たまたま、だよな?

 あれから魔物に襲われることも無く、無事に家に帰った俺は、いつも通り父さんに「ただいま〜」と挨拶をして、それからはいつも通りの一日を過ごした。


「父さん、今日も畑仕事が終わったら、適当にぶらついてくるね」

「あぁ、分かった。気をつけろよ」


 そう言って、昨日同様自分の分の畑仕事を終わらせた俺は、セーブをして、昨日二人を助けた場所に向かった。

 まだ居ないかもしれないけど、早めに着いておくに越したことはないしな。……二人は名前を呼び捨てでいいって言ってくれたけど、貴族なのには変わりないし、損は無いだろう。


「お待ちしておりました」

「へうわっ」


 そう思って、昨日の場所に行くと、馬車が見えてきたと同時に、突然そう言って知らない男の人に声をかけられた。

 ……いや、知らない人とはいえ、昨日の馬車が見えてるし、ベラとリーナの知り合い……手の者? なんだろうけど、普通にびっくりした。……びっくりして、凄い情けない声を上げてしまったし。


「驚かせてしまったようで申し訳ありません」


 ホントだよ! もう少し声のかけ方とかあっただろ! ……口には出さないけどさ。……いや、今からでもロードして、全然気配で気がついてましたよ? 的なカッコつけでもするか? ……やめとこ。めんどくさいわ。


「いえ、大丈夫ですよ」


 身分的にもここでこの人にキレる事なんて出来ないし、俺はそう言った。

 まぁ、そもそも、キレてないし。……もし俺がここでキレてたんだとしたら、普通に殴りかかってると思う。

 もちろん、セーブをちゃんとしてから、な?


「ありがとうございます」


 そう思っていると、俺を迎えに来てくれた人? は頭を下げながらそう言ってきた。

 そしてそのまま、俺を馬車の中に案内してくれた。

 

「……ん、昨日ぶり」


 すると、中からリーナがそう言って顔を出してきた。

 ……いや、なんでいるんだ? しかもリーナだけ。


「なんで、居るんですか? 普通に家で待っててくれてるものかと思ってたんですけど」

「……嫌、だった?」

「い、いえ、そういう訳では無いです」


 単純に疑問に思っただけで別に嫌な訳では無いから、俺は慌ててそう言った。

 

「……お姉ちゃんは私に負けて留守番」

「そう、なんですね」


 ……よく分からないけど、取り敢えず俺はセーブをしながら頷いた。 

 ここからまた何かが起きる可能性だってあるしな。

 

「……昨日から気になってたけど、今の、何?」


 すると、リーナは俺がセーブをした瞬間、そんなことを聞いてきた。

 ……たまたま、だよな? 俺がセーブをする時って、別に何か動きが必要なわけじゃないし、バレる訳ないし。


「何がですか?」

「……なんでもない」

「そうですか?」


 俺なそう聞くと、リーナはこくりと頷いた。

 まぁ、それなら、別にいいか。


 そう思っていると、リーナが御者に向かってひとこと言って、馬車が進み出した。




 …………気まずい。

 いや、色々話題を振ってはいるんだけど、全部一言二言で終わって、その後無言の時間が続くから、気まずいんだよ。

 これがめちゃくちゃ仲のいい相手ならともかく、ほぼ初対面だし、なんなら身分の差もある。

 ……いや、身分の差はあんまり気にしてないけど、あることにはあるんだから、緊張はする。

 

「そ、そういえば、昨日は無事に帰れましたか?」


 今ここにいるんだし、無事に決まってるんだろうけど、俺はそう聞いた。

 だって、何が話を振ってないと気まずいから!


「帰れた。……隣、座っていい?」


 ??? いや、別にそれ自体は全然いいんだけど、このタイミングでそんなこと聞くか? ……こんな疑問を持つ俺がおかしいのか?

 なんか、リーナの表情の乏しい顔を見てると、普通のことのような気がしてくるな。……俺がおかしいのか。

 そう思った俺は、別にリーナの事が嫌いな訳では無いし、そのまま頷いた。

 出会ったばっかりだし、嫌いになる要素なんてないしな。……これからの事は分からないけど、出来れば仲良くしたいと考えてるし。

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