第44話 北陸到着
駅弁を食べたり、景色を眺めたり。時に冬華さんと玲奈のスキンシップを見ながら揺られること二時間半。
ついに新幹線が金沢駅に到着した。
荷物を持って降り、記念に駅名の看板の前で一枚写真を撮る。
「暑いわね」
「そりゃ夏だから」
「北国なんだから涼しいと思ったのに! それも狙いだったのに!」
「二十度後半を出したみたいですよ昨日は。この時期涼むなら北海道がいいかも」
「よしっ! 北海道に行きましょう!」
「バカ言わないで。北陸旅行を楽しむの!」
また突拍子もないことを言いだした冬華さんの頭をチョップした玲奈が、自分の分と本当に東京に戻って北海道へ向かわないようにと冬華さんのキャリーバッグも持ってホームを出て行く。
俺もそれに続き、改札を抜けて駅から出た。
「見て隼人! 鼓門!」
「これ見ると金沢に来たって感じがするよな」
テレビでしか見たことないけど、実際に目の前にするとその大きさに度肝を抜かれる。
観光客の多くが写真撮影を楽しんでいた。思い思いのポーズで思い出を残している。
と、ここで冬華さんがカメラを取り出した。
「撮ってあげる。ほら、ポーズ決めて」
「隼人。あれやろ」
「あれ?」
玲奈が指さす方を見る。
カップルらしき二人が、大きなハートマークを作って写真を撮っていた。
確かにあれは恋人にしか許されない特別なポーズだ。玲奈との思い出をより強くするために乗っかろう。
両腕でハートの片割れを作ると、玲奈がもう半分を合わせてくる。
「はいチーズ!」
合図でシャッターが切られた。
カメラの撮影が終わり、今度はスマホでも撮影が行われる。
……んだけど、段々と熱が入ったのか、冬華さんの動きがカメラマンみたいになってきた。
「いいよいいよぉ! ほら笑顔!」
本格的にモデル撮影みたいになってるし。
というか、被写体である玲奈が美人なせいもあって、キャリーバッグを見るまで本当に雑誌の撮影と勘違いしているような会話をしている人が何人か通り過ぎていく。
音から計算するに百枚くらい写真を撮った後、ようやく冬華さんが落ち着いた。
「満足満足」
「さて、どうするお姉ちゃん」
「このままお昼探しますか?」
「いや、荷物をホテルに預けてこよう。すぐそこだからまた戻ってこれるしね」
滞在中のホテルは、駅から歩いて五分ほどのところにあるらしい。
在来線の高架脇を歩き、ホテルへと進む。
と、しばらくしてそのホテルが見えてきた。
信号を渡り、ロビーへと入っていく。
すぐにホテルマンが俺たちに気づき、荷物を預かろうと出てきてくれる。
「今日予約してる岩崎です。荷物を預かってもらえますか?」
「承りました。よろしければ、部屋にはまだ入れませんがチェックインだけでも済ませますか?」
「助かります! お願いします! あ、二人は少し待ってて」
ホテル側の厚意で、先にチェックインだけさせてもらえることになった。
冬華さんが用紙に必要事項を書いている間、俺と玲奈はロビーに貼ってある案内を眺める。
「なぁ玲奈。このホテル人工温泉があるってよ」
「ほんとだ! ……混浴じゃないのが残念だけど」
「混浴だったら問題だよ。一緒に入りたければ部屋で、な?」
「うん。あ、近くに兼六園もあるんだ」
「何だっけそれ」
「とても綺麗な庭園なんだよ! 私行ってみたい!」
「じゃあ、その兼六園にも行こうな」
「うん! 二十一世紀美術館や茶屋街もあるし……行きたいところたくさんだ!」
「日程はたっぷり余裕あるし、全部回りましょうね」
チェックインを終えた冬華さんが戻ってきた。
ホテルマンさんが俺たちのキャリーバッグを預かってくれて、恭しく頭を下げている。
「じゃあ行きましょうか。金粉ソフトクリームも気になるけど、まずはお昼ご飯ね」
「どこかいいお店あるの?」
「さっき聞いたんだけど、駅の隣に入ってる百番街にホテルマンさんオススメのお店があるんだって」
なんでも、近江町市場直送の海鮮を使った料理を提供してくれる店らしい。
それは楽しみだと、ホテルを出て来た道を引き返して駅へと戻る。
「のっどぐろっ! のっどぐろっ!」
「冬華さんめちゃくちゃ楽しそうですね」
「そりゃあ美味しいものを食べに来たんですもの! 食い倒れの旅にするわよ!」
「さっきまで北海道に行こうとか言ってた人には思えない……」
玲奈、そのツッコミはやめてあげて。
やがて、駅に着いてその隣の建物へと入っていく。
反対側の出口近くにあるという店に向かうと、たしかに趣のある店があった。
「混んでるね」
「だな」
「でもここがいい! 順番待ちの名前書くよ!」
俺もここでご飯を食べてみたいし、順番待ちには異存ない。
名前を書いて店の前にある椅子に座り、呼ばれるその時を今か今かと待ちわびる。
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