第2話 夜の磨きし闇色
私の一族は皆、神殿に滅ぼされた。男は殺され女子供は嬲られ住処は踏み躙られ魔具は奪われ、最後には全て燃やされた。生き残ったのは一族の総力で逃がされた私だけ。
それを率いたのが神殿で祀られているあの男、星の神子だ。神殿に一矢報いるため、そして二度と悲劇に苦しむ民を出さないため、私は身を費やした。
神殿と反りが合わない貴族に自分を売込み、資産、知識、技術をバックアップして貰う。神殿の中枢かつ消えれば雇い主の儲けにもなる人間を始末し、徐々にこちらの手を伸ばしていった。時間は掛かったが芽が出てからは順調に行き、そして遂にこの刻がやってきた。
* * *
神子は美しい男だった。銀の髪は背丈よりも長く、汚れないように編み上げられ、肌は絹より滑らかに真白い、切れ長の眼差しからは銀星色の瞳が覗き、腕も脚もスラリと長い。星色のこの男は、きっと強い魔力を宿すのだろう。
魔力は星のみによって生み出され、光として地上に注がれる。あらゆる生物は本来魔力を持たない。けれど光に輝く色を持つ者は違う。その髪、瞳、肌、そして血に、浴びた魔力を貯める事が出来る。貯めた魔力を実際に引出し魔法へと昇華するのが、星鉱物──流星やその欠片の石だ。そして魔法を行使しやすいように星鉱物を道具にあしらえたモノが魔具。神子は分かりやすい魔具こそ持っていないものの、髪や肌や装束に星鉱物が散りばめられている。
息を風音の奥に殺す。闇色の星鉱物の短剣をしかと握る。私も雇い主も他の部下達も、この為に時間を捧げてきた。雇い主は金目当てもあるだろうが。
腰に携えていた翠の星片をパラリ零し浮かす、神子から私の反対側まで飛ばし、フッと息を解いて吐いた。
その途端、竜巻が幾つも巻き上がる。轟轟と風が吹き荒び刃へ変わる、布や肌を切り裂き、酔い微睡んでいた人々は逃げ惑う、衛兵はそれを庇い立つ以外できない。その中、神官が竜巻へ気取られるのが見え、私は屋根を蹴り飛ばして神子へと駆け出した。
神子だけになったとしても、強い魔力を秘めた人間を殺すのは難しいだろう。だがそれも想定内。この刻の為に研ぎ澄ました刃で一筋でも傷を付ければ、こちらの勝ちだ!
右手を大きく振りかぶって神子の顔面に目掛ける、瞬間、神子は逃げずにけれど悲しむように私の目を見た。
短剣がその頬に触れた途端、神子は後ろへ引かれる。細い切傷を付けたのみだが予定では満足な結果。しかし高揚する暇もなく失敗を悟った。
神子の血に反応し、辺りの星鉱物、星片が暴れ始めた。静かに手に収まっているのはこの黒の短剣だけ。星の色持ちだとしてもヒト一人、血の数滴でこの魔力量は狂っている、とまで巡らせて思い至る。神子は只人ではない。
荒れ狂う風の星片に巻き込まれ、私の意識はそこで途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます