第53話 プレゼント選びにお呼び出し

「で、私が呼ばれたと」


 旅行から帰ってきた数日後、俺は雨宮と坂田の二人をショッピングモールに呼び出していた。

 理由は簡単。どういったものが誕生日プレゼントに相応しいのかアドバイスをもらいたいと思ったからだ。


「まっつんのプレゼントならなんでも喜ぶと思うけどね。玲奈ちゃん、あれで結構チョロいだろうし」

「でも、せっかくの誕生日だし年に一回だし、日頃の感謝も込めていいものを渡したいなって。雨宮は女子目線でどういったものが喜ぶとか、坂田はどういったものをプレゼントしてるとか教えてもらえると助かる……!」

「簡単じゃんそんなの」


 自信満々な様子の坂田。これはもしかすると期待できるかもしれない!


「子種でもプレゼントすりゃ……」

「「却下!」」


 俺と雨宮が同時に叫ぶ。

 こちとらまだ大学生だぞ。そういうのはまだまだ早いだろうに。

 苦笑いでため息を吐いた雨宮は、とりあえず歩こうと言うので俺も坂田もそれに付いていくことにした。

 今いる階は子供向けのおもちゃや洋服類がメインになっているから、別の階に移動してプレゼントを探す。


「ところでまっつん。どういったものを贈りたいか漠然とでいいから教えてよ。あと予算の目安」


 どういったものを贈りたいか、か。そういうのを考えることも忘れていた。

 なるべく食べ物とかより普段使いできるものの方がいいかな。思い出としてずっと残っていてほしい、と思うのは女々しいだろうか。


「普段使いできるものが理想かも。予算は気にしないけどなるべく五万以内に収めたい」

「五万とか多すぎるって。あまり人の恋事情に口挟むものじゃないと思うけど、一般的に三万円でも相当高価な方だと思うわよ」

「この前俺が小春にプレゼントしたぬいぐるみは八千円だったわ。参考にしてくれ」

「彼女の前でそれ言うのマイナスポイントね」


 それは俺も思った。値段とかおおっぴらに言うものじゃない。

 三人でエスカレーターに乗る。

 雨宮はもう頭の中にいい感じの案が浮かんでいるのか、目的地が決まっているように軽快な足取りだった。


「まっつんに今日だけじゃなく今後のプレゼント選びについて助言を与えよう。心して聞くがよい」

「ははっ!」

「ノリいいね」


 こういうのはノってなんぼよ。細かなことでテンションを上げておいたら思い切りもよくなれるというものだ。


「一緒に買いに行くんだったり普段使っているものを知っていたりするのならともかく、そうじゃないなら化粧品とか香水は厳禁ね。あと洋服もなるべく避けた方がいいかも」

「プレゼントの代名詞みたいなものが候補から外された」

「体質だったり肌に合う合わないがあるんだから。でも、逆にこれ以外だったら本当に好き同士なら案外なんでも喜ばれるものよ」

「雨宮もそうなんだ」

「もちろん。りっくんがプレゼントしてくれるものなら嬉しいに決まってるじゃない」

「そう言われると照れる。もうすぐ付き合って一周年半だし……何かプレゼントするよ」

「やった!」


 俺を挟んで雨宮と坂田が甘い空気を流し始める。場所、代わるからいつでも言ってくれよな。

 でも、そういうものなのか。結局は気持ち次第。なるほどなるほど。

 個人的にはそういうのが難しいと思うんだよな。

 感謝と祝福の気持ちはそりゃ目一杯込めるんだけど、それを何に込めるかで永遠に悩むんだよ。

 と、雨宮がエスカレーターから離れた。

 雑貨や衣服、宝石やアクセサリーなどを売っているお店が並ぶ階に到着する。


「無難なのはやっぱりアクセサリーとかかな。普段使いもできるし可愛いし、気持ちが感じられるし」

「なるほど」

「あと、別れた時に多少の値段が付くし」

「おいいきなり不穏なことを言うのはやめろよ」


 別れるの前提とか悪魔かよ。俺と玲奈は別れるつもりないからな。


「ごめんごめん。あ、それと、まっつんのその感じだとどうせ玲奈ちゃんの指のサイズとか知らないだろうから、もし今日買うのなら指輪はやめておきなさい。絶対後で大変なことになるから」

「俺だったらネックレスにするかな。小春に贈るならそういうの喜びそうだし……ちょっと買ってくる」

「ありがとりっくん! 他はそうね……玲奈ちゃんはイメージないけどイヤリングとか?」

「やっぱりそこら辺か。サンキュー助かった」


 二人にはずいぶんとアドバイスをもらった。ここからは自分の力で決めよう。

 二人の話を聞いて、やっぱりアクセサリーがいいのかなと思った。候補は指輪かネックレスか。

 今日買うならネックレス一択だけど、指輪の方が特別感もありそうで少し悩む。

 あと、指輪を贈るとして重すぎるとか思われないか心配だ。

 いやでも、今どきペアリングとか普通に着けてるし何も指輪が婚約指輪や結婚指輪を表すものじゃないし。

 そもそも玲奈とはほぼ婚約関係だし別に婚約指輪に違和感を感じるかと言われたらそうでもないしで……。


「ん。これ……」


 悩んでいたら、それがふと視界に入ってきた。

 気が付けば引き寄せられるようにそれを手に取っていた。これにしようと囁く自分も生まれてくる。

 一旦手にした物を元の場所に戻す。

 それから、玲奈が一番喜びそうなものを思い浮かべて――、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る