第22話 奸臣の行き着く先はあの世だけ


 なんか必死に懇願してるお貴族様たちの中には謝った事で許された、助かったと安堵している様子の人もいたので根本的に思い違いをしているようだった。

 この先の結果は変わらない連中だからここで始末しても見逃しても別にどうでも良いと思ってはいたけど自分の立場と状況を理解してなさすぎて説明と対応をしておくかとため息を溢す。

 まったく、泣けるぜ。


「ハァ……そろいもそろってどうしようもない奴らだな。まず最初に言っておくけど、お前らが死ぬのはどうあっても避けられない。もしここで俺に見逃されても死に方だけの問題で殺されるのは不可避だぞ」


 そんな俺の言葉に、顔を上げて呆けた顔をしたり、信じられないという顔をしている。いやいや、何その聞いてませんみたいな顔っ!


「まずな、大臣筆頭にお前らが王子担ぎ上げるために俺や義姉上を追放したのが事の発端なわけで今のこの現状に至った責任ってのがあるわけだ。

 だから与した王子がこれだけやらかした時点まぁ、普通に死罪になると思うぞ。そもそもというか多分お師匠がお前らを許しておかないだろうし普通に国の膿だから、お師匠が回復したらまとめて死刑台送りになるんじゃないかな」


 そんな俺の言葉と、お師匠を引き合いに出されて信じられないという顔をしているが、容赦なく続ける。


「で、俺のスタンスについても説明しておくけど、俺はこの国に関しても興味がないわけで、怒りってのは通り過ぎると無関心になるんだよ。

 わざわざ相手するのもあほらしいってわけね。だから俺の流刑地の生活の邪魔になるものであれば排除するし、そうでないならわざわざ手討ちにする手間と時間がもったいなかったからお前ら含めてこの国の連中を捨て置いてただけ。

 で、いまみたいに事のついでっていうなら折角だし俺の手で引導渡してもいいかな、と思う訳よ」


 槍をくるくる回しながら話していると失禁する者や泣き叫んで命乞いを始める者も出てきたが、無視。


「後は今の王都の惨状から城を出た時点で市民に誅殺される可能性もあるし、たとえ領地に逃げ帰る事ができても命惜しさに見捨てた領民に叩き殺される可能性だってある、落ち武者は農民に狩られるのが常だし。というわけでお前たちに出来るのは死に方を選ぶ事だけで、どうあがいても絶望ね」


そんなの嫌だぁ、とか、嘘だ、とか、口々に騒ぎ立て始めたのでとりあえず放電して威嚇し、再度黙らせる。


「―――というのをふまえて、ここでまとめて俺に胴切りにされるといいんじゃないかな?

 わざわざ説明する一手間をかけたから、責任持って最期まで面倒みてやるよ。

 大臣には責任者としての義務があるからきっちり裁かれてもらわなきゃいけないけど、アンタ達に関しては法の下で国の膿として処刑されるより俺に報復として殺されたっていうほうがまだ格好がつくと思うけどな?

 その際には一応、真っ二つなだけに出血大サービスでお師匠には“俺がついカッとなってやった今は反省している”って口添えしてやるから残される遺族の扱いは国賊の家族よりはマシになる筈だ。

 家族を慮るならここで上半身と下半身をフレ/ンダされておくのが最上の手だと思うなぁ」


 出来る限り結構懇切丁寧に説明して遺族へのアフターケアも提案したが、なぜか命乞いがヒートアップしている。うむ、どうあっても生にしがみつきたいという鋼の意志を感じるゾイ。


「何故だ、こうして謝っているではないか!!」


「そうだそうだ、謝罪をしたのだから許すべきだろう!」


 中にはそんな風に逆切れしているものもいるので、ため息と同時に説明を付け加えてやる。


「あのさぁ、謝って許すか許さないかっていうのは謝られる側に決める権利があるんだよ。他人に許すことを強要される筋合いはないし、そもそもやられた側が許せないと思うなら許す義務はないんだよ。以上、是非来世で活かしてね」


 そう言いながら槍を構える。一応説明の義務は果たしたしあとはここで粛清してしまおう。


「という事でリリアン探すついでに粛清してやるからよくない子のみんな、あつまれー」


 そんな俺の声に1人が立ち上がり、脱兎のごとく駆け出した。


「いやだ、俺は死ぬのは嫌だあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 まぁ、そういうのもいるよねー。とりあえず焼くかと雷撃を向けようとしたところで、逃げ出そうとしていた男の身体が宙に浮いた。……いや、正確には地面から突き出た杭に、またぐらから脳天までを貫かれて、ビクンビクンと痙攣している。あ、まだ息はあるようだ……致命傷だけど。


「ヒ、ヒィィィィィ!なんていう事を、我々は貴族だぞぉ!この下種ぅぅぅぅ!!」


 串刺しにされた男を観て絶叫を挙げたり失禁したり腰を抜かしたりと反応は色々だが、一応俺はまだ何もしちゃいないので説明しておく。


「いや、俺はまだ何もしていないぞ」


 そう、俺はまだ手を出していない、文字通り誰かが横槍ならぬ下槍を入れたのだ。


「嘘だ!ええいこんな所に入れるかワシは逃げらわらばっ!!」


「誰か背負って逃げてくれ俺は腰が抜けて歩けなぎえぴー!」


「誰か助けを呼んどぅくし!!」


 俺が手を出す前に、その場にいたお貴族様が次々と床から生えた杭に身体を貫かれる。誰も彼もが、致命傷ではあるが即死しないように、そして様々な刺され方で貫かれて苦悶の声を上げながら針串刺しになっていく。なんとなくだけど元居た世界でこういうのあったよな、ドラキュラ伯爵の元になった人だったっけ?

 俺が手を下す前にお貴族様たちは全員やられてしまった……おお貴族よ死んでしまうとは情けない。


「おーおー好き勝手なさる。誰だか知らんが横から余計な事をしてくれるな」


 串刺しにされたオブジェの群れを前にそう言いながら周囲を警戒すると、入り口にローブ姿の男女の姿があった。存在する筈なのに気配を感じないのはあのローブの効果だろうか?

 着ているものに聖女教会の刺繍がある……ということはリリアン側の人間かな。

 女の方は痛んだ赤色みたいな橙色をした髪色をしてどこか人を小馬鹿にしたような態度が滲み出ている美女で、男は紫紺色の髪をした陰がある二枚目だ。どちらも20代半ばくらいだろうか?俺よりは少し年上にみえる。


「アハハハハッ!貫く経験はあっても貫かれる経験は初めてでしょ、ク・ソ・オ・ス・どもぉ!初体験の痛みはどうですかぁ?!!」


 ローブの女が品のないことを言いながらげらげらと笑っているが、言葉からするに眼前の惨状はこの女がやったんだろう。一方で隣に立つローブの男の方はやれやれという様子で首を振っている。


「バルフェ、遊びすぎだ。罪人は苦しませる事なく速やかに処分せねば」


「やぁだやぁだ、お堅いわねぇローン。どうせ殺すなら限界まで嬲って楽しまないと折角の命がもったいないじゃない」


 俺のことを気にしない様子でそんな風に話し合うローブ姿の男女、女の方がバルフェで男の方はローンというらしい。ローンと呼ばれた男がバルフェの言葉を無視しながら大仰に手を打ち鳴らすと、串刺しにされていたお貴族様達が炎に焼かれて悲鳴を上げる間もなく炭化し息絶えた。


「罪深き者達よ、始まりの聖女の御霊の元に還りたまえ」


 そう言いながら祈りを捧げているローン。リリアン側の人間がわざわざ王子サイドの人間を始末する理由なんて考えつく限りどれも碌でもないよなぁと考えながら2人への警戒は緩めず注視する。


「あーあ、もっと嬲って苦しめて楽しみたかったのに。……ってなぁにアタシ達をジロジロみてんの英雄クン?あ~っ、私が気になる?気になっちゃうの~??こっちの陰気な顔した男はローンで、アタシはバルフェ。聖女教会のぉ幹部の一人でぇ~す。恋人募集中でぇ、好みのタイプは死んだ魚の目をして人生を達観した精神してる年下の男の子でーす、君みたいな……きゃっ♡」


「ごめんなさい好みじゃないです」


「ぶち犯すぞクソガキ!!!!!!!!!!」


 バルフェがこっちに絡んできたので正直かつ端的に答えたら即切れされた。おお、こわいこわい。

 情緒の上下が激しいというかなんかあまり関わりたくない感じがするなぁ。あと犯すとか言っちゃうのもの品がないからあまりよくないと思うなー、なんて思いつつも警戒の手は緩めない。この2人、マイペースな態度をしてるが隙がないのだ。場慣れした手練れ、リリアンの虎の子ということかな?


「……お前ら聖女教会だろ?なんでわざわざこいつらを?」


 情報を少しでも引き出したいのと純粋に興味本位から聞くと、バルフェは口の端をつり上げてにたり、と嗤った。


「だってぇ、こいつら君の獲物だったんでしょ?人のモノを奪うのって最ッ高にエクスタシーじゃな~い?たとえば恋人だとかぁ大切な人だとかぁそいういうのもさぁ!!」


 ………うん、性格最悪だこの女。隣でローンがこめかみを抑えているけどお目付け役大変ですね。


「なんでもいいけど俺はクソビッ……リリアンに用事があるんで。邪魔するなら一戦仕るけど?」


 そんな俺の様子に首を振りつつ扉を開けるローン。


「その必要はない。聖女は君に会うと言っている」


 そんな言葉と共に開かれた扉の奥から、良く見知った顔が部屋に入ってきた。


「久しぶりね、ユーマ」


「……リリアン」


 俺の幼馴染であり、恐らくこの騒動の中心に在る女が、そこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る