第18話 逆賊王子を討とう!

 

「さて、あとはこの子についてだけど―――」


 そう言ってからエシェックに視線を動かす。

 当のエシェックはといえば気絶しているハゲと俺を交互に見たあと、静かに瞳を閉じて頷き、俺に背を向け―――いや、尻を向けているのかこれ。


「……どうぞ、ご随意に」


 足を震わせながら覚悟を決めたように言うエシェックの様子に、ヒルダが半目で俺を視ている。クロエはお茶をいれてるので特に気にしてない…ブレない!

 いやいや、俺はこんな子を折檻するようなおにちくさんじゃないよ!!


「ちょっと待て、誤解だ!俺は君をどうこうするつもりはない!」


 俺に向かって尻を向けているエシェックに対して説明しつつ、危害を加えるつもりがない事をアッピル……じゃなかったアピールする。

  そんな俺の様子に戸惑う様子を見せるエシェックだが、その従順さと忠実さにハゲがこの子をどう扱ってどう物事を教えてきたのか垣間見えてハゲに折檻おかわりしたくなってしまう。ハゲは法の下に裁かれて処断されてね、すぐでいいよ!

  

「いえ、私はゲルハート様の下でユーマ様の名誉を害する噂を流布しました。罰を受けて当然の身です」


 うん、エシェックが隠さず正直に告白してくれてるけどやっぱりこのハゲ裏でそう言う事やってたのか!!!!!!!そうだろうと思ってた!!おいこらハゲ!!!お前、本当によくもまぁどの面下げて俺の所にきたんだろうね!!

 死んだ方がいいと思うので王国にはぜひともハゲの首をキュッとねをしてほしいな。


「あぁ、うん。でもそれってそこで痙攣してるハゲが指示しただけで君がやりたくてやってたことじゃないでしょ?なら別に君を責めるつもりはないから」


 俺の言葉に困惑しているエシェック。

 この子は一度ハゲから話して落ち着いて暮らしたらいいと思う。なんなら暫くこの街で暮らしてもらっても構わないし、必要なら俺の名前を使ってもいい……糞親のハゲは王国に突き出すけど。

 不安そうに俺を視ているエシェック、その目元はリリアンやハゲに似ているが全体的に物静かな雰囲気や性格は母親譲りなのだろう。

 ……俺にはこの子が他人に思えない。親に愛されずに道具として扱われ、自分がわからなくなっている。迷子のようなその瞳にかつての自分を感じるから、放っておけないのだ。今の俺はどうせ自由の身だから―――別に、この子を助けてしまっても構わんのだろう?

 とまぁ、俺が義姉上にそうしてもらったように、この子が前を向ける手助けをしてあげたいと思うのだ。

 とりあえずハゲは拘束した後で館で勾留しつつ、騒動が落ち着くまでエシェックはお客として館に滞在してもらう事にした。義姉上の事を含めてエシェックに対する細かな世話はヒルダがしてくれるので助かる……なんだかんだで王家の血を引くお嬢様なんだよな。


 そして翌日エシェックの今後について相談していたところに、知っている顔の女騎士が駆け込んできた。


「ユーマ殿、突然すみません……ヒルダ様、……ランドルフ様が敗走されました!」


 護衛さんが息も絶え絶えになりながら言う言葉に本気で吃驚する。王子の反乱にお師匠が向かったとは聞いていたけどあのお師匠がアホ王子に負けるはずがないと思っていたのに。

 この人はお師匠の所の護衛を務めている一人だから本当の事なんだろう。

 ……不幸中の幸いか、義姉上の体調があまりよくなく自室で臥せっている最中だったので、俺とクロエとヒルダで護衛さんを介抱しつつ話を聞くことにする。


「逆族セドリックは王家に伝わる至宝、英雄の鎧を装備し、ランドルフ様と戦いました。はじめこそ鎧の力を駆使した空中戦で圧倒していましたが、時間がたつにつれ戦闘経験の差と体力の差で形成は逆転し、ザナ様の射撃で動きを封じられては戦車にひかれる事の繰り返してセドリックは手も足も出ず、最後は地表に叩き落されて戦車に跳ね飛ばされ続ける玩具のような無様な防戦一方へと追い込まれて行ったのですが―――」


 あー、わかる。身の丈を越える新しいパワーを手に入れると自分の許容限界超えて戦っちゃったりするよね。そういえば転生前にみた映画で、きんぴかの強化フォームになった悪役がなんかそんな理由で負けてたっけな。護衛さんが詳しく戦いの様子を教えてくれるのを聞きながら、あの王子とお師匠とじゃ経験の蓄積が違うからそりゃそうなるよなぁとひたすら頷きまくった。

 というか、王子自体がクソザコナメクジなのを差し引いても伝説の防具を装備してる相手を返り討ちにして圧倒するお師匠の方が多分ヤバい。


「―――と、そこで自身の窮地を理解したセドリックは、卑怯にも戦車に同乗しているザナ様だけを執拗に狙ったのです……!!」


 やっぱあのクソ王子ゴミだな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 恥という概念は無いのかよ、……無いよなぁ。躊躇なく汚い手段を選べるのはひとつの才能かもしれんけど少なくともそれは人の上に立つ人間が取るべき手段じゃないんだよなぁ。


「ザナ様を庇い、ランドルフ様は重傷を負われました。

 勝ち誇ったセドリックはザナ様を攫って凌辱することを声高らかに宣言してからランドルフ様へのとどめをさそうとしたのですが、我らがランドルフ様から下されていた待機命令を無視して戦闘へ介入しました。

 私を除いたほとんどの騎兵がセドリックに討たれることになりましたが、なんとかランドルフ様とザナ様を逃がすことはでき……一番速度の出る私だけが、伝令としてこちらに走らされました」


 唇をかみしめ、悔しそうに呻く護衛さん。主君と仲間を置いて戦場を後にしたんだからその胸中は筆舌にしがたいものがあるんだろう。わが身可愛さに真っ先に逃げ出したハゲに爪の垢でも煎じてのませてやりたいところである。


「そして、ユーマ様へランドルフ様からの伝言です。『儂を助けようとするな、自分が真に守るべきものを見誤るなよ。それとすまんがヒルダを頼む。楽しかったぞ、達者でな』です」


 ……それだけ?だなんて思わない。お師匠がどういう人かは十分に理解していたから、 言葉達にこめられた師匠の気持ちを察して、俺も唇をかみしめていた。

 もしかしたらお師匠はこういうトラブルも可能性に含めて、ヒルダを俺の所に遺したのかもしれない。何かがあっても、王家の血が絶えないように……。


「そしてヒルダ様には一言、『強く生きよ』と」


 そんな言葉にヒルダは青い顔をしつつも、目に涙をためている。お師匠と妹の事が心配なのはわかる。そしてその言葉に、お師匠が死を覚悟していることも。そりゃつれぇでしょ。


「……無念、です」


 限界を越えていたのか、意識を失った護衛のお姉さんをクロエがすかさず治癒している。傷自体は治るが精神的な消耗が激しく、何日か安静に寝かせた方がよいとの事なので空き部屋に連れていき寝かせた。

 そしてヒルダは護衛さんの傍らについていた。その肩が震えているのを見逃さず、しかし今は2人にさせておこうと部屋を出て後ろ手に扉を閉める。


「征(い)くんだろ、大将」


 かけられた声に横をみれば、人に姿を変えた相棒が壁に背を預けながら俺を待っていた。最近は義姉上のお守りを任せていたが、ここ一番の道連れはやっぱりお前だよ、クロガネ。

 

「あぁ。俺がセドリックを討つ―――付き合ってくれるか、兄弟」


 ぶっちゃけ王国はもう終わりだと思うし、崩壊は止まらない。それに王国をいまさら助けるつもりもない。

 ただ、俺の恩人を傷つけ、俺の大切な人たちを泣かせたあの王子はこの手で引導を渡さなければいけない……いや、俺がこの手で渡してやりたいのだ……オレァクサムヲムッコロス!!

 それと、この騒動に中心にいるはずなのに一人だけ安全地帯にいる俺の幼馴染である元婚約者―――リリアンにも逢って話さなければいけない。ここの生活が落ち着いたら落とし前つけさせようと思っていたが、今がその時だ。

 そんな俺の心の中を知ってか知らずか、俺の言葉にニッと爽やかな笑顔を向けるクロガネ。


「あのアホ王子の顔面を……今度こそ変形させてやろうぜっ!!」


 そんなクロガネの言葉に俺も笑みを返す。

 さぁ、王子狩りの始まりだ……!!

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