第49話 遊びに出かけよう

 次の日、朝食会場で冬華さんと合流した俺と玲奈は、朝食を食べながら今日の予定を話し合った。

 二日目は能登半島の方に行ってみようかという話だったけど、初日にあまり行動しなかったから金沢で一日を過ごすというのもありだという意見も出てくる。

 市場、茶屋街、兼六園、美術館、町内散策……。

 やりたいこと、行きたい場所は無限に出てくる。まだまだ日にちに余裕はあることだし、奥地に行くのは明日以降でも良いと思う。

 というわけで、今日の予定は近場を巡る旅に決定だ。

 朝から美味しいご飯とお味噌汁、そしてコロッケやハッシュポテトでお腹を満たし、一度部屋に戻って遊びに出かける準備をする。

 財布やスマホを鞄に詰め、その他必要になりそうなものも入れて部屋を出た。

 今日は暑いらしいから、サービスでもらった水のペットボトルも一緒に持ってロビーで冬華さんを待つ。

 その間に玲奈がパンフレットを広げてルートの確認をしていた。


「近江町市場から金沢城跡、兼六園ってルートが結構いいかも。歩きやすいと思うし」

「え、歩くの?」

「バスでもいいけど、歩いた方がいろいろ見れて楽しいと思わない?」

「俺はいいけど……玲奈は大丈夫? 暑くない?」


 熱中症にならないかが心配だ。玲奈が倒れるようなことは避けたい。


「水もあるし大丈夫。途中にいろいろお店があるみたいだし、寄り道して休憩しながらだと問題ないよ」

「玲奈がそう言うなら」


 ちょくちょく様子を見ながら歩けばいいか。

 ルートはある程度決めたから、後はそれぞれの場所で何を楽しもうか考える。

 と、そうしていたら冬華さんが涼しそうなワンピース姿でやって来た。


「お待たせ~」

「理不尽。そんな大学生みたいなワンピースが似合うなんて、お姉ちゃんどういう体してるの」

「私これでもまだ二十前半だけど!? まだまだ若いけど!?」


 遠回しに年を取ってるみたいに言われた冬華さんが涙目になっていた。

 このままだと喧嘩に発展しそうだったから、まぁまぁと仲裁してホテルから出て行くことにする。

 ホテルを出て、近江町市場方面に歩き出すこと約一分。

 昨日見つけた雰囲気が良さそうな居酒屋を冬華さんも見つけ、横を通り過ぎる間ずっと目を向けていた。


「やっぱりお姉ちゃんも気になる?」

「うん! 今夜はあそこで決まりね」

「あ、決定なんだ」


 早速今晩のご飯が決まりました。

 それからしばらく道を真っ直ぐ歩いて行くけど……やっぱり暑い。

 日差しがジリジリと照りつけ、全身から汗が噴き出てくるような感覚がする。臭いが目立たないようにと香水は持って来たけど、果たしてこれを付けるのは正しい判断となるのか。


「ごめん隼人。ちょっと離れて」

「え……」


 前触れもなく拒絶された。やっぱり俺、臭かっただろうか……。


「汗掻いちゃったから……今の私、ちょっと臭いと思う。幻滅されたくない」


 顔を背けてそう言ってくるけど、え、可愛い。

 そんなの今さらだし、玲奈のすべてが好きだから俺は全然気にしていない。

 嫌がられるかもって少し怖かったけど、覚悟を決めて距離を寄せてから指を重ね合わせる恋人繋ぎをする。


「ひゃっ! だめ……手汗も……!」

「俺も汗すごいから。気にしないし、手を繋ぎたい」

「……いい、よ」


 絡み合う指に入る力が強くなった。

 離れないようにしっかりと手を密着させる。


「どこか店に入る? 私コーヒー飲みたくなった」


 俺たちを微笑ましく見ていた冬華さんに言われ、急に恥ずかしくなって近くの店を探す。

 すると、ちょうど冷房が効いた屋内の自動販売機専門の区画を見つけたから、そこにお邪魔する。

 冷風に火照った体を委ねて冷やしていく。汗を掻いていた分、少し寒いくらいだ。

 それは玲奈も同じだったのか、臭いが気になるとさっきまで言っていたのに体を密着させるように寄せてくれた。

 間近で見る額には薄らと汗が滲んでおり、ハンカチを取り出して拭ってやる。


「ん。ありがと」


 お礼を言われる。

 と、何度かガチャン、という音が聞こえて、見ると冬華さんが何本ものアイスコーヒーをブラックで鞄の中に詰め込んでいた。


「さっ、行きましょうか」

「お姉ちゃんコーヒー買いすぎじゃない?」

「実は保冷剤を鞄に入れているから大丈夫。まだまだ冷えた状態で楽しめるから」

「そうじゃなくてさ。カフェイン中毒なの?」

「二人の近くにいたら口の中が甘ったるくて仕方ないのよ。水はすぐに砂糖水になるし、ブラックコーヒーがなければ糖尿病まっしぐらよ」


 俺たちそこまでいちゃついていたかな……!?

 少し自重しようと思いながら建物を出る。

 また暑い町の中を歩いて目的地の近江町市場を目指す。

 案内板にもこの先という表記が目立ち、そして――、


「あ、見えた!」


 玲奈が前方を指さす。

 信号を渡った向こうに、立派な建物が姿を現していた。

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