俺みたいな田舎者でも知ってる

 馬車の中でリーナと隣同士に座りながら、適当な世間話をしていると、馬車が街の中に入っていった。

 

「ここにリーナとベラの家があるのか?」


 それを確認した俺は、リーナにそう聞いた。

 ここにベラは居ないからな。

 ちなみに、言葉遣いに関しては敬語はどうしてもやめて欲しいとお願いされたので、素で話している。


「……ん、そう」

「そうか」


 なんでもない事のように聞いた俺だけど、内心では結構焦っていた。

 だって、ここ、俺みたいな田舎者でも知ってる伯爵様が領を収めている所だぞ? ここに家があって、貴族……もう聞くまでもないじゃん。

 ……今更だけど、やっぱり二人を呼び捨てにするのって不味いのかな。……いや、二人が良いって言ってたんだけど、二人の両親だったりがどういう人か分からないし、リーナ達の家に着いたら呼び方を少し変えようかな。


「……呼び方、変えたら私も、お姉ちゃんも、怒るから」

「……分かってるよ」


 俺がそう思っていると、まるで俺の思考を読んだかのようにリーナがそう言ってきた。

 その瞬間、何故かリーナの綺麗な赤い瞳がどす黒く染まったように見えてもの凄い寒気を感じたけど、もう一度よくリーナの瞳を見直してみたら全くそんなことはなく、普通に綺麗な赤い瞳のままだった。俺の勘違いだったみたいだ。

 

「……何?」


 そうやってリーナの瞳をまじまじと見ていると、心做しか顔を赤らめながら、リーナは小さく首を傾げながらそう聞いてきた。

 うん。やっぱりどう考えても俺の勘違いだわ。


「いや、なんでもない。綺麗な瞳だなと思っただけだ」

「…………ん、ありがと」


 ん? あれ? 俺、今自分の勘違いを誤魔化す為にめちゃくちゃ恥ずかしい事を言わなかったか? ……いや、リーナもそっぽを向いて気にしないようにしてくれてるし、俺も触れないようにしよう。




「カルメリーナ様、ご到着致しました」


 俺の恥ずかしい言葉に触れないでいてくれることを内心で感謝しながらも適当にリーナと喋っていると、馬車の外からそんな声が聞こえてきた。

 確か、俺を驚かせてきた人の声だ。……わざとじゃなかったぽいけど。……多分。


「……ん、分かった」


 リーナがそんな返事をしてるのを聴きながら、俺は馬車から外を見た。

 すると、めちゃくちゃ大きな豪邸がそこにはあった。

 ……マジか。……予想してたとはいえ、やばいな。


「……降りないの?」

「えっ? あっ、降りるよ」


 豪邸に圧倒されてたからか、リーナにそう声をかけられるまで全くリーナがもう馬車から出てるなんて気が付かなかった。

 

「……ここ、私の家。……びっくりした?」


 そうして馬車を降りると、リーナにもイタズラ心があったのか、少し笑顔を滲ませながら、そう言ってきた。

 ……表情が乏しい女の子がたまに見せる笑顔ってなんでこんなに魅力的なんだろうな? 


「そりゃびっくりしたよ。貴族ってのは知ってたけど、まさか伯爵様とはな」

「……お父様だけ。私たちは違う」


 ……俺からしたら身分が違いすぎるって意味では同じようなもんだけど、まぁいいか。


「……早く行こ」


 そう思っていると、リーナは俺の手を軽く引っ張って来ながらそう言ってきた。

 抵抗する意味もないし、俺はそのまま手を引っ張られながらリーナについて行った。

 

「……こっち。こっちで、お姉ちゃんとお父様が待ってる」

「えっ? ち、ちょっと待った。お父様って、伯爵様だよな? いきなり会うのか?」

「……大丈夫。お父様はどうでもいい……と言うか邪魔だから、一言言ったら出ていかせる」


 ……うん。俺的には伯爵様と長く喋るのは胃に悪いから、ありがたいっちゃありがたいけど、可哀想じゃないか? お父様。

 いや、別に俺みたいに親を大事にしろ! なんて強制する気はないし、別にいいけどさ。……この感じからして、口ではこう言ってるけど、嫌いってわけではないんだろうしな。


「………………お礼をしたいのは私たちだし、誰にも渡さない」

「ん? なんか言ったか?」

「……別に」


 そうなのか? ……何か言ってた気がしなくもないけど、あれか、ただの独り言か。……確かに、独り言をわざわざ聞き返されるのは恥ずかしいよな。

 そう思った俺は、もう何も言わずに、リーナについて行った。

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