第47話 金沢散策

 ふぅー、食べた食べた。

 結構有名な店で、夜の時間は人もかなり多かった。

 俺も玲奈もカツカレーの小を頼んだけど、スパイシーな中にソースの刺激があって小でもかなりの満足感を得られた。食べに出てきて正解だったよ。

 で、このまま帰るのもあれだから、少し駅とホテル周辺を散策していくことにする。

 駅を挟んで反対側の建物に、金沢駅限定のプリンがあるという情報をネットで手に入れていたから、夜か明日に食べる用にと見に行く。

 まだ開いているお土産屋にはこれから帰るのか重そうな荷物を運ぶ人が大勢いて、そんな人たちが冷蔵ケースに群がっていたからそこに向かう。

 お土産じゃなくて新幹線内で食べる用にか、多くの人がプリンを求めていた。


「これだね」

「結構いろんな味があるけど……玲奈どれがいい?」

「私はシンプルな定番品にしようかな。でも他にも捨てがたいし……」

「俺はルビーロマン風味にするよ。これも分け合う?」

「そうしたい!」


 というわけで、定番品とルビーロマン風の一つずつを買ってホテルに戻る。

 けど、その前にホテル周辺も見て回りたいと思う。夜景も綺麗だし、下から見るのも乙なものだろう。

 駅からホテルに向かう道を進み、ホテルを通り過ぎて町中を歩く。


「見て隼人。お洒落なバーがある」

「いいね。お酒が飲めるようになったらまた来たいかも」


 いい感じのバーを見つけ。


「この居酒屋、今日は休みだけどメニューの写真美味しそうじゃないか?」

「わかる! お姉ちゃんも喜びそうだし、誘ってみよう!」


 雰囲気がいい居酒屋も見つけて。


「ほぇー」

「夜に見る鼓門もまた圧巻だよね」


 ライトアップされた鼓門は、そこにあるだけで気圧されるような存在感を放っている。

 金沢のいいところがふんだんに見つかった。こういう散策も旅行の醍醐味だし、面白いものがたくさんで写真を撮る手が止まらない。

 ただ、やっぱり遅くなると人も減って少しずつ町も寂しさが出てくる。

 時間的に八時半が近いから、そろそろ潮時かと思って顔を見合わせた。


「戻ろうか」

「そうだね。また明日、続きで今度はあっちに行ってみよう」


 今回は駅を出てホテルを回ってから駅に戻ってくるルートだったから、明日以降はその反対側を巡っても面白いと思う。

 玲奈と手を繋ぎ、もう片方の手に少し温かくなったプリンを持ってホテルへと戻る。

 八階にある自分たちの部屋に戻り、備え付けの冷蔵庫にプリンを入れて少し冷やしてから後でゆっくり食べようと思う。さすがに今はカレーが残っているから食べられない。

 玲奈がトイレに行っている間に、俺は入浴の準備を進める。

 キャリーバッグから着替えを取り出し、着ていた服を入れる袋も一緒に取り出す。タオルは……バスタブにかかっているから今は取りに行けないな。鍵をかけた音がしなかったから、玲奈的にはトイレを見られても問題ないって事だと思うけど、それで俺の思い違いなら明日からが地獄の空気になるからノーリスクを取ろう。

 テレビを付けてバラエティ番組でも見るかと思い、リモコンを探し始めたタイミングで玲奈がトイレから出てきた。


「ごめんね隼人。これどうぞ」

「タオルじゃん。分かったの?」

「壁薄いんだね。ごそごそしてる音が聞こえたから、お風呂かと思ってだったらタオルがいると思ったんだ」


 さすがは玲奈。よく分かっている。

 ありがたくタオルを受け取ると、玲奈もキャリーバッグから着替えを取り出した。

 同じくタオルを持ち、部屋を出ていく。


「浴室の前まで一緒に行こう」

「オッケー」


 鍵を持って部屋を後にし、エレベーターの前で来るのを待つ。

 そして、エレベーターが八階で止まって扉が開いた。


「あ、玲奈。さっきはごめんね気づかなくて」

「お姉ちゃん!」


 なんと、先客として冬華さんがエレベーターに乗っていた。

 腕には着替え一式とタオルがあるから、目的地は同じだと察せられる。

 俺たちを乗せて、エレベーターが上昇を始めた。


「完全に爆睡してたわ。何か用だった?」

「少しだけ夜を食べに行ってたの。そのお誘いをね」

「なるほど! 私は定食が重かったからカロリースティック囓って済ませちゃった」


 玲奈が苦笑する。

 と、エレベーターが十階に到着した。扉が開くと、大きく「湯」と書かれた暖簾が正面に見える。


「じゃあ、また後で」

「うん。また後で」

「ふふふ……隼人くんの性癖を調べてみましょうか。玲奈はどんなに可愛くなってるのかな~」

「ちょっ! お姉ちゃん手がやらしい!」


 玲奈の胸を揉みながら、冬華さんと玲奈が女湯へと消えていった。

 姉妹仲良しはいいことだけど、他にお客さんいないのだろうか。やりすぎは注意だと思う。

 さて。こっちはこっちで一人ゆったり足を伸ばして温泉に浸かろうか。

 男湯の扉を開けると、温泉独特のあの香りが漂ってきた。

 まさに温泉といった香りにテンションが上がり、小躍りしそうになる。

 脱衣所を見る限りは他に入浴中の人はいない。つまりは擬似的な貸し切り温泉を楽しめる!

 興奮する要素がさらに増え、服を脱いでかごに入れてお風呂へと向かった。

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