ごめんなさい
あいつを殺せば俺の勝ち。
それは分かったんだけど、問題は武器、だよな。……一応、あの騎士が死ぬ場所も、武器を落とす場所も覚えている。……だから、武器を手に入れたかったら、そこの近くに隠れていればいい。……あの騎士が死ぬまで。……そう、死ぬまで、だ。
俺は、あの人の犠牲の元でしか武器を手に入れられないんだ。
……いや、もしかしたら、他にも武器を手に入れる方法くらいあるのかもしれない。
でも、少なくとも俺にはそれ以外には思いつかない。
だから、ごめんなさい。
少なくとも、あなたの主君? は守りますから。
心の中で一人の騎士に謝罪しながらも、俺は騎士が剣を落とす場所までこっそりとやってきた。
そうして、あの騎士が剣を落とすまで、盗賊(仮)にバレないように息を潜めていると、とうとうその時がきた。
騎士が倒れて、目の前に剣が転がってきた。
チャンスだ。……チャンス、なんだ。だから、動け。俺は今この場にいる人達の誰にもバレて無いし、俺なら、殺れるんだ。
自分の弱さを誤魔化す為に、自分を鼓舞する為に、馬鹿みたいに声を上げながら走っていきたい気持ちを抑えて、俺はほぼ目の前に落ちている剣を拾って、ボスと言われていた男の首元に突き刺した。
「がっ、ぐっ」
その瞬間、盗賊(仮)側の時が止まった。
そんな空気の中、俺が首を突き刺したボスと呼ばれる男は最後の力を振り絞って、腰に装備されていた短剣を使って俺を殺そうとしてきていた。
それに気がついた俺は咄嗟に、ボスに突き刺している剣を引き抜こうとしたんだが、上手く力が入らなくて、ボスの首から剣を引き抜くことが出来ずに、後ろに尻もちをついてしまった。
終わった。……ロード、するか。
そう思った瞬間、目の前に迫っていた短剣が一人の騎士の剣に弾かれた。
そして、最後の力を振り絞っていたボスは絶望したような表情を浮かべて、息絶えていった。
助、かった?
そう思って、周りに目を向けると、二人の女の子含め騎士達は全員、俺の方向に視線を向けていた。
盗賊(仮)がいるのに、そんな暇はあるのか? と思ったんだが、よく見たら、盗賊たちは全員血を流しながら、倒れていた。
「あ、えっと、ありがとう、ございます?」
助かった安堵感から癖でセーブをした俺は、取り敢えず最後の力を振り絞ったボスから助けてくれた騎士にお礼を言った。
……尻もちをついた格好のまま。……いや、立てないんだよ。腰が抜けて。
何回も死んだことはあるし、今更何ビビってんだよ、とか思われるかもしれないが、何回死のうが死ぬのに慣れなんてものは無いんだよ。普通に痛いしな。
まぁ、自分の命の価値が低くなってきてるのは否定できない事実なんだけどな。
もしそうなってなかったら、いくら寝覚めが悪いとはいえ、この人達を見捨ててたと思うし。
「お礼を言うのはこちらの方ですよ。貴方があの空気を作ってくれなければ、私たちが負けていたかもしれません。勇気を出してくれて、ありがとうございます」
そう言ってくる俺を助けてくれた騎士の人の視線を辿ると、俺の手は震えていた。
……魔物や魔獣はもう何回か殺したことくらいあるのにな。……やっぱり、人間が相手になると、違ってくるよな。……これで、俺が殺した人間は二人目だ。
一度目はロードしたとはいえ、俺が殺したのは事実なんだから、それはちゃんと噛み締めないとな。
そう思った瞬間、俺は二人を殺した手の感触を思い出してしまった、また、気分が悪くなってきてしまった。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」
「……ありがとう」
気分の悪さを我慢していると、周りの騎士の人達に止められているにも関わらず、二人の女の子が俺の傍まで寄ってきて、お礼を言ってきた。
そんなお礼の声を聞いた俺は、反射的にその声の方に視線を向けた。
さっきまでは距離が遠かったし、盗賊(仮)をどうやって倒すか、とかを考えてたから気にしてなかったけど、よく見たら二人とも綺麗な白髪だし、姉妹か何かなのかな。……あ、でも、瞳は最初にお礼を言ってきた方が青色で、後から続けて言ってきた方が赤い色だから、父親は同じだけど生みの親は違うとかそういう感じなのか? ……俺によく分からんな。
「あ、いえ、たまたま、森を散歩してたら襲われているのが目に入っただけ、ですから」
「森を散歩、ですか?」
「ま、まぁ……はい」
青い瞳の方の人が困惑した感じで聞いてきたから、俺は曖昧に頷いた。
流石にスキルのことを他人に話す気にはなれないしな。
「……なんで、助けてくれたの?」
今度は赤い瞳の方の人がそう聞いてきた。
「さっきも言いましたけど、森を散歩してたらたまたま襲われてるのが見えたからですよ」
「……でも、あなたは、別に強い訳じゃない。……それに、人を殺したこともあんまりないみたいだし、何か、理由があるんじゃないの」
今はもう止まってるけど、さっきまで震えていた俺の手を見ながら、そう言ってきた。
まぁ、確かに、俺もこんなスキルが無かったら助けなかったと思うから、この人の気持ちはわかるな。
「……騎士の人達には失礼かもしれませんが、あのままじゃ騎士の方が負けると思って、咄嗟に体が動いたんですよ。だから、何か特別な理由があった訳では無いんですよ。……かっこよく助ける……どころか、かなりかっこ悪い感じになっちゃいましたけど、無事でよかったです」
にへら、とした笑みを浮かべて、俺は二人に向けてそう言った。
まぁ、嘘は言ってない、よな。多分。
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