第58話 買い物に行くお散歩
結局ゲームでは冬華さんにボコスカにやられてしまった。
結果発表の画面が流れていて、最初にコンピューターがみかん怪獣に行き先を塞がれ、次に俺が電波怪人に痺れさせられ、最後に玲奈がなまはげに放り投げられて冬華さんの優勝という文字がでかでかと映し出されている。
「いやー、面白かった~」
「やっぱりお姉ちゃんは強いや」
「本当に。ここまで手も足も出せないとは」
「二人とも、まだまだだね!」
ふふん、とドヤ顔の冬華さんがまた面白い。
と、ここで玲奈は時計を見て立ちあがった。
「そろそろ時間もいい頃合いだし、予約していたケーキを取りに行ってくるよ。あとついでに買い物もしてくる」
「じゃあ俺も行くよ」
「隼人は家でゆっくりしてていいんだよ? 今日は隼人の誕生日だし、主役なんだから」
主役の割には加減なくゲームでボコられた気がするんですが?
まぁ、それはおいといていくら誕生日といってもさすがに玲奈一人で買い物に行かせるのはどうかと思う。ケーキも大きければ荷物になるだろうし、買い物もするとなれば荷物持ちくらいはしなくちゃいけないだろう。
「荷物持つって。一人だと大変だろ?」
「ペンギに行こうと思ってたんだけど、もしかして誕生日プレゼント狙い?」
「いや、そんなんじゃないって」
「あはは! 心配しなくてもちゃーんと喜んでくれそうなもの用意してるから」
いや、ほんとマジでプレゼント狙いとかこれっぽっちも思ってないから。
ただ、ムキになって否定するのもなんか違うからまぁここはおとなしくプレゼントを期待している素振りを見せておこう。玲奈なら本当に俺が喜ぶプレゼントを用意してくれているはずだから。
……あまりすごすぎるものはやめてほしいけど。俺が用意してる玲奈への誕生日プレゼントが鼻で笑われるレベルのものにならないくらいでお願いします。
ささっとゲームを片付けて、買い物袋やらお財布やら持ったら家を出る。
すると、先に家を出ていた冬華さんが自慢の高級車にもたれかかって鍵を指でクルクルしていた。
「乗ってく?」
「ありがと。でも、今日は歩いていきたい」
「あらそう? 隼人くんは?」
「俺も玲奈と一緒に歩きたいですね」
「そっか。じゃあ私は家で待ってるね」
冬華さんが家の中に戻っていったのを見て、俺と玲奈はペンギに向けて歩き始めた。
道中で玲奈の手が何度か俺の手に触れてきて、その仕草が可愛いなと思いつつ鈍感な振りをするのは悪いから玲奈のお望み通り指を絡ませて握る。
ちょっとビクッとした玲奈だけど、すぐに同じように指を絡ませて握り返してきてくれた。体の距離も近付いて肩同士が触れ合う。
傾きかけた陽が玲奈の顔を照らしていて、何度見てもやっぱり同じ事を思うけどこんな可愛い彼女がすぐ隣にいてくれて俺は幸せ者だと思う。家族には恵まれなかったけど、すべてはこの時のための不幸の連続だったのではないかな。
「あ、隼人」
「ん?」
「隼人ってスイカ食べられるようになったの? 繋がりでメロンも苦手だって言ってなかった?」
あれ、俺玲奈にスイカが苦手だって話したっけ?
記憶では話してないけど、まぁ玲奈だから知っていてもおかしくないと思う自分がいる。というか幼稚園の時にスイカを初めて食べて吐きだしたことは覚えているから、それを覚えていてくれてるのかな?
「まだ苦手だわ。スイカもメロンも味は問題ないんだけど食感がどうにもダメで」
「……どうしよう。よく考えたらフルーツケーキにメロンが乗っていた気がする」
そりゃフルーツケーキなんだしメロンは割とよく見る組み合わせだわな。
「ごごごごめんね! そんな大切なこと忘れていたなんて!」
「いやいいって! 俺のためにケーキ買ってくれたのも嬉しいし、それに切り分けたときに俺のところにメロンが乗らないようにすればいいんだからさ」
だからそんな悲壮そうな顔をしないでほしい。どうでもいいことで悲しまれると胸が痛くなる。
ここは話題を変えよう。
「そういえばさ。玲奈の家って毎年誕生日は何か特別なご飯とか用意してたの?」
「そうだね。隼人に喜んでもらえるようなものを仕込んであるよ」
「そりゃ楽しみだ」
今まで誕生日の特別なご飯って雨宮たちにトッピングマシマシカレーを奢ってもらったとかそういうのだからな。
一応、杏奈にも祝われたことはあるけど玲奈ほど豪勢にはしてくれなかった。玲奈が豪華すぎるっていうのもあるかもしれないけど。
さて、そういうことなら今晩のメニューを楽しみにしておこうかな。
玲奈お手製の特別料理に、フルーツケーキ、それから冬華さんが買ってきたショートケーキとチョコケーキか。
……ペンギでついでに胃薬とかも買っておいたほうがいいかもな。
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