第15話 (自称)完璧で究極のプリンス、力を手に入れる【王子視点】


 オジキにボコボコにされてから、俺は城の一角に押し込められ自由を奪われていた。

 ……一国の王子にするべきことじゃないってのに誰も俺の言う事を聞きやがらねぇ。

 リリアンや限られた従者が俺の世話にくるだけで、まるで幽閉でもされてるみたいだ。

 まるで犯罪者のような扱いに苛立ちを隠しきれず物に当たり散らすしかなかったが、リリアンはそんな俺にも変わらず優しく俺の話も愚痴もずっと聞いてくれていた。

 そんなリリアンへの愛しさが募る一方で、リリアンに愚痴るしかない自分の無力さに歯噛みするしかないく……力への渇望は日々大きくなっていた。

 そして今日も今日とて、リリアンに泣きながら不満を聞いてもらっている。


「くそっ、くそっ!俺は王子だぞ!プリンスだぞ!!その俺がこんな扱いをされるなんて許せないだろ!?悔しい、俺に力があれば……!!」


 ついに耐えきれず、そんな事を口走った時、リリアンはふと不思議そうな顔をした。


「……力?王子はすでにご立派な加護をお持ちではありませんか」


 そんな風に可笑しそうに笑っている。加護?力?何を言ってるんだ、そんなものがあれば俺はユーマやオジキにいいようにやられたりしてないだろうが。


「王子は加護をお持ちですわ。それも特等の、太古の神の。……欲神マルサルオスの加護をその身に宿しておられますよ」


 欲神マルサルオス??!その名前は知っているぞ、太古の昔に世界を統一しようと世界を大混乱に陥れた神の名前だ。

 聖女教会に封印されているが現存する神の一人で、突然この世界に現れて当時群雄割拠だったこの世界に覇を唱えようとした男神。

 欲望のままに行動したからとも、この世界で助けた少女の従者を連れていた事から性欲にちなんでともいわれるが、ともかく欲神というロクでもない名前で呼ばれている神。

 そんな神の加護が、俺に?……いつの間に?!


「細かい事はいいじゃありませんか。それに例え欲神であろうと力は力であることに変わりはありません」


 ……なるほど、確かに!!リリアンの言葉にハッとして頷く。俺をひどい目に合わせたユーマやオジキをボコボコのグチャグチャにできるならなんだっていい。そうだ、俺はこの国の支配者なんだ!!力に綺麗も汚いもないよなぁ?!


「王族の義務決断する事です。どうか、王子の心のままに」


 そういってにっこりと笑顔を浮かべるリリアンに、背中を押されるような心地よさを感じる。そうだ、俺は王子、そしてこの国の王になる男なんだ。なら欲神だろうとなんだろうと俺に力を与えてくれるなら大歓迎だ。

 そう、俺は完璧で究極のプリンス、俺が欲しいものはなんだって俺が手にしたって良いはずだ。俺はこの国で一番偉いんだからな!!!!!!!!!!!


「俺は力が欲しい!この国に眠る最古の最強の力が欲しい!誰にも文句を言わせない、誰にも無能などと言わせないほどの圧倒的な力が欲しい!歯向かうものを1人で皆殺しにし虐殺し殺戮できる唯一絶対の圧倒的な力が!!」


 拳を振り上げ叫ぶ俺の言葉にリリアンが優しく頷いているが、そんな姿を見胸が熱くなる。リリアンは見た目も心も美しい本物の聖女だ、俺に相応しい!!リリアンのためにも俺は圧倒的な力でこの国を支配しなくては!!


「―――王子の力になりたいと思うものはこちらに」


 そう言いながら幽閉部屋の入り口をすっと手で指し示すリリアンの言葉に視線を動かすとフードとローブを纏った2人の男女がいた。どこから侵入したか?など些事は気にしない。俺に力を貸すというのならそれでいい。


「ほう?お前達、名は?」


「名乗るほどのものではありません。セドリック王子のお力になりたいと願うだけの名もなき従者に御座います」


 男の方がそう言う。フッ、なんともいじましいではないか!やはり俺の圧倒的なカリスマなら仕方がないよな!!

 万事おぜん立てはされていて、後は俺の意志ひとつだというのならば迷う事は無い。


「いいだろう。俺は――英雄になる!!!貴様達、俺の栄光のロードのを拓け!!」


 そこからは早かった。部屋にリリアンを残し、2人に道を拓かせていく。

 幽閉されていた場所の出入り口を固める兵士を含め宝物庫までの道のりの邪魔な奴らはローブの男女がすべて始末してくれた。

 ローブの裾に見えるのは聖女教会の紋章……成程、リリアンが連れてきてくれたのだろう。

 そして辿り着いた先はこの国を建国した古の英雄の一人の遺物が眠る場所、宝物庫だ。

 国王ですら滅多に立ち入る事を許されぬ場所で厳重な警備が敷かれてはいたが、ローブの2人に打倒されて行き俺は難なく宝物庫までたどり着くことが出来た。

 2人の魔法で宝物庫の扉が破壊され中に入れば、大小幾つもの宝が整頓されて陳列されていた。だがその中でも部屋の中央に鎮座する“それ”へ、真っすぐ歩いていく。


 ―――白を基調にところどころを青色で彩られた、翼を持つ人ような出で立ちの鎧。額から左右へと大きく横に刃のような角が伸びた兜、装着者の顔を完全に隠してしまうような仮面。この世界で使われている甲冑とは意匠も何もかもが異なっている。

 これこそが王宮の地下、宝物庫に眠る至宝。世界を大混乱に陥れた欲神を討つべくこの世界に現れた英雄が装備していた伝説の鎧。王家の至宝として封印され続けていたその鎧を着込んでいく……が、


「ゆんやぁぁぁぁっ?!いぢゃい、おもにせなかがいぢゃいいいいいいい!!」


 ぞぶり、ぞぶりと背中に何かが突き刺さり入り込んでくる痛みに悲鳴を上げた。肉の中に何かが入り込んできているぅぅぅぅ!!?

 ……くそーっ、だが英雄となり俺を逆らうカスどもを皆殺しにするための力を手に入れるためだ、この程度の痛みに嘆いていられない。さぁ、目覚めの時……!!


「俺は手に入れる、最強の力を、最高の力を。この国に生きる者であれば誰もが逆らう事のできない原点にして頂点の力を、錦の御旗を……!!そして殺す、殺してやるぞユーマ・サザランドォ……!!」


 俺が受けるべき称賛をかすめ取った最低最悪の下種野郎ユーマの顔を思い浮かべながら、煮えたぎる怒りを糧に激痛に耐えきると視界がスッと広く鮮やかになった。

 身体が軽い!装備した鎧はまるで自身の身体と一体化しているかのようだ。


「――――馴染んだ。手に入れた。これが絶対の力、英雄の魂!!俺は……ついに手に入れたんだ!!やったんだぜぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 鎧の傍らに飾られていた2振りの剣を持つが、羽のように軽く重さを感じない。

 羽根、といえば鎧が身体に馴染んだことで理解したが、鎧の背中にある両翼のような装備は文字通りに羽根だった。魔力を篭めれば火を噴射し宙を自由に飛ぶことができる。


「フッフッフ!みていろ。俺がこの国を掌握した暁には、お前たちの名誉は思うがままだ」


「「お見事です、陛下。どうか、ご武運を」」


 そう言って静かに首を垂れる2人に頷きながら、背中に魔力を集めるように篭める。すると翼で増幅された魔力が爆発的な推力を生み、地下の宝物庫から王城の屋根までを一息の間に突き抜けた。


 ……俺は翼を授かった!飛んでるんだぜっ!!


 そうして城を飛び出て穴の開いた城の屋根をはるか下にしながら見渡した世界は、どこまでも青く透き通っていた。おそら……きれい……。

 まるで童心に帰ったかのように心が弾んでいるのがわかる。高揚感が止まらない!さぁ、この手に入れた力で俺は俺のやりたいようにさせてもらうぞ!!!!

 王城の上で直立姿勢で両腕を腰の位置で左右に開き、軽く開いた掌を上にしながら叫ぶ。


「愚民ども、俺の声を聞けぇっ!神話の眠りから今、このセドリック・カイエのもとに英雄の魂は目覚めた!!」


 俺の声は鎧で拡散されているのか、王都全域に響いているようだ……さすが伝説の武具ぅ!!至れり尽くせりだなぁ。

 ついでに仮面のお陰で視力も強化されているのか、飛ぶ俺を指さす衛兵や王城に近い民の姿も見える。有象無象が俺様を見上げているとか最高に気持ちよすぎるんだぜっ!!


「この王国に生まれ育ったのなら、この鎧がどのような意味を持つかはわかる筈だ!!

 この王国を建国した伝説の英雄の力を持つ俺だけが唯一絶対の頂点に立つ権利を持っているのだとなぁ!さぁ、この俺の元に集え!!」


 剣を頭上に突き上げながら叫んでいると、高速で飛行する気配を感じた。鎧を着込んだことで五感が強化されているのか、飛来する“それ”も視てから回避余裕でした。

 空中でダンスのステップを踏むように飛び退けば、一瞬前まで自分がいたところを巨雷鳥と戦車が通り抜けている。

 その空を飛ぶ戦車にはオジキとオジキの娘が1人乗っている。……胸が無い方の娘だけか、そういえば胸が大きい方の娘は王宮に来ていなかったな。貧相な体型はあまり好きじゃないんだが、折角だし捕まえたら後で嬲るか。

 戦車を引く巨雷鳥が旋回し、俺とオジキ達は向き合う。オジキの怒りのままに魔力が零れているのか、戦車の車輪からは雷撃が放電している。


「なんという……なんという事をしたのだ、セドリック……!!」


「この鎧を前に頭が高いんじゃないか?えぇっ、オジキィ?」


 あれほど恐れて小便を漏らすほど震えたオジキの力を前にしても、俺の心は落ち着いたままで挑発する心の余裕すらある。もう何も怖くない!!だが、俺の挑発にも、オジキは静かに俺を睥睨したままだ。

 

「貴様は愚かだとは理解していたがまさか禁忌にまで手を出すとはな。王位の事は後で決めるとして……貴様に関しては儂がここで処断するしかあるまい。それをお前のような者に渡して世に解き放つわけにはいかん」


「誰が愚かだ、俺は天才だ!!

 来いよオッサン。俺は俺に歯向かう者をのこらずぶっ殺してこの国を手にする。圧倒的な暴力という絶対の真理でなぁ!!」


 溜息とともに剣を引き抜くオジキに対し、俺も剣を構える。この鎧の初陣の相手にはぴったりだ。俺をボコボコにしたオジキをボコボコにする、サイコーに気分がすぐれるざまぁみろな展開じゃねーか!!


「言っておくけど宙を自由に飛び回れる俺と、鳥に戦車を引かせて飛ぶオジキじゃ機動力の差で勝負にすらならないって理解してんのかよ?」


「舐めるなよ。この戦車の最大出力というものを見せてやる」


――――いいだろう。オジキはぶった押した後に徹底的に屈辱を味あわせてやるぜぇ。


 負ける気など微塵も感じない。……このオッサンは前座にしかすぎないからな。こいつをブチのめしたら次はユーマ、てめーだ。俺を馬鹿にしたやつ、コケにした奴は絶対に報復してやる!!!!!高鳴る鼓動に興奮しながら、俺はオジキの戦車へと斬りかかるのだった。

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