第56話 またまたまたお姉さん大暴走
俺が玲奈にゲームでボコられていると、玄関扉が開く音が聞こえた。
ちょうど月替わりのセーブのタイミングだったから一旦中断して出迎えに行くと、予想通り冬華さんが帰ってきていた。
「ただま~。ケーキ買ってきたよ」
「わぁ! お姉ちゃんありがとう!」
「今日は隼人くんの誕生日だからね。奮発しちゃった」
「ありがとうございます」
冬華さんいい人! 玲奈の次に好き!
と、冬華さんはリビングまで行き、持っていた袋を机の上に置いた。デパートに入っている高級ケーキ屋さんのロゴがあるから、これがケーキだろう。どんなものを買ってくれたのか非常に楽しみになっている。
早速玲奈が袋からケーキの入った箱を取り出してくれた。
大きさ的にはホールサイズか。かなりお高いだろうに、ありがたいことだ。
冷蔵庫のスペースを空け、ケーキはその空いたスペースにイン。ケーキを食べる夜を今から楽しみにする。
そうして振り返ると、なぜか机の上に今冷蔵庫に入れたはずのケーキの箱が置かれていた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「いやこれ……それに箱が二つ……」
「ほんとだ」
玲奈もビックリしたようで、目を白黒とさせていた。
ここで冬華さんが得意げに胸を張る。
「いや実はね、誕生日といえばショートケーキだって私は思ってるし、隼人くんはイチゴ好きだよね?」
「はいそうですね……?」
確かにイチゴが好きだって話はした。だからショートケーキを買ってきてくれたんだと話の流れ的には思うんだけど。
「で、ケーキ屋さんを覗いたら美味しそうなケーキがたくさんあるわけよ」
「そうだね。この店、人気店だもん」
「で、売れ筋ナンバーワン商品がチョコケーキだって言うの。でも誕生日と言えばショートケーキじゃない?」
「まぁ、そうかも……」
「だから両方買っちゃった」
ちょっと待てだからの使い方おかしくなかったか?
改めて冷蔵庫の中を見ると、冬華さんが買ってきたショートケーキの箱がちゃんと入っている。中身を確認できる覗き穴から見ると、ホールサイズで。
で、次に机の上に置かれている箱を確認する。
覗き穴から見ると、そこには立派なチョコケーキが入っていた。……ホールサイズで。
両方買ってくるのはまだ分かるとして、なんで両方ホールサイズなんだよ俺は別に大食いファイターでも何でもないんだけど。
「ちょっとお姉ちゃん……何で二つともホールなのよ……」
玲奈も同じ感覚だったみたいだ。俺がおかしいわけじゃなかった。
「いや、これにはマリアナ海溝よりも深いわけがあるんだって」
「一応聞くね。どんなの?」
「隼人くんはホールケーキが食べれてラッキー。玲奈はそんな隼人くんの喜ぶ顔が見られてラッキー。私は玲奈の嬉しそうな顔が見られてラッキー。それが二つだと二倍ラッキー!」
あっさ! てかかなりの脳筋理論で草生える。
たしかにホールケーキだと嬉しくなるけどさ。にしても限度ってものがあるでしょうよ。
玲奈も苦笑いで頬を掻いていた。
「ところでお姉ちゃん。多分忘れてると思うんだけどさ」
「なに?」
「私、これとは別に隼人の誕生日ケーキを予約してるって話してたよね?」
「……そうだっけ?」
「え、ちなみにサイズって……」
「……ホール」
なんてこった。
いやほんとまじでどうするんだよさすがにホールケーキ三つは死ぬぞ。
あぁいや、無理に今日で全部消費する必要はないのか。二日三日くらいに分ければどうにかなるか?
「残念隼人。なるべく明日までに食べきらないと」
おっと考えを読まれたか。そんなに分かりやすかっただろうか。
というか、明日までにとは一体どういうわけで……。
「私の誕生日も近いんだよ。絶対お姉ちゃんまたケーキ買い込んでくるって」
「……あり得る」
「二人して! 私のこと何だと思ってるの!?」
「買い込まないって自信持って言えるの?」
「言えませんごめんなさいこの一週間はケーキたくさん食べちゃおうウィークにしよう」
なんだそのある意味甘々な週間は。
カロリーとか大変なことになりそう。若いうちはそんなに気にしなくていいかもしれないが、ちょっと運動する時間を増やそうか。
まぁ、とにもかくにも傷むとダメだからチョコケーキも冷蔵庫へと入れておこう。選択肢が増えるのは純粋にありがたいことだ。
「ちなみに玲奈はどんなケーキを予約してくれたの?」
「イチゴ多めのフルーツケーキ。私が小さい頃から好きなケーキだから、隼人にも好きになってほしくて」
玲奈が好きな味なら間違いはないだろう。どれも楽しみだ。
もういっそのこと、夕食は全部ケーキでいいんじゃないだろうか。世の中にはケーキバイキングとかもあるくらいなんだしさ。
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