第13話 廃嫡確定のフルボッコ制裁【王子視点】


「お疲れ様でした、王子。大変な戦いでしたね」


 そう言いながら疲れ切った俺を優しく迎え入れてくれたのは、俺の未来の妻たるリリアンだけだった。この国の王子である俺の大戦は、他の奴らが無能だったせいで散々な結果になってしまった。


 平野での戦いが終わった後の帰国した俺を見る目はどいつもこいつも冷ややかなもので、どう考えても俺は悪くないし元々の原因はユーマにあるというのが解らない無能ばかりという事に俺に不満と不快感を募らせた。

 宮中でも俺の事を「尿漏れ」「やらかし」「無能」と陰口をたたいている不敬者がいるようで、侍従たちにはみつけしだい問答無用で処刑しろと言い含めたが誰も捕まってこない。

 なんてやる気のない無能な従者たちなんだと呆れつつも、俺は予想外の乱入者のせいで醜態をさらさせられた屈辱と怒りに震えながら、やる事のない俺はリリアンとの子作りに励む毎日を送った。


 そんな生活を送っていたある日、巨岩竜の解体や後始末をしていたオジキが作業を終えたとの事で王宮を訪れた。


 ―――その時、俺に電流走る…!!


 ……そうだ、オジキはあの偽英雄屑野郎のユーマと師弟関係だった。

 それならあのユーマに責任とって俺に全裸土下座することを頼んでもらう事も出来るだろう。可愛い甥の俺の頼みなら、二つ返事で受けてくれるはず。

 ユーマに俺の邪魔をした事を国民の前で泣きながら詫びさせて、嬲って痛めつけてやれば俺の気分もスッキリ爽快間違いなし!!!!

 そんな事を考えてウキウキの軽やかステップで謁見の間に急ぐと、胸の無い方の娘を連れたオジキがいた。


「あっ、オジキ!待ってたんだ!!なぁ、あのゴミクズユーマに俺に詫びるように―――」


 そう言いながら笑顔で駆け寄った俺の顔を、鈍い痛みが走った。オジキに殴り飛ばされた、と理解した時にはきりもみを描いてから地面に打ち付けられてゴロゴロと転がっていた。


「にゃ、にゃにしゅるんだぁオジキィ~いたいんだじぇ~っ」


 特に理由のない暴力が俺を襲う?!殴られる理由なんてないのに、合って即座に暴力を振るうとかちょっとひどすぎる!!こんなひどいことされたら俺だって泣いてしまうぞっ!!親父にもぶたれたことないってのに!!


「何をする、だと?……貴様のせいでいったいどれほどの将兵が死んだのかわかっているのかこの大馬鹿者!!こたびの戦の落とし前、どうつけるつもりだ」


 こめかみに血管を浮き上がらせながら憤怒の表情を浮かべるオジキの迫力に、思わず震えあがり縮こまる。


「お、おとしまえぇ?なんでそんなのを俺がつけなきゃならないんだよ。悪いのは無能は将軍とか雑魚のゴミ兵士どもで俺に非はないのに?」


 オジキに睨まれて今にも股間が決壊して濡れてしまいそうになりながらも、俺は眼差しで不屈を訴えながら反論する。不屈の心を持つ俺かっこよすぎんか?


「みすみす兵士を死なせるような戦い方をしておいてその態度はなんだ!!挙句自分の不始末から目を背けて責任を人のせいにするなど、王子だとて許せぬ!!貴様がそういう態度なら、儂も強硬手段を取らせてもらうぞ」


 オジキはそんな風に稚拙で身勝手な言い分で俺を叱責してくる。

 その態度に激しい怒りを覚えつつ周囲を見るが、衛兵たちは黙って事の成り行きを見ているばかり。ユーマの時と言いこの城の衛兵使えなさすぎるだろ‼!俺のために止めに入って死ぬぐらいしろよ!!


「へ、兵士なんてただの捨て駒だろ?そんなのが幾ら死んだって別にいいじゃないか!なんで王族の、王子の俺が責められなきゃならないんだよっ!訳が分からないよ」


「良いか、戦で起きることの責任を取るのが指揮官というものだ!

 まして王子である貴様が自ら出陣して総大将となったのならその全責任が貴様にあるのは当然だ!!

 それになにが捨て駒だ、死んだ兵士一人一人に親が居れば子もいたかもしれぬ、恋人や友もいたのだぞ。そしてその兵士は全ての国の国民なのだ!よくもそんな事を言えるものだな!」


 わけのわからない屁理屈をこねるオジキだが、凄みに圧倒されて竦んでしまう。だが言い放題にされるのは癪なので、王子らしく言い返す。


「国民が何人死んだって王族であり尊い血筋の俺が助かればそれで問題ないだろう!国民の代わりはいくらでもいるけど俺の代わりは他にはいないんだからなぁ!!」


「……この愚か者が!それが人の上に立つ人間のいう言葉かぁッ!」


 吹き飛ばされたまま転がっていた俺の身体が、オジキにに持ち上げられて再度殴り飛ばされる。玉座の下の階段まで転がって行って止まり、痛みのあまりついに失禁してしまった。こ、こんなところで恥をかかせるとはオジキだろうともうぶっ殺し確定しかない!!死ね、殺せ、この糞虫が!!!


「くしょぉぉぉ、誰かそいつをつかまえりょぉ!未来の王たる俺をボコボコにしたんだ、反逆者だ!すぐさま嬲り殺しにしろぉ!惨殺城惨殺即座に惨殺ぅ!!」


 だが兵士も、将も、文官たちも、遠巻きに見ているだけで動こうとしない。なんなんだこの不忠者達は、もう全員纏めて死刑にするか?!


「……これが今の貴様の評価だ、セドリック。最早お前は王子などではない……忠義という物は尊敬されるべき者であって初めて捧げられるものなのだ」


 そう言いながら憐れむように俺を視下すオジキに怒りを覚え、腰の剣を抜いてオジキに斬りかかった。だが剣はオジキの身体に当たると中ほどから折れて切っ先は在らん方向へ飛んでいった。


「折れたァ?!」


「……儂は兄貴とは腹違いの兄弟だった。

 だから正妻の聖女を母に持つ兄貴が国王になればよいと思いこの国を割らぬためにあえて大公ではなく辺境伯の地位へと身を落とした。だがそれはただ単に爵位だけではなく、儂には最前線で戦う方が向いていたからだ。それはな―――」


 折れた剣に驚く俺を気にするでもなく、そう言いながら外套を脱いだオジキの筋肉が隆起する。戒めを解かれたかのように衣服が千切れ飛び、年を感じさせない圧倒的な“力”が露わになった。


「―――儂がこの国最強の戦士だったからだ!!そこになおれ、貴様の性根のゆがみを叩きなおしてくれる。聖女の寝取り行為と我が弟子ユーマの追放に始まり西側の大惨事、妖精女王への無礼。そして此度の戦!最早廃嫡は免れぬと知れ!!」


「ヒ、ヒィィィィ!く、くるにゃ、くるにゃああげぶっ!」


 オジキの拳が下腹にめり込み、喉元をせりあがってくる酸っぱい異臭と共に口から吐しゃ物をまき散らしながら地面に蹲る。


「うぎゃああああああっ!いだい、いだいっ!ちぬ、ちぬうううううううううううううううううううううううううちんじゃううううう!ゆきゃあああああああ!!!」


 あまりの痛みにのたうち回りながら叫ぶが、誰も俺を助けようとしやがらねぇ。衛兵の教えはどうなってんだ教えはァ!


「この程度で騒ぐな、まだ一発だぞ。ユーマなら眉ひとつ動かさん」


「やじゃぁぁぁ、いたいのやなんだじぇぇぇぇえぇっ」


 俺はオジキに背を向け、もるもると尻を振りながら地面をはいずって逃げようと試みるが、襟首を掴まれて再び持ち上げられる。


「立て、死んでいった兵士の痛みはこんなものではないのだぞ」


「俺は世界の王っ!になる存在なんだっ、こんな暴力を振るわれていい人間じゃないんだじぇっ―――ぶぐぇっ」


「何が世界の王だ、自分が置かれている立場を理解しろ!貴様は王族失格だ!!」


 そう言いながらオジキが俺の顔面を正面から殴りつけてきて、俺は再び地面に転がってビクンビクンと痙攣しながらのたうち回った。

 

「ヒ、ヒィーッ!?はがのふにがほれひまっへぅぅぅぅぅ」


 鼻の骨が折れちまってる!!鼻から垂れた液体が口に流れ込んできて、錆びた様な臭いにそれが鼻血だと理解した後に鼻に鈍い痛みが走り、ふれるとぐんにゃりと鼻が折れ、いやつぶれていた。


「ほ、ほへのひへへんへいふはぁ~!」


「ぬぅん!!」


 俺のイケメンフェイスがぁ、と叫ぼうとしたが上手く言葉にならず、そこにさらにオジキの剛腕が俺の顔面にめり込み、視界が真っ暗になる。かぴゃっ、と息をしたら前歯を含めた派が何本か零れ落ちた。


「ゆひぃぃぃぃっ?!」


「貴様は人の上に立つべき人間ではない!!衛兵、こやつをを幽閉しろ。全権は一旦儂が預かる」


「い、いやじゃぁ……おりぇはこのきゅにでいちばんっ!のえいゆんなんだ、じぇ……っ」


 オジキの指示に従い俺を拘束する衛兵に反抗すべくそう言いながら、俺はついに痛みに負けて意識を手放した――――

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