第61話 水着試着
試着室からご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
隣では冬華さんがにこにこ顔で玲奈の水着姿を楽しみにしていて、かくいう俺も実はめちゃくちゃ期待している。
と、試着室のカーテンが開いて玲奈がポージングを披露する。
「じゃーん! どうかな?」
一発目から攻めた水着を選んだなまた。
玲奈が着ているのは、青っぽい生地に白い水玉がいくつも描かれているようなビキニタイプのものだった。
健康的で色白な肌は惜しげもなく披露され、小さくて可愛らしいおへそが上下の布の中心でバランスを取っている。全体的に布面積が少ないのかそれともこれが普通なのかは女子の皆様方の水着事情に詳しくはないけど、ちょっと横乳が見えすぎている気もするんだよなぁ。
かしゃかしゃとシャッターを切る音が連続する。
まぁなんとなく何が起きているのかは予想できるけど、隣を見たら冬華さんが鼻血を垂らして必死にスマホで写真を撮影していた。
「ちょっとお姉ちゃん! なんで写真なんて撮ってるの!」
「人類史で最も美しいものは写真に残しておかないとね。多分次に見られる機会はないんだし」
「え?」
「私的には可愛いと思うけど、それ多分隼人くんは嫌がると思うよ」
冬華さんにも考えている事を読まれていたか。
はい、実はちょっと玲奈にその水着を着られるのは嫌だなって思います。
「隼人はこれ、嫌かな?」
「……あまり、玲奈の体を他の人に見せたくない」
自分でもどうかと思うし、束縛が激しいとも言われそうだけどやっぱり玲奈の素肌を見れるのは自分だけがいい。
最後にどんな水着を選ぶのかは玲奈だけど、個人的感想は冬華さんとほぼ一緒。可愛いとは思うんだけど海とかプールでは着てほしくない。
「ご、ごめんねっ! 次の水着に変えてくる!」
慌てた玲奈はすぐにカーテンを閉めて、それからすぐにそっとカーテン下から元の状態に戻されたさっきの水着が返却されてきた。
「じゃあ、私はこれ返してくるわね~」
冬華さんは、さっき撮りまくった写真を見返しながら水着を元あった場所に戻しに行った。
そうこうしているうちにカーテンが開き、次の水着に着替えた玲奈が姿を見せる。
「こっちならどうかな?」
胸がドキッとするとはまさにこのこと。
白っぽいフリル付きビキニは子どもっぽさを適度に残しつつも落ち着いた雰囲気を纏わせていて、ミニスカートみたいなデザインの下は大人っぽさという上下で反する印象を与えてくれる。
俺の意見も考慮してくれたのか体感でさっきの三倍くらい布面積は増えていて、でも可愛さはもっと増えていて好みのど真ん中を撃ち抜かれてしまった。
やっぱり背中の方からシャッターを切る音が聞こえてきたし、玲奈も半分呆れ顔で額を抑えている。
「いいわ~! 似合ってるわよ玲奈!」
「もうっ! ……それで、どうかな隼人? 可愛い?」
「可愛いですありがとうございますごちそうさまです」
自分でもビックリするくらい早口で感想が飛びだしてきた。
仮に俺と玲奈が水着で横並びになったらまさにダイヤとガラス。いや、ダイヤと礫かな。間違いなく玲奈の輝きがすごいことになる。
これが俺の彼女だぞって思うだけで、そんなことするつもりはないけど国民的俳優と国民的女優以外のすべてのカップルにマウント取れそうだなと思うし、そうでなくても仲良く話しているだけで男子諸君から怨嗟の酷い視線を向けられそうなくらい綺麗だった。
両手を合わせて拝んでいると、玲奈もぷっと噴きだして試着室に戻っていく。
「じゃあこれにしようかな。隼人も気に入ってくれたみたいだし」
カーテンが閉められると、またご機嫌な鼻歌が中から聞こえてきた。
「私の妹が何を着せても可愛い件について」
「全面的に同意です。あ、さっきの写真あとで売ってください」
「金銭じゃなくてトレードといきましょう。デート中の玲奈の写真と交換でどう?」
「取引成立ですね!」
「闇取引なんてさせないからね!?」
おっと、聞かれていたか。
私服に着替えた玲奈が水着を腕に引っかけて試着室から出てきた。
むすっと頬を膨らせている姿もまた可愛いものだ。ただ、怒らせると後が怖いから、冬華さんとの取引は玲奈がいないところでやろう。それで眩しい水着姿を待ち受けにするんだ。
玲奈は持っていた水着を冬華さんに預けると、今度は俺の背中を押して試着室へと押し込んできた。いつの間にか冬華さんのほうも準備をしていて、籠にいくつかの男性用水着が詰め込まれている。
「じゃあ次は隼人の番ね。格好いい姿を見せてほしいな」
「選りすぐりの水着を持って来たわよ! さぁさぁ!」
「隼人の水着姿を待ち受けに……えへへ……」
俺も玲奈も揃って同じ事考えてるな!
ここは、合法的に玲奈の水着を待ち受けに設定するために、そしてプールで少しでも玲奈に見劣りしないために塵レベルの俺の美的センスを揺り起こして水着を選ぶとしよう。
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