第5話 夜と星の駆ける

 眠らされていた見張りの長剣を拝借した。いつもの短剣と勝手はちがうが、支障はない。柄を握る手は自分の血で濡れている。裾で拭い取った。

「処刑はどこで行われるかわかるか?」

「騒ぎのあった庭かと」

 風に荒らされた後でも煌びやかだろう場所でとは、神官は趣味が悪い。だが好都合だ。


       * * *


 神子に剣を預け、その神子を抱えて森の一番高い木へと飛んだ。散らかった庭が小さく見える。神官が玉座へ腰を据え、並べられたたちを、まるでお菓子を選んでいる少女のように眺めている。

 道中で拾った砂を両手で掬い、風に舞わせ、辺りへ広がらせる。石の欠片のさらに欠片が砂粒だ。星鉱物ではないが、私にはこれで充分。


 目を凝らして下の様子を伺えば、雇い主がヘラヘラ笑い飛ばしてから神官に向けて唾を吐き捨てた。私はアレに似たのか。そろそろ頃合いだろう。

「神子、抱えるぞ」

 不安気な神子を横抱きにし、樹の上からさらに高く飛び上がる。

 杖を振り下ろそうとする神官の前目掛けて落ちていき、こちらに気付かれたところで神子を上に投げた。

 従僕の氷魔法が四方から私へ、神子から貰った剣で氷の矢を弾く。下からの攻撃を弾いて落下の衝撃を弱めて着地し、そのまま雇い主の拘束を断ち切る。瞬時に飛び上がり空中の神子を抱え止め、雇い主と共に柱の陰へ身を滑らせた。

「よぉ嬢ちゃん、神子さま、いい夜だな」

「最悪だ」

「俺ァ助かったよ。肝が冷えちまったぜ」

「嘘吐け、そんな肝もうないだろう」

「言うねぇ」

 その間にも近付いてくる従僕たちの魔法を私は剣で、雇い主は薄黄色く光る左腕で弾き続ける。剣を捌き続けながら星の神子へ声を掛けた。

「星の神子、あなたはここで待っていて」

「嬢ちゃん、イケるか?」

「当ッ然!」

 手の甲を噛み切り血が滲んだ瞬間、方々で突然爆破が起こる。それを合図に私と雇い主は飛び出した。雑魚は雇い主で片が付く。ならば私が向かうはただ一人!


 大きな閃光が目前へ急激に走り光る。それを剣で切り分け突っ切った。


「贅沢を言うのは辞めにします。貴女にはここで死んでもらいましょう」

「やれるものならな」




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