頑張った甲斐があったかな

「……全然、カッコ悪くなんかないですよ」

「……かっこよかったと思う」

「ははっ。お世辞でも、美少女二人にそう言って貰えると嬉しいですよ。ありがとうございます」


 俺は思ったことを正直に、そう言った。

 すると、俺の言葉を聞いた二人は、揃って顔を赤らめてしまった。

 普段なら絶対にこんなことは言わないんだが、緊張感から開放されたおかげか、そんな恥ずかしいことを言ったことにも気が付かず、俺は話を進めた。

 

「あー、それじゃあ、俺はそろそろ帰りますね」


 そして、また癖でセーブをしてから、俺はそう言った。もし帰り道で死んでしまったら、ここまでやり直すのは面倒だからな。

 

「お礼したい」

「え? いや、ほんとにたまたまなんで、大丈夫ですよ」

「私たちが大丈夫じゃないんですよ。用事があるようなら、明日にでも迎えに行くので、家の場所を教えてください」


 家の場所、ねぇ。……多分、いや、確実にこの子達は貴族、だよな。

 そんな貴族の迎えなんかがいきなり家に来たりなんかしたら、父さんが腰を抜かしそうだし、最悪ショック死するかもしれない。

 うん。ダメだな。

 貴族との繋がりがあれば父さんに贅沢をさせられるとは思うけど、貴族様のおかげで贅沢をしたって気が休まらなくて、むしろ胃にダメージを受けることになるだろうし。

 やっぱり、ダメかな。


「明日、朝一でここに来ます。それで良ければ」

「……家、教えてくれたら、迎え、出すよ?」

「いえ、ここに迎えを出してくれれば、大丈夫です」

「……そう」


 俺がそう言うと、何故か二人は残念そうに、頷いていた。

 ? よく分からないけど、納得してくれたのなら、まぁいいか。


「帰る前に、自己紹介だけでもしておきませんか?」

「あっ、そうですね。俺の名前はアベル。アベルといいます」


 平民なことなんて俺の事を見たら人目で分かると思うし、特に気にせずに俺は名前を言った。

 身分を気にするような人達なら、最初から俺に話しかけてきたりなんかしてないと思うしな。


「アベル……いい名前」

「私も、素敵なお名前だと思います」


 そんなことを言われて嬉しくないかと言われれば、親がつけてくれた名前だし、もちろん嬉しい。ただ、それと同時にどこにでもいる名前だろ、って思う俺は心がひねくれてるのかな。


「アベル様、私の名前はリーベラ。リーベラ・ナポロヴァと言います。ベラとお呼びください」


 青い瞳の女の子がリーベラ……ベラね。

 俺も、様付けで呼んだ方がいいのかな。


「呼び捨てで大丈夫ですよ。むしろ呼び捨てにしてください」

「あ、はい」


 まるで俺の心を読んだかのようなタイミングでそんなことを言ってきたものだから、つい頷いてしまった。

 ……ベラはニコニコと満足そうにしているし、まぁいいか。


「私は、カルメリーナ・ナポロヴァ。リーナでいい。……お姉ちゃんと一緒で呼び捨てで」

 

 そう思っていると、今度は赤い瞳の女の子がそう言ってきた。

 カルメリーナ……リーナの方が、妹なのか。……と言うか、リーナも呼び捨てなのね。

 ……まぁ、ベラを呼び捨てにすることに頷いてしまった時点でリーナの方を拒絶なんて出来るわけないよな。


「分かりました。ベラ、リーナ、明日はよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ、これからよろしくお願いします」

「……これからよろしく」


 ベラは笑顔で、リーナは乏しい表情……いや、心做しか笑みを浮かべながら、そう言ってきた。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ帰りますね。明日、また」

「はい。また会いましょう」

「またね」


 また自己紹介のやり取りをするのも面倒だし、最後にセーブをして、今度こそ俺は家の方向に向かって歩き出した。

 ……かなり奥の方に歩くまで視線を感じたけど、それだけ感謝されてるって考えると、頑張った甲斐があったかな。

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