第66話 玲奈に贈るプレゼント
ほかほかご飯と目玉焼き、ベーコンなんかの簡単に作った朝ごはんをお盆に載せて階段を登っていく。
向かうは玲奈の部屋。いつも一緒に寝ている二人の部屋ではなく、玲奈個人が使っているプライベートルーム。
部屋の前に立ってドアをノックすると、中から小さく返事が返ってくる。
「起きてるよ……」
「ご飯用意したけど……食べる?」
「……そこ、置いておいて」
玲奈はそう言うけど、やっぱりひっくり返すとかあると大変だ。
ドアを開けて部屋に入ると、びっくりしたのか玲奈がベッドの上で飛び跳ねて頭から布団を被って隠れてしまった。
「もうっ! なんで入ってくるの!」
「玲奈こそなんで逃げるの」
「だって昨日……」
言わなくても分かる。昨日のお酒の醜態のことだろう。
どうやら玲奈は酔っている間の記憶がはっきりと残るタイプのようで、起きた時からずっとこんな調子だ。
ちなみに、昨日は酔って寝落ちした玲奈をいつも一緒に寝ているベッドに運んだんだけど、起きたときにはもうこんな感じで部屋に閉じこもってしまっていたから今朝はすごく寂しかったですはい。
ふにゃふにゃの玲奈は可愛いと思ったんだけどなぁ。
「顔出してよ。ご飯食べさせてあげようか?」
「やだ。恥ずかしい」
これは重症だな。
嫌がられるかなとは一瞬思ったけど、ベッドに腰掛けて玲奈の頭を布団越しに優しく撫でる。
「本当に気にしなくていいのに。甘えてくる玲奈はとっても可愛かったよ」
「だる絡みとか口移しとか全部覚えてるもん。はしたない女だって思われたくない。嫌われたくない」
「冬華さんには一切何もせずに俺だけにしてくれてたじゃん。心から愛されてるんだなって思えて嬉しかったな」
おっと? 玲奈さんがかたつむりみたいに布団から頭だけ出してくれたぞ。
髪を梳くように優しく撫でるのを続けながら、ポケットから小箱を取り出す。
「それに、せっかくの誕生日だったのにプレゼントを渡せてなかったんだよね。布団から出て受け取って欲しいな~」
「……」
あ、胸の辺りまで出てきた。あともう少しかも。
一旦撫でるのをやめて、小箱を開けて中身を取り出す。
俺が手にしたそれを見て、玲奈がパァっと表情を明るくして布団から這いだしてくれた。
「指輪……!?」
「じゃ、ないんだよな申し訳ないけど」
たしかに指輪を候補に入れていたけど、雨宮の「指のサイズを知らないならやめておけ」というアドバイス通りにやめた。
代わりにと言うのもなんだかおかしな話だけど、指輪でありながら喜んでくれそうで普段使いもできるアクセサリーとしてこういうのを選んでみた。
「ペアのリングネックレスを用意してみたんだ。嵌める用の指輪はまた今度にしたいけど……気に入ってくれたかな?」
ネックレスを差し出すと、玲奈は目を閉じて顔を前に出して首を突き出してくる。
頷いてからネックレスを玲奈の首へとかけてやる。
胸の前で指輪が揺れて、刻印されたRの文字がキラリと輝く。
ペアリングということでイニシャルのアルファベットが刻印されたものを選んでみた。ちなみに、俺の分は部屋の机の上にある箱に入ったままだ。
玲奈は揺れる指輪を手に取ると、はにかむ笑顔で指輪にそっと口づけをする。
「今まで多くの人から誕生日プレゼントをもらったけど、こんなに嬉しい気持ちになったことはないよ……!」
「喜んでくれたのなら何よりだよ」
「うん! ありがとう隼人!」
さっきまで落ち込んでいたのが嘘に思えるほど勢いよく抱きついてくる。
正面から玲奈を受け止めてそのままベッドに倒れ込む。
額を合わせてしばらく抱きしめ合っていると、ふと玲奈が顔を離していじわるっぽく微笑む。
「でも、指輪の用意はしなくていいよ」
「え……」
もしかして結婚したいって言うのは俺の勘違い?
そんなことを思ってしまうが、その考えを否定するように玲奈が俺の手を取って薬指にキスをしてくれる。
「指輪は私から贈りたいんだ。いつか、この指に私が選んだ婚約指輪と結婚指輪を嵌めてみせるからね」
ほぼ逆プロポーズに等しい宣言に思わずドキッとしてしまう。
いや、玲奈はこういう女の子だ。この関係だって玲奈からのお誘いで始まったし、結婚の意思だって玲奈の方がはっきりと示してくれていた。
今もほとんど婚約者に近い関係ではあるんだけど、また近いうちに改めてプロポーズなり何なりをしなくちゃと思っていたけど、それも玲奈の方からやってくれそうな勢いだな。
玲奈はまた胸元の指輪を今度は両手で包み込むように握る。
「一生大切にする。本当にありがとうね隼人」
ここまで喜んでもらえるとこっちまで嬉しい。
プレゼントは一日遅れちゃったけど、二日合わせて最高の誕生日を演出できたと思うと俺も満足だよ。
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