第51話 まさかの出会い
ジリジリと熱い日差しが肌を焼く。
遠くには緑溢れる避暑地になりそうな場所が見えているのに、ここらはアスファルトの道路だからめっちゃ熱い。暑いじゃなくて熱い。
熱気を我慢しながら歩くと、先に行っていた冬華さんが既に金箔ソフトを買って食べていた。さっきあれだけ食べていたのにまだ入るとかすごいなこの人の胃袋。
「二人も食べる?」
「あ、いや俺は大丈夫です」
「私も今はいいや。それより、行こう!」
坂をもう少し登れば兼六園の料金所。さすがに木陰が多いだろうから多少は熱気もマシになるのではなかろうか。
どんどん歩いていく玲奈を追いかけるように歩いていくと、警備員さんが見えてきた。料金所に着いたんだ。
さすがに食べながらっていうのも気が引けるから、冬華さんがソフトクリームを食べ終わるまで待ってから料金所でチケットを買う。
チケットを入手して早速門の向こう側へ。
と、早速心地よい感じの涼風が吹いてきた気がした。水の気持良い音が聞こえる。
俺たちを出迎えてくれたのは池だった。かなりの数の鯉が泳いでいる。
近くには茶室みたいな建物もあって、その近くには休憩所もありここでいろいろとおやつが食べられるみたいだ。
「お姉ちゃんがソーダとか買いそう」
玲奈が苦笑いで言っているのを聞いて、ちょっとありえそうと思ってしまった。
冬華さんは鯉を撮っているけど、休憩所に気づいたら本当に何か買いに行ってもおかしくないかも。いやまぁソフトクリーム食べたばっかだしまだ間食には早いと思うけど。
おっと、冬華さんがスマホをポケットに入れて休憩所を発見したみたいだ。やっぱり飲み物でも買うのかだろうか。
「――あら奇遇ね。冬華も来ていたなんて」
なんて、思っていたらその休憩所でお団子を食べていた女性が冬華さんに話しかけていた。
すごい綺麗な人だなというのが最初の感想。若く見えるけど、気のせいか冬華さんより大人びているというかかなり年上というか。同い年には見えない。
でも、名前呼びということは親しいのだろう。職場の同僚さん……かな? でも冬華さんって会社とか行ってるイメージが……。
「あ、お母さん」
「お母さん!?」
え、そんなことある!? 旅行先でたまたま会う?
どうやらあの女性は玲奈たちのお母さんみたいで、まぁそう言われるとどことなく面影が。というか親子揃って美人とかすごい遺伝子だ。
休憩所からちょっと遅れて男性二人も玲奈のお母さんに付いてきたから、多分だけど玲奈のお父さんと……冬華さんに近い年頃の人はお兄さんだろうか。
と、冬華さんと話していた玲奈のお母さんがこっちに歩いてくる。ここは普段から玲奈にお世話になっている身として挨拶しておこう。
「玲奈も一緒に来ていたのね。で、そっちがあの?」
「はじめまして! 玲奈さんとお付き合いさせていただいている松井隼人といいます!」
「隼人くんね~。私は
「ちょっ!? 言わないで!」
玲奈が美穂さんの胸をポカポカと叩いている。え、可愛い。
普段から俺のことをどういう風に伝えているのか、それも気になるかもしれない。
「あ、あなたー。玲奈と彼氏の隼人くんがこっちにいるわよ~」
美穂さんがお父さんを呼んだ。
ここはお父さんにも挨拶をして、顔を覚えていてもらおう。
「はじめまして。松井隼人といいます。玲奈さんとお付き合いさせていただいておりまして……」
そう切り出したけど、お父さんはなんか気のせいかもしれないけど冷たい目でチラッと俺を見るだけで横を素通りしていった。
「玲奈と冬華も魚を食べに来たのか。なら、のどぐろは食べておくといい。あれはいいものだ」
「それならもう食べたよ。でね、お父さん。こっちが彼氏の隼人で――」
「母さん。あっちに有名な噴水があるみたいだ。行こうか」
「え、えぇ……?」
玲奈の話を遮るようにして、お父さんが美穂さんと、冬華さんと話していたお兄さんを連れて行ってしまった。
結局、話すことはできなかったな。名前も聞けなかったし。お兄さんには挨拶もできなかったし。
というか、どことなく俺、避けられてないだろうか。
美穂さんたちの背中を見送りながら冬華さんが戻ってくる。
「なにあれ感じ悪っ。ごめんね隼人くん」
「あぁいえ。大丈夫です」
「どうしたんだろう? お父さん、いつもはあんなんじゃないのに……」
玲奈が悲しそうな顔をしていたから、旅行に来てそういう顔は違うと思い手を引く。
「俺たちも行こう。向こうの景色が綺麗だってパンフレットに載ってる!」
「ん。分かった」
頷いた玲奈が付いてきてくれる。
ただなぁ……。今気にすることじゃないかもしれないけど、俺は玲奈の家族と上手くやっていけるかな。
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