第17話 今更掌返して助けて欲しいとか、もう遅い(後)
穏やかな心のまま激しい怒りをあらわにするが、ヒルダは珍しく静かに見守っていてクロエは無言でお茶を飲んでいる。……エシェックはおろおろしてるけど君は落ち着いてゆっくりしていってね!
なのでこの部屋の中では怒髪天の俺と、怯えるハゲだけが動いている。
「まずな、自分の娘を物扱いとか気に入らん。大体私生児だ婚外子だっていっても人間なんだ、そんな雑にあつかっていいもんじゃないだろ、俺だけじゃなくてお師匠はそれ知ってるの?あのひとそういうの滅茶苦茶嫌いな筈だけど」
俺の言葉に思い至るところがあるのか答えに窮している大臣もといハゲ。これはどさくさにまぎれて紹介して難を逃れようとしたけど渋い顔自体はされたのかな?おぉ、クズいクズい。
「あと大臣が国の窮地とかいいながら真っ先にケツまくって逃げ出してるのっておかしいだろ。こんな所に助けを求めにってのは聞こえがいいけど逃げ出してくるとか恥とかないの?」
「ヒィッ!そ、それは―――あの王子を止めれるのは英雄のユーマ殿しかいないと思ったわけで……」
ハゲの怯える声。しどもどろになりながら言い訳を言っているが、滝のような汗を見るとハゲが逃げ出した時点で王子を止めようとしている勢力はいたな??
「ふーん。じゃあ聞くけどあんたが逃げ出した時点でその暴走する王子を誰も止めようとしなかったのかな?……正直に言えよ」
「そ、それは……ランドルフ、王弟、殿下が征圧に向かわれまして……」
「ハァァァァァァ?!?!何言ってるんだよお前それでも大臣かよこのハゲーッ!!お師匠―――王弟をおいて自分だけ逃げ出すとかお前普通に敵前逃亡で処刑されても仕方ない案件でしょ!!!」
アホだこいつバカだこいつクズだこいつ。政務はできるかもしれないけど生きぎたなすぎるし聞こえのいいこと言ったりしても追い詰められるたらただの生き汚い大人じゃねーか。というか王弟が虎口に飛び込んでるのに自分は最速逃亡とか到底許される事ではないと思う。……あぁ、だから俺を頼ってきてるのもあるの那、だって何もせずにいたらただの逃げ出し野郎だから俺を頼ったっていう大義名分が欲しいのか。いや俺を巻き込むんじゃないよハゲ!!死ぬなら一人で死んでどうぞ。
「そ、それは……私には持って生まれた才能で危険予知があるので……あの場に留まるのは危険と予知が……」
「いやいやいやいやそれ言い訳になってないから。
あとその言葉通りだとお前王弟が命を張ろうとしてるのにそれが危険だとわかってながら見捨てて逃げ出したって事だろ?処刑まっしぐらだろうそんなの。
…・…だから俺に助けを求めたって事にしつつ俺を担ぎ上げてあわよくば俺が事態を解決したら自分の手柄にしつつ―――みたいに考えたのかもしれないけどお前に助けを求められて動くわけないだろ常識的に考えて」
俺は淡々言葉をつづけるが、それに言い返せず俯いているハゲ。なんとか俺を言いくるめようとしてるんだろうけど無理無理、俺普通に怒ってるしこのハゲ助ける理由ないもん。
仕事はできるかもしれないけど人とか親としては好きになれないオッサンだな。俺がいた日本とは考え方そのものが違うからなんだろうけど少なくとも俺の好き嫌いとしては……こいつは死んでいい奴だから。
「あと、そもそもあんたが裏で余計な事をしたおかげで事態がどんどん悪化してここに至ってるんじゃないの?王子がリリアンに懸想して寝取り行為した後、根回しして裏であれこれしたのもあんただよな?結局今の事態って王子の裏であんたが失敗してきたツケなんじゃないの?」
「そ、それは……ユーマ様には申し訳ない事をしたと思っています」
「それ今になっていう事かよ?王国がズタボロになって俺を頼ってきたから言ってるだけだろ、どの口でそんな事言えるんだよわけがわからないよ」
再び何も言えずもごもごとしているハゲ。
自分なら言いくるめが出来るとでも思っていたのかもしれないが普通に考えてお前への好感度なんてマイナスでしかないってわかれよな、これが貴族脳ってやつなのかな……?
「あとさぁ、この子の名前っの意味ってさぁ」
そういいながらエシェックを見る――――確か失敗、って意味だったかな。
なんて名前を子供につけるんだ。それもまた、この子を道具扱いしたこと以前にまず気に入らなかった。
「そ、それは産まれる筈ではなかったから―――」
「黙れ!」
思わず傍らの机をドン!と叩いてしまう。どんな理由があっても自分の子供に“失敗”なんて名前つけてもいいと思ってるのか?子供は自分のペットじゃないんだ、親が与えた名前を背負って生きていくんだぞ。生前の社畜だった俺もキラキラネーム(笑)をみてなんだかなぁと思ってたけどここまで酷い名前は初めてだしエシェックが可哀想すぎる。
うん、このハゲここで息の根止めてもいい気がしてきた、不快感が凄い。
ちなみにハゲは机をたたいた音におびえてブルブル震えていた。
「こ、この子は母親に似た従順な性質なので名前にも不満はもっておりません―――」
「黙れ!」
再び机をドン!と叩いてしまった、これじゃ天丼だよ。それと黙れと言って机をたたくのは色々とよくないから自重しよう。
しかしエシェックが従順だとわかっていながらそれを道具として使い潰そうとする当たりナチュラルにこのハゲのクズさが垣間見えるな。
そして二度の机ドンに命の危険を感じたのか失禁もしている。うわぁ、ハゲオヤジの尿漏れとかみたくないわぁ……。
「ど、どうかお許しをユーマ様ぁ……!」
「何をどう許せってんだよ……許すとか許さないとかじゃないだろこんなの、俺この短時間であんたが嫌いになりすぎて反吐がでそうだもん」
「ヒィィィ、どうか見捨てないでください!こ、このままでは私は破滅してしまいますぅぅぅぅぅぅぅっ」
「破滅した方がいいんじゃないの?知らんけど」
「そ、そう言わずどうか!エシェックがお気に召さないのであればリリアンとの復縁もまたなんとかいたしますので何卒!!!」
「何卒じゃねぇよそれこそ絶対嫌だよ―――モルスァ!!」
ハゲが泣きながら縋り付いてきたので咄嗟にビンタして吹き飛ばしてしまう。あふぅん、と情けない声をあげながら地面を転がるハゲ。リリアンとよりを戻したいだなんて1ミリも思うわけないだろ……というかリリアンに王子との子供デキてたりしたらどうするつもりなんだこのハゲ。必死になるあまりその場しのぎで適当な事ばっかり言うんじゃないよ。
俺がサザランドの家で政略結婚の道具扱いされてたのはあんただって知ってるだろうに、まったく。
「うっ、うっ、なんと理不尽な…………うっ、うっ」
しなをつくってすすりなくハゲ、普通にきもちわるい。だめだこのハゲ、なんとかしないと……。
「理不尽って……お前さぁ、もしかしてまだ……自分は偉いから死なないとでも思ってたりしない??」
そう言ってグッと握りこぶしに魔力を込めて雷を帯電させる。
正直このハゲと喋れば喋るほど殴る価値もない駄目な大人だなぁと思うんだけど、言って駄目なら体にわからせるしかあるまい。
「―――おうハゲ、ヨツンヴァイン……じゃなかった四つん這いになるんだよ。あくしろよ」
俺の言葉に困惑しつつも、スパークでロックアクションしてる俺の帯電状態に命の危険を感じたのかケツをこちらにむけて四つん這いになるハゲ。うーん、最悪な絵面だなぁ。
「さぁ、お前の罪を数えろ―――ひとつ、自分の利益のためだけに裏で動いて理不尽な婚約破棄をするんじゃない!!!
「にょわーっ!!」
そう言いながらハゲのケツを思い切り叩くと、ハゲが悲鳴を上げた。業腹だけどこのハゲ非戦闘員だし、さっきワンパンしちゃったときの様子を見ると王子にやったみたいに連打すると死んじゃいそうだから苦肉の策である。
スパークしながらのスパンキング、これはとっても――――エレクトリカルなコミュニュケーション。……誰にも邪魔させないっ!
「ふたつ、人を嵌めて切り捨てておいて困ったら掌返しをして助けを求めに来るんじゃない!!」
「ワァッ……!!」
「みっつ、自分の国の王族が戦ってるときに自分だけ逃げ出すんじゃない!!……自分の娘に重症負うほど戦わせて自分だけ助かろうとするんじゃない!!」
「はにゃ~んっ!」
「そもそも自分の娘を物扱いするんじゃないっ!!」
「サカナーッ!」
「そして何よりもっ!お前が無茶苦茶したせいで心が壊れた義姉上の所にどの面さげて来てんだこの恥知らずの大馬鹿野郎!!!」
「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ!!」
最後の一発に死なないギリギリまでダメージが与えれるように魔力を込めてスナップすると、最後の絶叫と共に意識を失い地面にくたっと倒れ込んだ。残っていた髪の毛がアフロになってしまってるけど、仕方ないね。
とりあえず俺からの制裁は完了としておこうかな。
……このハゲは騒動が落ち着いて王国に送り返したら普通に処罰されるだろうしこれぐらいでよかろう、公の場で裁かれて罰を受けてどうぞ。
「……ところで皆さま、お茶のお代わりはいかがですか?」
クロエがいつも通りの抑揚のない声で皆に聞いている……さすがクロエ、こんな時も自分のペースを崩さない。
「俺は一杯貰おうかな。……でもその前に手を洗ってくるわ」
苦笑しながらクロエに返事をする。さて、ハゲの始末はつけたのであと残るのは呆然としながら成り行きを見守っていたエシェックの事と、王都の戦いがどうなったか……かな。
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