第5話 ワンパン秒殺めりこみ王子【王子視点】


 あの後、西側の騒乱の不手際を親父に叱責された。最終的に俺に任せるって言ったのは親父だったから戦没者や犠牲者への賠償金は国庫ではなく親父の私財から出すって言ってたけど、それはそれとして公衆の面前で叱責されて俺の面子は丸つぶれだ。

 ……俺が悪いんじゃねぇ、あっさりおっ死んだ無能な雑魚兵士どもが悪いんだろうが。

 そんな親父への募る不満と怒りのイライラをムラムラに変えてすっきりするかとリリアンを呼びつけてヤリまくった後、親父への不満を愚痴っているとリリアンが俺に美しい装飾の小瓶を渡してきた。


「これは?」


 「これは私が聖女認定される際に聖女教会の司祭様が私に渡された秘薬、その名も“ユックリクサー”ですわ。

用済みの聖女や教会の扱い切れない邪魔な聖女などを“永遠にゆっくり”させることが出来るお薬です。一度飲ませれば解毒は不可能、そして教会に伝わる秘薬で毒の痕跡も残りません。本来は前聖女に飲ませる予定でしたが、周囲のガードが堅かったのと自分から精神崩壊したので使うタイミングを逸して余っていましたが―――」


「何それ最高!よしわかった、これで親父を永遠にゆっくりさせちまえばいいんだな?」


 そんな俺の言葉に、にこりとほほ笑むリリアン。身体も良いし頭も切れるし最高の女じゃん!もう完全に波に乗ってるよこれ、やっぱり完全に俺の時代が来てる感じがするわ、ヒャッホウ!


 そして俺は親父の部屋を訪ね、今までの事を深く詫び心を入れ替えて反省したいと言うと親父も半信半疑な様子ではあったが部屋へ通してくれた。そして部屋に入っら即座に小瓶の中身を親父の口にシューッ!ほらイッキ、イッキ!


「ふもっふ?!!」


 俺の迅速で俊敏な動きに圧倒されたのか対応できなかった親父は驚きの声をあげていたが、俺の手でユックリクサーを飲みこまされ速やかに永遠にゆっくりってわけよ!チョロいぜ!


「フハハハハ、じゃあな親父!後の事は俺に任せて、永遠にゆっくりしてくれや」


「ご、ごれ……どぐ…ゆ、ゆ、ゆ゙!?」


隠して親父はあっさりと退場してくれた。命こそあるが衰弱する一方の身体と、眼球を上に向けて半開きの口で「ゆ゙っ゙、ゆ゙っ゙ぐ…り゙」としか喋らなくなった。

 その後は衛兵を呼んだり侍医を呼んだりと慌ただしかったが、親父は心の病によるものと診断された。もはや言葉も話せず胡乱な目で虚空を見つめるだけになった親父に俺を叱責することはできない。つまりここからがハイライトってわけよ。フッフッフ、新時代が来るぞ……!


 親父の代わりに政務に関わる事になったが、リリアンパパとその派閥の貴族が大体なんとかしてくれるので俺のやる事と言えばおセッセぐらいしかない。

 とはいえさすがにリリアンだけだと飽きるので側室、いや後宮をつくろうと思ったところで思わぬ来客があった。

 妖精女王の使いの美女。名前は知らないが胸はそんなにないけど顔がいいのとタッパとケツがデカい女!だったので割と俺のタイプだった。何か色々とユーマとディアナを追放したことに文句を言っていたが、そんな事より極上の女を前にして抱かぬは男の名折れよ。


「ま、堅苦しい事はぬきにしようや。お前美人だし、俺の子を孕ませてやるよ。側室にしてやっから、とりま俺のベッド来いよ。俺様の美技に酔いなっ!」


 美女もイチコロのプリンススマイルをしながらわざわざ近くまで歩き寄り、肩に手を回す。こんなサービス滅多にしないんだからな⭐︎


「それは王国の正式な答えと受け止めて宜しいのでしょうか?」


 使いの女が表情を変えずに聞いてくるが、性式な、じゃなかった正式な答えだし笑顔で頷く。


「そうですか。ディアナ様もユーマ様も私にとっては恩人、そして女王とも懇意の方達です。語るに及ばずですね、そぉい!」


 使いの女がにっこりと笑顔でそんな事を言った瞬間、頬に激しい痛みを感じて浮遊感を感じた。吹っ飛ばされてると気づいた次の瞬間、全身を打ちつけられる激しい痛みとともに俺は意識を手放した。


 その後、寝台で目覚めた俺は、従者から聞かされたが使いの女の平手打ちでそぉい!と吹き飛ばされて次の瞬間には壁にめり込んで気絶させられていたらしい。

 衛兵たちは妖精女王の使いの女を周囲が制止しようとしたが、オジキの代わりに城に来ていたオジキの娘が使いの女を捕らえようとする兵士を一喝して使いの女を城外まで見送り、誰も手出しができなかったようだ。何考えてんだあのペチャパイ女、俺は従兄(おにい)ちゃんだぞ!!

 自分の従兄で未来の国王の俺が壁にメリこませられてるのに何考えてんだか。いずれあの女も罠に嵌めてハメてやらねぇとな。従兄妹なら合法だしよ。


 何より許せないのはあの使いの女だ、俺は人間至上主義で亜人や妖精は家畜と同じと思っているが、これだけ美しい女であれば俺の側室に加えるべきだと思い閨にさそったのだんだぞ。

 極めつけに、妖精の一撃は傷を治癒しても跡がしばらく残るらしく、俺の頬には紅葉のような平手打ちの跡がくっきりとついている……おかげで俺は笑いものだ、クソッタレー!!


―――人間様でもない分際でこの俺に恥をかかせるなんて許さんぞクズ女がぁ…!!死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑服従服従服従服従服従死刑死刑死刑死刑!!

 

 そんな使いの女が帰った後はリリアンパパや各大臣、臣下達が何やら今後についてと慌ただしく動いていたが、そういう雑事は下々の奴らが頑張ってやればいい。俺はそんなことよりも国中の美女を集めるピックアップ作業に忙しいのだ。未亡人とか人妻とか婚約者がいる女を優先的に集めてみるのもいいかもしれない。なんといっても俺は未来の国王、この尊き血筋を繋がなきゃいけないからな!!気を新たにプリンスライフにワクワクしていたが、ある日の朝早馬が城に駆け込んできて騒然となった。またかよこの流れェッ?!


「セドリック様、国の南の穀倉地帯が全て枯れました」


「ブホッ、ゲホッ、ゲホッ、な、何だってェー?!」


「王家直轄の葡萄畑も全滅です!!これでは今年は葡萄酒を作れません」


「ファー?!?!何やってるんだよ!?!?!?」


 とりあえず葡萄畑の管理を任せている責任者は一族諸共処罰するとして、流石に俺だってこの国が外貨を獲得する主力製品が葡萄酒なのは知ってる。これは長期的にみたらまずい事になるのでは?クソッ、何でこんな事になってるんだよ俺の輝かしい栄光の治世の筈だろうがよっ!!


 しかも俺が使者にセクハラしてワンパンで壁にめり込まされた『めりこみ王子』と言う噂が宮中や王都でも広まったようだ。クソクソクソあの女ァァァッ!!

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