第11話 英雄の証左、愚物の証明

 平地で巨岩竜にぶつかっても弱点をつけないのに何考えてるのかと小一時間問い詰めたい所だが、そんな事も言ってられない。

 あのアホ王子が勝手に死ぬのは自業自得だが道連れに兵士が死ぬのは可哀想だし、何より折角耕作地を増やした流刑地にまで侵攻されて土地を荒らされるのは困る。それを阻止するには侵攻される前に平地まで飛んでいって仕留めるしかないとか……倒せないわけじゃないがわざわざ平地で、しかも準備時間が足りないまま戦え、となると溜息しか出ますよ……!1分間の準備時間で初見ステージクリアを要求される、なんて事よりマシだけどさぁ!


「……という事らしいので俺達はすぐに行きますね!お師匠達には後詰をお願いしたいです」


「……お前達だけ仕掛けるつもりか?こちらも準備が出来次第追いかけるが―――」


「一応、無策で行くわけではないのと此処で編み出した新技も幾つかあるので大丈夫です。巨岩竜の背中にある魔力の核を叩めばいける筈なので……」

 

 そう言ったところで俺の軽装鎧や武具を抱えたクロガネがバタバタ駆け込んできた。さっきの兵士の話を聞いていたのだろう、以心伝心なのは流石である。


『装備はどうする大将?急いで飛んでいくならフル装備じゃ時間がかかるし速度も落ちるぜ』


「テールブレードを装備してくれ。あとは甲殻の破砕用に樽詰めの爆弾が少し欲しいかな」


『了解、俺達の十八番をやるんだな?移動速度を考慮しても、左右1発ずつは抱えていけるぜ』


「2つもあれば充分だ。それじゃ、いくぜ兄弟」


 バタバタと着替えつつ槍を持ち、窓からクロガネと2人で外へ飛び出しそのまま竜に姿を変えたクロガネの背中にゲットライド!左手で手綱を握りながら右手に槍を抱える。後は使い捨てになっちゃうけど剣も一振り持っていくのは忘れない。忘れ物がないのを確認しつつお師匠やヒルダ、ザナに手を振って別れを告げて、クロガネには洋館の外にある倉庫に移動して魔法のロープ付きのブレードを尾に装備させ、爆薬を詰めた樽を抱えてもらった。本来は岩盤爆破等に使う人の背の丈程もある大樽だが、こんな大きなものを抱えても余裕で飛べるのでクロガネが竜の子なのは伊達じゃないのだ。


『OKだ!それじゃ、飛ばすぜ大将!!』


 俺を背にのせ両脇には大樽と随分と窮屈そうに見えるが、クロガネが翼を数度羽ばたけばあっという間に雲の上。そして次の瞬間には流れる雲を置き去りにして青空を進んでいる、さすがドラゴン。サラマンダーよりずっとはやーい!なんちゃってハハッ。

 飛ぶ方向はクロガネに任せて飛んでいるが巨岩竜は気配がどうとかよりも単純に巨大なので、暫く飛んでいたら遠目からでも十分に補足できた。


『いたぜ大将!』


「見えるぞ、俺にも敵が見える!というわけで突っ込んでくれ」


 俺の言葉に行動で回答するように、そのまま高高度から急降下して戦場へ突入するクロガネ。

 ……いざ戦場に到着してみれば無惨極まりない。全軍の半分も生きていないんじゃなかろうか?俺やお師匠と一緒に戦った事があるであろう、見覚えのある武官の人達は遠巻きに布陣しながら他の部隊の救助に当たってる。王子の指揮下で被害にあってるのは実践経験に乏しい内地の将兵やお師匠の派閥じゃない武官達かな?それにしても、よくもまぁこれだけの兵士を死なせたものだと顔を顰めたくなる。別に王国がどうなっても関係ないやとは思っていたけど、目の前で人がゴミのように殺されているのをみるのは人として気分が悪い。


「ご覧の有様だよ!……はぁ、このまま注意を惹きつけてくれ」


 俺の言葉に無言で従うクロガネが、そのまま巨岩竜の正面すれすれまで近寄ってから左へと回避し、時計回りに巨岩竜の周囲を旋回して巨岩竜の意識を俺達へと向けてるように飛ぶ。

 対する巨岩竜もこちらを認識しているようで、何かを追っていた様子の足を止めて首が動く範囲で視線で俺達を追っている。……さっき遠目にみてたけど巨岩竜って口から岩飛ばせるみたいだからそれで俺達を狙っているんだろう。


「初手から全力、速攻で仕留めるぞ!目標を中央に固定だっ」


『俺達の十八番……やるんだな?今、ここでっ!」


 クロガネが、巨岩竜の背中にあるひと際大きく盛り上がった甲殻へと向かって大樽を投擲し、隙間に引っ掛けた。スリーポイントシュート間違いなしのナイスなロングシュート。……バスケがしたいですってね。

 続けて尾を振るい、尾の先に巻き付けていたブレード付きの魔法のロープを甲殻へと打ち込む。妖精女王謹製の伸縮自在魔法のロープが巨岩竜の巨体から充分に距離をとれる程に伸び、丁度船が錨をおろすように俺達と巨岩竜の背中を繋ぐ。

 ―――巨岩竜のような大型の魔物は総じて通常の生体器官とは別で、体内に魔力の塊となる核を持っているので、そこを潰せば生命の維持に必要な魔力を枯渇させて倒すことができるのだ。そしてその核は今繋がった背中の真下にある。


「このまま火力を中央に集中だぜ!」


『任せろ大将!!』


 核のある場所を正面に捕らえながら、そのまま時計回りに旋回しつつ攻撃を開始する。

 大きな円の軌跡を空に描くように飛びながら、俺が槍先から放つ雷撃とクロガネが口から飛ばす火球が巨岩竜の甲殻を砕いていく。さらに攻撃の中で先ほど仕掛けた大樽に引火し、背中で大爆発が起きて巨岩竜が身悶えている。……そして薄紫色をした宝石のような結晶が露わになった。


『よし、甲殻を割ったぞ!核がむき出しになったぜ』


「トドメは中央を突破だ!」


 クロガネの言葉に返した俺の言葉が終わるよりも早く、クロガネが“核”に向かって突貫していた……判断が早い!そのまま剥き出しになった“核”まで突っ込んでいき、すれ違いざまに腰の剣を引き抜き突き立て即座に離脱。

 弱点に一撃を受けた巨岩竜が、壊れたパイプオルガンをスピーカーにつないで鳴らしたような絶叫を響かせた。


「ふぅ……これが呆れるほどに有効な戦術ってやつだぜ」


 甲殻が破砕されて自由になっていたテールブレードが巻き取られて、クロガネの尾の先に戻ってきたのを確認しながら呟く。


「あれがあの有名な“呆れるほどに有効な戦術”!!まさかこの目で見られるとは…!」

「あのクソ王子のせいで死ぬところだった!助かったんだぁぁぁー!」

「うおぉぉぉぉぉ英雄万歳!ユーマ殿万歳!!あとあのアホ王子は責任取って処断されろ!!」

「凄ェ戦いだったな……俺、帰ったら婚約者にこの戦いの事を自慢するぜ!あと俺、故郷に帰ったら学校に行くよ……」


 地表の将や兵士たちがこちらをみてやいのやいのと歓声を上げているが、そんなことよりさっさと退避してほしいんですけどぉ。いのちだいじに、いいね?あと最後に死亡フラグ何本も建ててそうな兵士の声が聞こえたからちょっと心配だ。

 そんな兵士たちの言葉に不安になったが、案の定巨岩竜はまだ絶命しておらず息をしている。ほらな?死亡フラグ建てた奴ははよ逃げてくれどうぞ。


『どうする大将、まだ倒れてないぞ』


「あー、いや、戦い自体はもう勝ってる。そのまま巨岩竜の真上まで飛んでくれ」


 俺の事は雷撃の魔力を指先に込めて充填していく。剥き出しにされダメージを受けた核に巨岩竜が死の危険を感じたのだろう、首の後ろの甲殻を割りながら仰け反らせるように無理やり頭を背中の直上―――俺へと向けて口を開く。直後に岩が射出されたが、クロガネが見切って回避してくれた。さすがクロガネ!お前は出来る子なんだよもん。


「巨岩竜、こんなこと言ってもわからないと思うけど……お前の核に刺したその剣は避雷刃(ひらいじん)っていってな―――雷を呼び込んで増幅するものなんだ」


 そう説明しながら充填を完了した魔力を解放する。


「“砕く雷鳴”!!」


 俺の言葉と共に指先で限界を突破するまで圧縮した雷は真っすぐに避雷刃へと落ち、巨岩竜の核を雷撃で焼きながら完全に砕いた。先の咆哮のような断末魔もなく、瞬間的に命を絶たれた巨岩竜が地響きと共に崩れ落ちる。……幸い、兵士たちは巨岩竜から距離をとって俺たちの戦いの様子を見ていたので今の衝撃に巻き込まれた者はいなさそうだ。


『すげぇな大将、いつの間にあんな技を?』


「流刑地の暇な時間を使ってな。ま、一種のオマージュってやつさ」


 クロガネが聞いてきたので、えっへん!と胸を張りつつドヤ顔でキメる。俺のそんな言葉に、大将は面白いなぁ笑いながら巨岩竜の亡骸の上を旋回するクロガネ。核は完全に破壊したので余程問題は無いと思うけれども、念のための確認だろう。死亡確認は大事、そう塾長代理も言っている。


『……よし、完全に仕留めたな。勝ったぜ、大将!』


 眼下では生き残った喜びか安堵か、兵士たちが引き続き歓声を上げながらこちらに手を振ったりしている。命あってのモノダネというし、気をつけて帰ってくれよな、家に帰るまでが遠足とかいうからね!!ユーマさんとの約束だよ。

 

「お疲れさん、兄弟。……それじゃ帰るか」


『はー、今日はたくさん飛んだから腹ぺこだ。姐さんのご飯がたくさん食べれそうだぜ!』


 そんな他愛無い事を話している間も眼下では歓声が鳴りやまない中、なんか「降りて来い下種な卑怯者め勝負しろ!!」とか聞こえた気がしたけど多分気のせいだと思うので気にしないでおく。


 クロガネと2人、どんぶらこどんぶらこと家まで飛んで帰るとちょうどお師匠やヒルダやザナ、あと護衛達や到着した増援さん達が出発の準備を終えたところで一様に「もう終わったの?」というリアクションを返された。後詰の準備ありがとうございます、すいません終わらせてきました。


 そして今日も義姉上が美味しい夕食を用意してくれていた。……またしてもなにも知らない義姉上、だけどそれでいいのだ。その日はお師匠一行も交えての賑やかな食卓となったふぁ、のんびりとここで家族皆で暮らせる幸せがあればそれで良いのだと改めて思うユーマであった、なんてね。

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