第6話 夜より深き黒の差す
飛び上がって切り付ける私の剣を、神官は杖に咲く大輪の花で受ける。ジリジリとせめぎ合い、星鉱物の花弁にヒビが入り一片砕かせた。
神官は慌てて距離を取り、魔法を惜しみなく止めなく撃つ、撃つ、撃つ、撃つ!それを剣で受け、あしらい投げ、あしらい流し、流す。
「小賢しい真似を」
麗しい顔を歪めつつも、その声には怒りだけでなく疑念が滲んでいた。そう、そろそろ怪しむだろう。
星片しか埋められてないこの剣でここまで捌けるのはおかしい。
神官は巨大な光球を生み出し、私目掛けて吹き飛ばした。
「な、なぜ!?どうして今のを受けても立っていられる!」
土煙の奥で神官が喚いている。口角が上がる。光球を防いだ私の手には剣はなく、今拾い上げたばかりのただの石屑があるだけだった。
「貴女はまさか、」
「やはり知っていたか」
どろりと髪の濃紺が溶け落ち、黒が覗く。石を掲げた手、肌が黒ずんでいく。奴が見ている私の瞳も、きっと闇色になっていることだろう。
「夜の王……!」
夜の民のうち、同じ時代に一人しか生まれない夜の王。夜の民の血が最も濃く現れる。
夜の民の血は、正確には星鉱物を結び付ける訳ではない。その身に魔力を宿せない代わりに、周囲の魔力を操れるのだ。だから異なる魔力でもコントロールできるようになる。
そしてほとんどの民は魔力の多い星鉱物でしか扱えないが、王はちがう。無数の石屑の微小な魔力も引き出し集められ、自由に扱える。石さえあれば、王は無尽蔵に魔法を操れるのだ。
「かつて夜空の星々と分かたれたこの地も、生まれは星」
掲げた石が荒々しく研がれ鋭く苛烈な形へ変わっていく。地面を駆けて神官へ向かう。蹴り飛んで荒い石のナイフを振り上げる。
「我が魔力に限りなし!」
振り下ろそうとした瞬間、目の前に星色の瞳が現れた。身体を捻り、軌道を変え、地面へ転がり落ちる。手から石が滑り落ち、拾おうとしたものの、その手を白いヒールで踏み潰される。
神官の手には星鉱物のネックレスが握られており、それで神子を引き摺り寄せたのだろう。
「死なないと知っているのに慈悲深いことです」
神官は懐から私の闇色の短剣を取り出す。
「愚かな王よ、貴女の愛剣で終わらせてあげましょう」
夜に光る闇色が迫り、意識が切れた。
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