第55話 ゲーム対決

 朝が遅めだったせいか、お昼ご飯はいいかなという空気が流れる。

 洗い物はしてくれるとのことだったから、そのままソファに座ってボーッとスマホを眺めていた。

 こう、無駄な時間を過ごしているこの瞬間がわりかし気持ちいい。暇そうにネットサーフィンしていると休みだって気がするんだ。

 しばらくイラスト投稿サイトで好みのイラストを物色していると、洗い物を終えた玲奈がゲーム機を持ってやって来る。


「ねぇねぇ隼人。これで遊ばない?」


 そう言って玲奈が差し出してきたのが、社長になって日本全国を駆け回り、会社を発展させて他プレイヤーと競うというゲームだった。一部では友情破壊ゲームなどと悪名高いが。

 その特性上、勝つためにはかなりえげつない嫌がらせを必要とする場面も多いこのゲーム。

 俺としては遊んでもいいのだが、これで関係に亀裂が生じるとか最悪だぞ。素直に遊んでいいものか……。


「大丈夫だって! 私も全力でいくから! ゲームで怒ったりしないよ」

「……そういうことなら」


 考えを読まれていたみたいで、玲奈に笑われてしまった。

 しかし、言質は取った。俺が酷いことをしても怒らないみたいだ。

 ならば遠慮しない! 本気でいかせてもらおうか。

 玲奈からコントローラーを受け取り、二人並んでソファに座ってゲームを起動――


◆◆◆◆◆


『へっへっへ。社長税として持ち金全部いただきやしょう』


 ゲーム開始から十五分ほど。

 今まさにスリに有り金全部持っていかれた俺を見た玲奈が横で肩をぷるぷる震わせながら必死に笑いを堪えている。

 スリが出やすくなるカードを玲奈に使われたそのターンのうちにまさか有り金全部パクられるとは思わなかった。いや、買い物マスに止まらなかった俺も悪いけどさぁ。

 それに、悪いことはまだ続く。今の俺は玲奈の攻撃で王様悪魔を引き連れているから、無一文からさらにお金をぶんどられるのだ。


『社長! お金が足りません! 何を売りましょう!?』

「わかっとるんじゃおんどりゃぁ!」


 魂からの悲しみの叫び。

 無一文からどうやってお金を持っていくんだよ。なんでそれで借金になるんだよ。

 理不尽さに愚痴を漏らしながら、渋々利益が低くてある程度高値で売れるものを売却してお金を作る。

 これでまた玲奈との差が広まってしまった。コンピューターには中級レベルのキャラを選択しているけど、そいつに追いつかれそうになるのだけは避けたい。

 どうにかこうにか所持金をプラスにすると、笑いすぎて目尻の涙を拭いながら玲奈が背中をぱしぱし叩いてくる。


「ごめんごめん。まさかここまで綺麗に決まるとは思わなくてさぁ……ぷふっ」

「このぉ……!」


 絶対にやり返してやるからな。そのプランも既に俺の中で組み上がっているし。

 俺の次はコンピューターのターンだけど、そいつは前のターンに疫病神を大厄災神に変身させてしまっている。こいつを玲奈にぶつけてやろうと思うんだ。

 今、玲奈は乗り物カードを持っていない。つまり移動はサイコロのみとなる。

 それを分かっているのか、早速コンピューターは玲奈に向けて移動を開始していた。

 ギリギリ届かず大厄災神の攻撃で数十億円をポイ捨てされている。もう売れるものは農林だけのコンピューターは借金を抱えていた。

 月は変わり、玲奈のターンになる。

 逃げるためにカードを確認しているようだが、残念だったな。サイコロしか使えまい。

 玲奈は四マス移動し、止まった都市を独占購入した。これでまた玲奈との差が開く。

 でも、甘い。甘いぞ玲奈!

 そこはコンピューターの射程内。そして、より確実性を高める俺の反撃を始めようと思う。

 てってれー! 指定おトイレカード~!

 指定したマスにおっさんが現れてトイレを設置して立てこもり、通行不能にするという嫌がらせカードだ。これで玲奈の退路を断つ!


「あぁっ! なんてことを!」


 玲奈の慌てた声が気持ちいい。大金の恨みは晴らすぜ!

 コンピューターが自由サイコロカードを持っているのは確認済み。これでぴったり重なって玲奈に大厄災神を擦り付ければ、確実に玲奈が被害を受ける。

 サイコロで六マス進めば戻ってきて擦り付けることもできただろうに、そのルートはおトイレが封鎖している。逃げ場はないぜ!

 狙い通り、コンピューターが自由サイコロカードでぴったり玲奈と重なった。大厄災神が玲奈に取り憑く。


「っしゃぁ! こっから逆転いくぞぉ!」

「酷いよ隼人! 虐めて楽しい!?」

「楽しいよ! なんたって俺は悪魔の大群を召喚されてスリの被害を受けやすくされた上に、今までも無理やり眠らされたり牛にされたりしたからな!」


 玲奈からの集中攻撃の恨み、ここで全部返してやる。

 さぁ玲奈! お前も俺と同じように借金を味わうが――、


「あ、ぴったりカード」


 なんて?

 玲奈がぴったりカードを使って、俺と同じマスに飛んで来て大厄災神が俺に取り憑いた。


「隼人」

「……なに?」

「プレゼント」

「ちっくしょぉぉぉ!」


 乗り物カードを使うけど、カスみたいな出目で玲奈に擦り付けることができなかった。

 そのまま、大厄災神とのサイコロ勝負になって、負けた俺は持っていた農林物件を全部ポイ捨てされましたとさ。

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