第23話 聖女教会、邪悪すぎる案件

 ローンとバルフェがリリアンと俺の間を遮るように立ち、リリアン自身は余裕綽々という態度を崩さない。……それだけこの2人の力に自信があるんだろう。

 だがこちらとしても気になっていることを問わなければいけないし、あとついでに色々吐かせたら落とし前もつけさせなければいけないので槍先をリリアンに向けながら問いただす。


「わざわざここに来たのはこの王子の始末をつけることと、俺を裏切り義姉上を追放して病ませた事へのお前の落とし前をつけてもらうためだ。……この事態にお前も絡んでるんだろリリアン?どこからだ?いつからだ?」


 そんな俺の言葉にも、薄笑いを浮かべて余裕の姿勢を崩さない。


「あらあら、身重の淑女にそんな物騒ものを向けるなんて紳士じゃないわよユーマ」


 可笑しそうに笑うリリアン。今、身重と言ったのか……その言葉の意味に、今までの出来事が少しずつハマっていく。


「身重?……それが目的か?なら、今この状況がお前にとって考えうる最上という事か」


 そんな俺の言葉に無言の笑みで返事を返してくる。

 こいつの目的が王子との子供で、それさえ成せば王子も王子の取り巻きも不要だというのなら今の状況は望み通りだろう。王家の血を引く子供がいれば、顔だけ良くて無能な王子も、おべっかばかりで無能な家臣も不要という事か?

 だがそれにしては国をボロボロにする意味が足りないような気もするが。


「―――子供を傀儡にこの国を支配するつもりか?」


 そんな俺の言葉に、堪えられないというように声を上げて笑うリリアン。


「ダメよ駄目駄目、それじゃ全然足りないわユーマ。貴方って本当にお馬鹿さぁん♪……なんで聖女教会が私に仕えていると思う?何でそこのゴミが暴走したと思う?なんで私が今ここで貴方に無防備に姿をさらしてると思う?……貴方は強くなったわ、生意気な位に。でも頭の方は全然だめねぇ」


 散々な言われようだがお前ほど邪悪でも腹黒くもないんだ。わかれよー。


「ローンとバルフェに始末させた連中みたいに、この国の貴族にはゴミが多すぎる。そんな連中が蔓延る国を手に入れてもしょうがないわ、だから国崩しをしたのよ」


「成程見えてきたぞ。今の王家を始末しつつ国の膿を一層して子供を使ってお前がこの国を掌握し、弱体化したこの国には聖女教会が入り込む、と。聖女教会の後ろ盾があれば今蔓延ってる魔物の始末もつけれるだろうし、その名声はお前と聖女教会を支持する基盤になるって事か。お前にとっても聖女教会にとっても一挙両得ってわけだな?」


 王子の暴走含めて全部リリアンの掌の上、か。どんだけ邪悪なんだよこの女。


「いだい、どきゅ……ぐるじい……ぢぐぐじょぉ、ユーマァ……!!リリアンたしゅけちぇぇ……おもにぜんしんがいたいぃぃぃぃぃっ」


 俺の足元でビクンビクンとのたうち回るセドリックが声を上げたが、苦悶の声を上げている姿を見ると哀れな気持ちになる。こいつ自身はどうしようもない事だしやったことは許されないが、駒でしかなかったんだな、南無。


「こいつにマルサルオスとやらの力を与えたのも聖女教会が絡んでたってわけか」


「―――そうだよぉ、英雄クン。私たち聖女教会は聖女を管理し派遣・任命するけど、聖女が価値を維持するためには聖女が必要とされ活躍する土台が継続して必要でしょ?

 問題が長く起きないときは欲神の出番ってワケ。欲神の依代にされた人間は頭が悪くなる代わりに耐久性があがるから、こちらで始末しない限りは他の人間に殺されず欲のままに暴走し続ける便利な馬鹿になるのよぉ」


 まさか答えてくれるとは思わなかったが、俺の質問にバルフェがニヤニヤしながら回答をくれた。というかそれマッチポンプっていうんですが!???聖女教会、邪悪すぎませんこと??

 自分で問題起こして聖女売りつけて……ってそれなんて死の商人。月面にある複合企業とか正体隠して自分の国王軍だけじゃなく反乱軍にも武器与えてる国王様だってそんなあくどい真似しないよ多分。

 ……うん、駄目だ聖女教会に関しては少々骨を折ってでも壊滅させておいた方がいいな、俺の流刑地ライフの邪魔になる。


「……喋りすぎだバルフェ」


 ローンに窘められててへぺろと舌を出しているが、なんとなく分かった……俺の前にいる3人に慈悲は不要という事ね。

 喋りすぎと窘められてはいたが簡単にペラペラしゃべった上でローンとバルフェの2人が隙を見せないのはあちらさんもやる気って事だろうし。

 聖女教会が看過できない邪悪なのはわかったが今の話だけだと情報が足りないのでどっちか1人は最低でも生け捕りにしないといけないので……どう仕掛けるか。あとリリアンをボコボコにする作業も残ってるのでやる事が……やる事が多い!


……そんな事を考えている時、フラフラと俺達の間に割って入る人物がいた。話に集中しすぎたのと、その存在があまりにも弱々しかったから普通に気づかなかったわ。


「ゆ、ゆっく、ゆっぐり……」


 そんな事を言いながらよたよたと歩いてきたのは、ガリガリに痩せ衰え、触れれば死んでしまいそうになっているが国王だった。騒動を聞きつけてでてきたんだろうか?しかし本当に具合が悪そうである。

 国王はのたうつセドリックに片手を置きつつ、俺に向かって額を地面にこすりつけながら伏せた。土下座スタイルだ。


「ゆ、ゆっくり、ゆっきゅ……」


 何かされたのか言葉もまともに話せない様子だが、セドリックの命乞いをしているようだ。

 とはいえもう致命の毒を受けてるから命乞いされてもセドリックは“お前はもう死んでいる”状態だし殺してやった方が楽なのは確定的に明らか。庇われても困るのでどうやって諦めるよう説明するか思案していたところで、セドリックが声を上げた。


「俺がこんな目にあってるのは……お前がくずおやだったからだぁ……子供をゆっくりさせないくずおやは、しねぇ!!」


そう言いながら国王に跳びかかったセドリックが、土下座している王の心臓を背後から抜き手で貫いていた。拘束していた魔法の縄を一瞬で断ち切っている、火事場の馬鹿力的なものだろうか?魔法の縄自体そうそう簡単に切れるものではないので素直に驚く。


「ご、ごぽっ……もっど……ゆっぐり………じだ、がっだ……」


 そんな言葉を遺して国王は息絶えた。マジか、このセドリック到底動ける状態じゃないのに動いて自分の父親を殺しやがったぞ……!流石にこれには俺もドン引きですよ……とはいえ自由に動かれても困るのですかさず槍でセドリックの腹を貫いて地面に縫い付けておく。

 体力を削いでおきたいので刺したやりを時計回りにぐいっと捻って痛みと共にダメージを与えることも忘れないよ!


「ゴブフッ!いちゃい!いじゃいのじぇええええええっ!!」


 セドリックが痛みに悲鳴を上げながら手足をじたばた動かす。流石に串刺しにされていればさっきみたいに飛び起きたりはできないようだが、まだ死なないとかマルサルオスとやらの加護の力凄いなぁ。


「……ざまぁみろくじゅおやぁ!!ぎゃはははははは!!ごぼっ、どきゅう、おもにぜんしんがいだいぃぃぃ、ぐぎゃああっ!」


 現実逃避か、自分の父親を殺した上にその死を嘲りはじめるセドリック。実にどうしようもない奴である……うぅむ、王が殺されてしまったのは迂闊だったかもしれない。まぁ別に国王が死んでもどうでもいいけどね!国王が死んでも我が心は不動。

 ―――とはいえ絞首刑とか悠長な事を言ってる場合でもないよなぁ。聖女教会の駒にされてた事には憐れみを感じるが、国王殺しの現行犯なんだしもうここで息の根止めよう。


「自分のために命乞いしてくれてる父親を殺すとか、お前やっぱりイカれてるよ……お前はここで殺す。いいよね?答えは聞かないけど」


「イーヤー!ヤダヤダ!!!」


 リリアン、ローン、バルフェが見守る中。セドリックのそんな絶叫が響いた。

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