第46話 ホテルでゆっくり

 心ゆくまで海鮮を堪能し、お会計を済ませて店を出た。

 冬華さんは地酒を結構飲んでいたけど、それでもアルコールに強いのか酔っているという雰囲気はない。

 それでもホテルで休むというので、チェックインできる時刻になっていることを確認して三人でホテルに戻った。

 フロントで名前を伝えると鍵が渡され、荷物も一緒に渡される。

 俺と玲奈が八階のダブルルーム、冬華さんが五階のシングルルームだから、冬華さんとは一旦お別れだ。

 用意周到というか余計なお世話というか、五階で降りる時にいつの間に買っていたのかコンドームを渡してきて冬華さんが部屋に向かう。

 扉が閉まり、俺と玲奈は渡されたコンドームを握ったままどうしようという空気で八階まで上がっていった。

 部屋の鍵を開け、とりあえずコンドーム含めて荷物を部屋の隅や机の上に置いてベッドに倒れ込んだ。


「あー。案外疲れた」

「だね。思った以上に座りっぱなしの移動で体力削られたのかも」

「グリーン車だったからそれでも軽減されてるんだよな」


 俺も玲奈もスマホを充電器に差して、寝転がり天井を眺めているだけになる。


「ねぇ隼人」

「んー?」

「もし今日どうしても行きたいところがなければさ。もうこのままゆっくりしておく?」

「いいかも。このホテル設備が充実してるから中でも普通に楽しめそうだし」

「だよね。それに、明日からの観光ルートとかも見て、明日お姉ちゃんに相談するのもありだと思う」

「それな」


 さて、と。

 玲奈が起き上がって一階に観光案内のパンフレットを取りに行ってくれたから、その間に俺は十階の自販機で飲み物を取ってこよう。

 ネット予約特典で無料コインをもらっているから、それで玲奈が好きそうなものを選ぶ。

 けど、どれがいいんだろう。無難にリンゴジュースにしておくか。

 玲奈にリンゴジュース。そして俺のミカンジュースを選んで二本を持ち、八階まで戻る。

 部屋に帰ると、玲奈はもう戻ってきていた。

 三つほどパンフレットが広げられていて、ベッドで寝転んで眺めている。


「お帰り隼人。ジュース持って来てくれたんだ」

「リンゴでよかった?」

「うーん……ミカンの方がいいかも」

「おっとそれはごめん」


 玲奈にミカンジュースを渡し、俺はリンゴジュースを開けて飲む。

 玲奈もミカンジュースで喉を潤しながら、スマホも持ち出してきて並行して眺める。

 オススメの名所、この場所ではここがいいというような情報が次々出てきて、意見を交わしながらメモを取っていく。

 金沢駅周辺はある程度回るルートが見えてきた。これは明日、冬華さんとすりあわせて日程とかを調整すればいい。

 次に考えるべきは七尾や、遠くに行く場合だな。せっかくだから、金沢だけじゃなくてローカル線で遠くにも出向いてみたい。

 調べたところ、七尾は特急を使っていくのが良さそうだった。マップを見ると、古き良き日本のような綺麗な町並みもあってますます興味が出てくる。


「お姉ちゃんが行きたいって言ってた大将オススメの場所、きっとこれだね」

「道の駅だな。遊覧船も出てるし、能登島も見える。美味しいものもたくさん」

「これは絶対に行きたいね!」


 七尾もいいところがたくさんありそうだ。

 そして、他にも面白そうな場所を見つける。


「千里浜だって。これ雑誌で見たことあるかも」

「車が走れる砂浜か。車で来てないけど、行ってみる価値ありそうだよな」

「最寄り駅は羽昨。それでも結構歩くんだけど」

「バス出てるらしいし、大丈夫だろ」

「だね。いざとなったらお姉ちゃんのことだからレンタカー借りそう」

「あり得る。近くの道の駅に停めるとかで」

「隼人もお姉ちゃんのこと分かってきたね!」


 もう一緒に暮らすようになってしばらく経つ。

 そろそろ冬華さんについて把握してきた部分も多いと思う。


「ここ二つ回ったら一日終わりそう」

「金沢外はこの一日使って、他はここら周辺を満喫するか」

「それがいいのかもね」


 大体ルートを確認することができた。

 そこからいい感じの交通手段や道なんかを見ていると、すぐに日が落ち始める。

 辺りがすっかり暗くなっていることに玲奈が気づいた。


「あれ、もう夜だ!」

「マジじゃん。時間経つの早いな」

「夜……食べる?」

「……昼の定食がまだきいてる」


 何しろ量が多かった。動いてもないからそこまでお腹は空いてない。


「あの店の近くにカレー屋あるよ。有名みたい」

「少量から選べるのか。これだけ食べに行くか」

「うん! あ、お姉ちゃん起きてるかな?」


 玲奈が冬華さんに電話をかける。

 が、いつまで経っても繋がる気配はなかった。


「寝てるねこれは」

「かもしれないな」

「じゃあもう私たちだけで行こう。支払いはお姉ちゃんのカード使えばいいんだし」

「さすがにそれは俺が払うって」


 冬華さん同行の時は甘えるけど、それ以外はこっちで出そう。

 先日届いたばかりの新しいクレジットカードを少し嬉しげに指の上で回しながら、部屋を後にした。

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