褒めてやるよリリアン。そうやって回復してるの流石だな!はお腹の子供はそのまま、顔面造形は死んでもらう!!


 バルフェ?そんなの後後まずは先に回復薬を潰すのは戦いの定石。回復役を潰さない限り戦闘自体が長引いて怠いのはゲームの中でもここでも一緒。つまりリリアンはここに姿を現した時点でこうなる事が決まってたってワケ。慢心のし過ぎだな。


「そぉい!!俺の拳はクズ相手には男女平等なんだよっ」


 回復したばかりの顔を掴んで壁面に叩き付けてやると鼻が砕けて歯も何本か折れたようだ。


「あひゃっ……なにしゅるのよぉぉぉぉっ」


「自慢の顔面造形だけどお前の心根そっくりになってきたんじゃないか?――――うん、いい感じに歪んできたぞ」


「はやくこいひゅをなんとかひろぉバルふぇぶっ?!」


 さらに顔面を殴りつける。母体にダメージを与えてはいけないので結構神経使う。


「……ハッ、いや何先に聖女を襲ってんの?ここは普通私と戦う流れじゃないの?!」


 バルフェが俺に何か言ってるが、お前もぬるい事いってるなぁと笑ってしまう。


「真面目に言うと戦いの中で回復役を先に潰すのは基本だろ?この場合だとまずリリアンの魔力が枯れるまでリリアン自身を攻撃して回復魔法を枯渇させた後で相手してやるからちょっと待ってろ」


「これが人間のやる事かよぉー?!」


 俺としては合理的な戦闘styleだと思うんだが何かバルフェが叫んでいる。慌てて杭を発生させてるようだが自己バフかけている俺の速度の方が杭の発生速度より速いので当たらない。


「そんな攻撃など無駄無駄、遅すぎて当たらないな。そして悲しいけどこれ戦闘なのよね……そぉい!」


 リリアンの襟首を掴みながら顔面を皿に殴りつけると、回復こそしているが回復量が足りないのかダメージが残っていて段々と腫れ上がってきている。


「―――女の顔を殴るとか最低ねユーマ」


 リリアンが俺を睨んでくるが、そこには異を唱えさせてもらおう。


「俺だって普通はレディの顔を傷つけるなんてことはしねーよ。お前は男だ女だって言う以前の問題だろ……そぉい!!」


 頭をヘッドロックしてさらに殴りつける。殴りつけるたびに間抜けた悲鳴をあげながら即座に回復しているが回復速度も回復量もどんどん少なくなってきたので順調に魔力が枯れて来たな?その間もバルフェの杭が俺を狙ってくるが、かすりもしない。速さがダンチなんだよ!


「ブフッ……!!いひゃい、なにやってるのよバルフェ、はやく私をたすけなしゃい!!」


「無駄無駄無駄無駄、そいつの攻撃速度じゃ俺には追いつけない。お前は回復魔法が切れるまで俺に顔パンチされ続けるんだよ。ちなみにお前の魔力が切れた後も義姉上の分まで回復して顔パンチするけどな、ノックしてもしもーし?そぉい!!!!!」


「ぐぎゃああっ、プッ、パッ、ぢぐじょおおおおおおおおおおっ!!」


バルフェの杭を回避しながら延々とリリアンの顔面を殴るが、完全にハメというか“詰み”の状況になったのを理解しているのかバルフェの顔に焦りが浮かんでいる。チラッとクロガネの方を見るとクロガネはローン相手に普通に押していた。

 うん、チェックメイトっしょこれ。


「もうやめでぇ、やめなざぁい!わたひの顔を殴るのやめてぇぇぇ!」


「うん、それ無理。だってお前達がしでかしたことで俺も義姉上も多大な迷惑をうけたんだからな。子供の事が無かったらこの場で殺してたよ。そぉい!」


 懇願するリリアンの言葉をバッサリと切り捨てながら渾身の右パンチをリリアンの顔面にめり込ませる。

 急所に当たったのか会心の一撃か、春日部あたりにすんでいる幼稚園児が母親に殴られたときみたいに顔面が陥没している。……やばいやりすぎたかな?と焦ったが、リリアン自身が緊急発動する自動回復を付与していたようで治癒魔法で回復していた。あぶないあぶない。

 しかし魔力が足りなかったのか回復が追いつききらなかったのか歪な状態への回復で打ち止めとなり、あれだけ自慢にしていた顔面は今はオークとかゴブリンとかみたいに醜くはれ上がり歪んだ状態で固定されてしまっていた。まぁ自業自得の因果応報でしょ。


「おっ、気絶した。魔力切れかなぁ?」


 意識を失ったリリアンを抱えつつバルフェを見ると、顔面蒼白になって震えだした。

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