第62話 懐かしい気持ち

 メンズ水着はどれがいいのかさっぱり分からず、結局冬華さんと玲奈が一番オススメするものに落ち着いた。

 せっかくならと冬華さんも水着を新調し、俺の目的だったラッシュガードも選んで、後はちょこちょこと日焼け止めアイテムも買ってお買い物は終了。 

 ちょうどお昼時ということもあり、ハンバーガーでも買って車で食べながら帰ることにした。

 フードコートは人でいっぱいで、さすが人気の大型ショッピングモールだなと思う。


「二人とも、何食べたい? 買ってくるよ」

「私はダブルチーズバーガーで」

「じゃあ、俺は肉厚ジューシーバーガーでお願いします」

「オッケー。セットでいいよね? じゃあ行ってくる」


 ありがたいことに冬華さんが買いに行ってくれた。

 その間に俺と玲奈は近くにあった駄菓子屋に入った。

 昔ながらの雰囲気があるちょっと暗い感じの店内には、子どもだけでなく高校生くらいの男女もちらほらと見える。

 最近は町で駄菓子屋とかも見なくなったし、昔を思い出すって意味ではまさにこのくらいの年代がぴったりあてはまるのかもな。

 小学校三年生くらいかな。友達と一緒に駄菓子屋に行って、お菓子を選んで店で飼われていた犬と遊びながらガムとか噛んだのは。


「懐かしいね、こういうの」


 水飴を手にした玲奈がポツリとそんなことを呟く。


「隼人、小学校の時によく駄菓子屋行ってなかった? 三木くんとか一緒にいたイメージだけど」

「ほんと、玲奈はよく見てるな。正直誰と行ったかなんて覚えてなかったわ」

「隼人らしい。……私も、勇気出して一緒に行きたいって言えばよかった」

「言わなくて正解だと思う」

「どうして?」

「小三の俺って結構なクソガキだったと思うよ。女子と一緒に駄菓子屋とか恥ずかしいって思って断ってたと思う」

「なにそれ」


 ぷっと噴き出すように玲奈が笑い、釣られて俺も笑ってしまう。

 小さな籠を持って来て、お菓子をどんどん詰め込んでいく。

 ガムはもちろん、フルーツ飴って名前のチューイングキャンディ、カツもどきに小袋に入ったスナック菓子、鯛焼きみたいなチョコ菓子も入れていく。

 玲奈は瓶詰めされた水飴を籠に入れた。さすがにこの量はどうかと思ったけど、どうやら料理にも使えるみたいで玲奈の料理スキルには本当に驚かされる。

 童心に返ったみたいだけど、当時と違ってお金に余裕はあるから欲望のままにお菓子が積み上がっていった。


「見て見て隼人! 渦巻きキャンディー!」

「うわほんとだ。ギャグ漫画とかでよく見るやつだ!」

「試してみよう!」


 と、面白いという理由でよく分からないお菓子にも手を出して。

 他にもお菓子かどうか怪しい一口チキンなるものも籠に入れて、最後にレジ横にあった棒付きキャンディーやクッキー類なんかも一緒に入れる。

 俺も玲奈もそれはもういい笑顔で、お菓子で山盛りになった籠を店員さんに渡した。


「結構買ったね。あ、ごめん隼人今小銭を切らしてるから端数出してくれると嬉しいな」


 財布を覗きながら言う玲奈。

 けど、ここで出させるのってなんか違うと思うんだ。せっかくの機会だし格好つけさせてほしいと思う。

 そっと玲奈のお財布を閉じ、自分の財布からお札と小銭を取り出す。


「俺が払うよ。玲奈は気にしないで」

「え? でも、私の方が多分たくさん買ってると思うし……」

「こういう時はありがとうって言って奢られるのが女性のマナーだよ」


 そんなマナー知らんけど。多分ないけど。


「玲奈にはいつもよくしてもらってるし、それに彼氏なんだからちょっとは格好つけさせてほしいんだよ」

「……そっか。じゃあ、ありがと!」


 笑顔で腕に抱きついてくる玲奈が本当に可愛すぎる。

 左腕に幸福感を感じながら支払いを終え、店員さんが無料で袋をサービスしてくれたからお礼を伝えてお菓子を受け取る。

 二人で店を出ると、冬華さんはもうバーガーを買っていて一人ポテトを囓っていた。


「あらあらまぁまぁ。幸せそうなの見せつけてくれちゃって」

「えへへ~」

「ナゲットも買ってマスタードソース付けてもらって正解ね。ピリッとした辛みがないと甘み百パーセントとかいう壊滅的な味になるところだったわ」


 いちゃいちゃはそこまで味覚に影響を与えないとは思うんですがそれは。

 玲奈が冬華さんからバーガーの入った袋を受け取り、俺が買った水着とかを入れた袋を受け取ると冬華さんはポケットから車の鍵を取り出した。


「じゃあ、帰りますか」

「そうだね。帰ろう」


 三人で駐車場に移動する。

 短めの滞在ではあったけど、買いたいものは買えたし満足だ。

 また来たいなと思いつつ、ショッピングモールに別れを告げる。

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