今更だ

 セーブをして、森に入った俺は、いつも通り、一応周りを警戒しながら魔物か魔獣を探した。

 一応っていうのは、素人の俺ばどれだけ警戒しようと、不意を打たれる時は不意を打たれるから、割ともう諦めてる。

 ちなみに武器は昔に拾った無駄にでかい石だ。

 畑仕事とかしてるんだし、クワとかを持ってたりはするんだが、血ってなかなか落ちないんだよな。落ちたとしても、臭いだって残るし、そんなことになったら、父さんにバレる。……と言うか、一度バレて、馬鹿みたいに怒られた。

 まぁ、その後すぐ、ロードして、無かったことにしたんだけどさ。


 とにかく、俺はでかい石を両手で持ちながら、森を進んだ。

 そして、しばらく歩き回ったんだが、今日は中々魔物や魔獣が見つからないし、襲われもしなかった。

 俺が不思議に思い始めていると、何かがぶつかり合うような音が聞こえてきた。


 ……魔獣同士が戦ってる? いや、何回か見たことあるけど、こんな音はしなかったはずだ。

 ……どうせセーブはしてるんだ。だったら、行ってみれば分かるだろ。


 この世界に来て、死んでも生き返ると知って、何度か死んで、自分の命の価値が低くなってきてるのを感じる。

 そして、それが悪いこととも思わない。思えない。


 そんなことを思いながら、音がする方に向かって行くと、騎士の格好をした人と、盗賊? が戦っていた。

 うっすらと騎士達の隙間から見えたが、騎士の人達は、誰か、女の子を守るように戦ってるみたいだ。

 そしてそんな騎士達を、盗賊? 達が囲んでいる。


 騎士も盗賊(仮)も何人か倒れているが、人数差的に、騎士達の方が不利、だよな。

 ……助けた方がいい、のか? でもなぁ、どっちが悪いかとか、分からないしな。

 でも見た目的には、やっぱり女の子を守ってる騎士達を狙ってる盗賊(仮)の方が悪者っぽいし、取り敢えず、騎士達に加勢して、騎士達の方が悪いやつだった場合は、ロードしよう。

 まぁ、そもそもの話、スキルでセーブとロードができる以外は、俺って一般人だし、何回もロードする羽目になるんだろうけどさ。

 いつも魔物や魔獣を退治する時と同じだ。

 一つ、問題があるとすれば、俺は人と戦ったことなんてないし、ましてや殺したことなんて、あるわけが無いということ。


 ……よし、今回は諦めて、一人を殺すことに集中しよう。

 不意打ちなら、一人くらい、いけるはずだ。

 一人殺せば、多少は慣れる。……この世界に来る前なら、人を殺す事に慣れるなんて、安易に……いや、絶対に、思えなかっただろうな。

 俺は一度……どころか、何度も理不尽に殺される恐怖を体験してる。

 だからこそそう思って、あの怯えてる女の子たちを助けたいんだと思う。


 一度深呼吸をしてから、決意を決めて、俺は一番近くにいた弱そうなやつを後ろから、持っていた石を思い切り振りかぶって、そいつの頭目掛けて叩きつけた。

 そしてその瞬間、俺はすぐにロードした。


 ロードして、時間が戻ったはずなのに、まだ、手に人の頭をカチ割った感触が残ってる。

 俺は思わずその場に吐いた。


「っぉぇ……これ、慣れる気がしねぇ」


 ……でも、慣れなくたって、行かない訳にはいかないだろ。……最後まで見た訳じゃないから、分からないけど、あれは多分、騎士の方が負ける。

 知らないなら、なんとも思わないが、知っちまったんだから、ここで逃げたら、一生後悔する。

 

 かなり憂鬱だが、行くか。

 

 そう思って、俺は無駄にでかい石を持って、あのロードした場所に向かった。

 すると、なるべく急いできたはずなんだが、ロードした時と同じように、騎士と盗賊(仮)が戦っていた。

 

 今回も、盗賊(仮)達は騎士と戦うのに夢中で、俺の存在には気がついていない。

 そう思った瞬間、ロードした時に殺した奴が俺の視界に入った。

 その瞬間、どうしようもない不快感に襲われて、また吐きそうになったが、何とかそれを飲み込んだ。


 ふぅ、落ち着こう。……落ち着いて、どうするかを考えよう。

 俺が持っている武器は無駄にでかいだけの石。

 そして、相手が持ってるのは、手入れのされてないような剣や盾、槍、と後はよく分からない武器。

 うん。これ、石じゃどれだけやり直しても勝てなくね?

 そもそものリーチが違いすぎるし、俺に体術の心得か何かがあるならともかく、そんなものは無いし、それこそ前世では運動すらろくにしたことがない。

 やばいな。剣や槍を振り回されるだけで、殺されそうなんだけど。


 そう考えていると、ちょうど走れば、殺される前に届く距離に騎士が倒れて、剣を落とした。

 ……あの騎士、多分、死んでる。……てことは、あの騎士があの剣を取りに来ることは無い。

 あれだ。こんな石なんかじゃなく、あれなら、何十回もやり直せば、勝てる……はず。


「おいっ! そこに隠れている奴がいるぞ!」


 あっ、やべ。目が合った。

 そう思った瞬間、目が合ったそいつがそんな言葉を叫びやがった。

 そして、そんな言葉を聞いた近くのやつが俺の腕を引っ張ってきて、急な事だったから、思わず、石を落としてしまった。

 やばっ。取り敢えず、あそこに剣を落とすことは分かったし、ロードするか?

 

「ボスっ、こいつ、どうしますか?!」

「見られたんだ。殺しておけ」


 ……えっ、ボスって、お前なの? あっちの大男じゃないの? 

 そんなことを考えていると、剣で刺されそうになったから、俺はロードした。

 むしろ、今回は捕まってラッキーだったかもな。

 もし、今回捕まってなかったら、あっちの大男がボスだと思ってたし。

 ボスを殺せば、絶対に、統率力は落ちるし、指揮も落ちる。

 よし、いける。あいつを殺せば、俺の勝ちだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る