第21話 困った時の命乞い


 という訳で毒を食らって死に体になっているセドリックだったが一応身動きできないように魔法の縄で縛っておく事は忘れない。ついでに逃げれないように背中のスラスター…もとい羽根も力任せにもぎとっておこうねー。

 ……とはいっても、こいつを連れて王城に行って万一こいつが暴れて被害が出たとしても“今この状況で王城にいる連中”なんて禄でもないやつらばかりだから別に被害が出たところでという感はある。


 魔物に侵入されて国が大変な事になっているのであればまともに領土を運営したり領民を大切にする人なら自分の領土に戻って魔物と戦っている筈。

 つまり、今城にいるのは、自分の立場と命欲しさに城に逃げ込んできたクズ、もしくは王家にべったりの王都住みの連中ばかりなんだよなぁ。

 まぁそれはさておき、この騒動の恐らく中心にいるリリアンにはけじめをつけてもらわないといけないのでどのみち城にはいかないといけない。


 ……という訳で再びドラゴンになったクロガネに乗っけてもらい城まで行くと、地下から屋根まで貫通する大穴があいていたのでそこから王城へと入った。

 丁度謁見の間だったので、首根っこ掴んで運んできたセドリックを放り投げてから着地してやると、そこに居た貴族や重臣たちが俺とセドリックを交互に見て驚きの声を上げている。……残念、ここにはリリアンはいないようだ。


「ユ……ユーマ殿だ……」


「あ、あれはセドリック様…!!」


 何が起きたのか理解できていないような顔や呆けた顔をしているのが大半なので無能だなぁと何とも言えない気持ちになる。

 よくよく顔ぶれを見てみれば俺の追放劇の時に大臣や王子に同調していた面子ばかりだし。ほらね?


「―――好き放題暴れまわっていたセドリックは俺が仕留めた。この事に異論があるなら相手をするから名乗り出るといい」


 そう声をかけてやると、俺がセドリックを倒した事をようやく理解してざわざわと相談を始める。けどやはりそろいもそろって無能なのでは??


「……たとえ王子といえどセドリック様、いや、セドリックの行いは処罰されても仕方がないものだろう。討たれてやむなし!!我らに責任なし!!」


 貴族の中でも偉い立場なのだろうか?一人の壮年の男がそう声をあげると、そうだそうだと周りが追従した。うわぁ……、うん、なんていうか終わってるわこの国。


「しかしなぜ追放されたユーマ殿が?ハッ、そうかやはりこの国に産まれた身、追放されても国に尽くすつもりなのだな!」


「おお、そうかなるほど感心な事だ!それならこやつにはやくその他の国難にも対処させよう」


「ならば恩賞を出して対応させるのがよいか?」


「馬鹿言え、そんな勿体無い。追放されて爵位もないのだから無償奉仕させればよいのだ!!」


 黙って聞いていれば何やら話がナナメ上の方に転がっている、しかもかなり自分たちに都合の良い解釈で。そもそも本人を前に滅茶苦茶になめた事を言い合ってるがこれが貴族脳ってやつなのかな?……一回全員死んだ方がいいんじゃないだろうか。

 なんか俺は国のために働きたくて国難に駆け付けたから無償奉仕でこきつかえばいいみたいに話しがまとまってるけど、聞いてるだけで不愉快になるって相当なものですよ?

 そういう方向で話がまとまったのか、代表して豊かなひげを蓄えでっぷり太った年長の男がしたり顔に上から目線で俺を小馬鹿にしながら指示を出してきた。


「武働きご苦労であったなユーマ。貴様の働きを褒めてやろう。では次は急ぎこの国を襲う魔物達の討伐に迎え。すぐでいいぞ」


 あぁ?何言ってるんだこのヒゲデブおやじと俺が怪訝な顔をしてみていると、そんな俺の態度に周囲の貴族がヤジを飛ばしてきた。


「いきなりそんな高圧的な態度をとっては恐縮してしまうのでは?やはり形だけでも下手に出るべきではないだろうか!」


 別に恐縮なんてしてないしこのアホ達何言ってるんだろうねと思ってるだけなんだけどね、あと本人を前に形だけでもとかいうなよ実に貴族脳……人を舐めるのも大概にしておけと小一時間問い詰めたい。そこまでにしておけよ糞貴族。


「何を言うか、それにこういう事は最初の態度が肝心なのだ!どちらが上か、上下関係と立場はハッキリさせておかねばな。さぁ、はやく領土に侵入した魔物を討伐してくるのだ、ユーマ」


 何様だこのオッサンという思いはさておきこのおっさんは今一ついいことを言った。


「そぉい!!」


 そんな掛け声とともにおっさんの顔面を“死なない程度の力”で殴りつけてやると、鼻が折れ砕けた歯を宙にまき散らしながらヒゲデブおやじが吹き飛んでいく。


「―――立場はハッキリさせておく、ね。それには賛成だ。あのさぁ、何でお前ら俺に指図できる立場だと思ってるの?」


 そう言って全方位に向かって放電しながら威圧をすると、その場にいた人間たちが揃って悲鳴を上げ動きを止めた。よし、いい子だ。立場はハッキリさせておかないとね。


「……いまここにいる連中ってさぁ、俺と義姉上が追放されたときに王子や大臣達にのっかってた連中ばっかりだよな?冤罪ふっかけて追放しておいて報復されないとでも思ってるとかどんだけ頭ハッピーセットなんだよ」


 そんな俺の言葉に呆然と立ち尽くしている。

 ちなみに見た限り、当然だがお師匠の一派の人間はここにはいないし、旅の中で轡を並べて戦った僻地の領主達の姿もなかった。そういうまともな人は自分の領地に侵入してきている魔物との戦いに忙しいのでこんなところでぬくぬく油を売って保身してる場合じゃないだろうし。つまり……ここはクズの煮凝りってコト。


「言っておくけど追放された時点で俺はこの国と縁はないし、助ける理由も従う義理もないからね。そもそも普通、この状況なら報復で殺されることの心配するもんじゃない?何俺を顎で使えると思ってるんだ―――わけがわからないよ。

 あと、国に魔物が侵入されているっていうのに自分の領地はどうしたんだ?自分の命可愛さに城に逃げ込んでたんじゃないよな?」


 図星だったのが居並ぶ貴族達がバツの悪そうな顔をしている。

自分を特権階級だと信じ込んで、自分だけは安全な場所に逃げ込んでも許されると思ってる馬鹿達。なんてくだらない連中なんだろうか。


「このアホ王子を始末しに来たのはこいつの奇行が邪魔で迷惑だったからだ。別にこの国の為なんかじゃないし、俺の私情だからな。

 んで、付け加えておくと此処に雁首揃えてるあんたらは大臣や王子のしかけた冤罪追放にいっちょ噛みしてた連中だからどっちかっていえばこの場で俺に撫で斬りにされても文句言えない立場なんじゃないの?」


「ひ、ひいいいい!命だけはお助けを!!」


貴族の中の1人が地べたにひれ伏しながら命乞いを始めた、判断が早い。


「お、お許しください!!私は従わされただけなんです!」


「そ、そそそそうです私はユーマ殿と敵対する意志などありません!!」


「そこの王子はどうなってもいいので儂はどうかお助けを!!」


 一人がひれ伏せばそれを皮切りに次々と平伏して命乞いを始めた。

 どこまでいってもわが身可愛さだけで生きてる姿に見ていてゲンナリしてしまう。……わざわざ殺すまでもないってこういう奴らの事を言うんだろうなぁ。


 城に来た目的はあの幼馴染にケリをつけることなんだけど、……この必死に命乞いする集団をどうしたものかとため息をついた。

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