第59話 誕生日プレゼント

 ケーキが大量にあるにも関わらず、玲奈はそれはもうすごいご馳走を用意してくれた。

 コンソメスープにマッシュポテト、牛すじ肉の赤ワイン煮込みにシーザーサラダ。ちょっとした配慮なのか小さめのムニエルまであるけど、絶対に作りすぎだと思う。

 ただ、味は本当に美味しい。高級レストランで出てきてもおかしくないほどの出来に、改めてこんな美味しいものを作れる玲奈が彼女で幸せ者だという事実を再認識する。

 あっという間に用意されたご飯を食べ終えると、冬華さんが机の上の皿をササッと片付けてくれていた。

 さらにはケーキに合わせる高級蜂蜜紅茶の用意まで始めてくれて、何から何までしてくれるとありがたくもやはりちょっと申し訳なく思っていると、玲奈が鞄の中から丁寧にラッピングされた包みを取り出した。


「お誕生日おめでとう隼人。喜んでくれるか分からないけど、はいプレゼント」


 胸が温かくなってくる。

 お礼を伝えて包みを受け取る。ちょっと大きめで、ある程度重さもあった。


「開けていい?」

「もちろんいいよ」


 玲奈から許可をもらったから、なるべく包装を破らないように慎重に開封していく。

 それから中に手を入れると、カードのようなものが指先に触れた。

 引っ張り出してみると、それは丸く可愛らしい文字で書かれたメッセージカードだった。


「隼人と一緒に過ごすことができた今までの日々は本当に幸せで、今までの人生で一番充実した日々で、その感謝や普段は言えないようなことをまとめたんだ。気持ちを込めて一生懸命作ったんだよ」


 尊すぎる、と思いましたはい。

 これもう一生の宝物です。俺が死んだら棺に一緒に入れて火葬してください。天国の神様たちにウザいくらい自慢してやります。

 メッセージカードとは言うけど厚さはちょっとした冊子くらいはあるし、文字だけじゃなくて可愛いイラストや小さくプリントした写真まで貼り付けてある。

 多分だけど一週間やそこらじゃ準備できないような代物だし、何より俺のことを想いながら作ってくれたんだと思うと自然と涙が出てきた。


「ど、どうしたの隼人!? やっぱり……こういうのは嫌だった?」

「違う違う。こんなものを作ってくれるなんて嬉しくてさ。本当にありがとう……!」


 玲奈は笑顔で頭を撫でてくれた。

 涙を拭ってカードを膝の上に置き、再び包みを持つとまだ中に何か入っている。

 何だろうと思って取り出すと、立派な黒革の長財布が姿を見せた。


「お財布だ」

「うん。ほら、使ってたものは例の一件で貫通しちゃったじゃない? 前に使ってたもので代用していたみたいだけど、やっぱり新しいもの持ってた方がいいんじゃないかって」

「近く買いに行こうと思ってたんだよ。ありがとう」


 俺が欲しいものまでしっかり分かっている玲奈さんマジ有能。

 小物みたいな感想だけど、持っているだけでしっかりした大人みたいな風格を醸し出せそうないいやつ。入店するのに敷居が高そうな店のショーケースに置かれていそうなものだ。

 早速今使っている財布を持ってきて、中に入っていたお金やポイントカードやらを入れ替えていく。

 中身が詰まると重量感が手に伝わってきて、テンションは上がるし嬉しくもなってくる。

 いつか都内の高層階にあるレストランで玲奈と食事を楽しんで、帰り際にこういう長財布からクレジットカードをスマートに取り出して支払いを済ませるって感じでできる彼氏もどきを演じるという端から見たらしょうもないかっこつけたことをするという夢に一歩近付いたぞ。

 なんてことを考えていたら、冬華さんが人数分の紅茶を俺たちの前に置いた。

 一緒にケーキも運んできてくれて、さらには小さな箱も持って来てくれる。


「お待たせ~。あと、私からもプレゼントだよー」

「ありがとうございます!」


 玲奈がケーキを切り分けてくれている間に箱を開ける。

 中から出てきたのは大人びた感じの腕時計。質感がすごくいいやつ。


「気に入ってくれた? そういうの似合いそうだなって思って選んでみたんだよ」

「格好いい」

「……なんか、お姉ちゃんに負けた気がする」

「たった十二万円だよ。玲奈のお財布の方が高そう」

「……二万円です」


 プレゼントの額をそんなおおっぴらに言うものじゃないと思うけどな~。というかやっぱり冬華さんだけ額の桁がおかしいんだよ。


「プレゼントは金額じゃないですから」

「だよね。一番は気持ちだよ」

「一番お金かけてるお姉ちゃんが言うと違和感しかない」

「まぁまぁ。正直、一番もらって嬉しかったのはこれだから」


 これは冗談でもなんでもなく、玲奈が作ってくれたメッセージカードが一番嬉しい。

 二日に一回は読み返す自分が容易に想像できる。そして、こういうものを用意できてないからガッカリさせてしまわないかも不安になる。

 俺の言葉を聞いた玲奈は照れたように笑ってケーキを口に運んだ。


「さ、さぁケーキ食べよう! 美味しいよ!」

「だね」


 俺もケーキを口へと運ぶ。

 口も心も甘く優しい味わいで満たされて、もう満足してしますとも。

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