第40話 サークルと学祭の勧誘
テストが終わり、講義室を見渡すと、それはもう見事な屍の山が出来上がっていた。教授の悪意ある情報にしてやられた面子だろう。
俺の隣でも雨宮が突っ伏して嘆いている。
「なにがテストはA3一枚だよふざけんなぁ」
「嘘は言ってなかった」
「そうだけどさぁ! あんなの騙し討ちじゃん!」
雨宮の言い分も多少は分からんでもない。
事前に教授からはA3用紙一枚分がテストだと聞かされ、範囲もしっかり教えてもらっていた。一部資料は持ち込みも可だった。
きっと、死んでいる面子は持ち込み可に安心して舐めていた人たちだろう。俺も事前に見直していなければ同じ運命を辿っていたかもしれない。
普通、A3一枚と聞くといくつかの設問があって、それらを解いていくものだと予想される。
でも実際に出題されたのは、まさかの設問が一つだけ。A3用紙の大半が論述の記述欄だった。
配られた瞬間に周りから「うわぁ……」って声が聞こえてきたのはマジで同情する。多分声の感じでは十人以上が漏らしていたと思う。
かくいう俺も、解けたのかと言われると自信はない。というかダメだったと思う。
部分点はあると思うけど、七割取れれば万々歳といったところか。
幸いなのは、この授業の成績はテストを丸々落とした程度では落単にならないということだ。期末レポートと平常の出席点、普段の提出物も加味されて総合的に出される。
つまり、期末レポートで挽回すればまだ問題ない範囲で留めることができるのだ。
個人的に思うのは、このテストも実質期末レポートみたいなものだろということだが。
「終わったわ」
「大丈夫かよ……」
「期末レポートもあれと同レベルが来たら無理。死ぬ」
想像以上にぐったりしている雨宮がなんだか心配になってきた。
まぁ、こいつは出席も提出物も問題ないからよほどのことをレポートに書かなければ落ちるなんてないはずなんだけど。
一応そんな風に伝えてみると、突っ伏したまま手をひらひらと振って応えてくれた。
「いいよいいよ。捨ての精神でいけば」
こりゃもうダメだな。
壊れ始めている雨宮を笑いながら、俺は席を立つ。
「まっつんこの後は?」
「午後も講義あるから玲奈とご飯かな」
「そうなんだ。あ、そうそう。ゆーゆから聞いたよ。学祭で個人パフォーマンス出るんだって?」
「一言も言ってないんだが」
あれか。カラオケで踊ったあれのことか。
本気でそういう話になっているとは。出るつもりなんてなかったんだけどな。
「はいこれ。応募用紙」
「本当に出る流れなんだ」
「玲奈ちゃんも一緒なら絶対に盛り上がるからさ。まぁ試しに誘ってみてよ」
雨宮は学祭の実行委員だし、盛り上げたい気持ちがあるのだろう。
期待するな、と付け加えて応募用紙を受け取った。
鞄を持ち、雨宮に別れを告げて講義室を出て行く。
玲奈との待ち合わせは駐車場だ。今日はお弁当を作ってくれているから、食堂に行く必要はなく車の中で距離が近い状態でご飯を食べようということになっている。
と、その前に一号館に寄って入部届を一枚もらっていく。
さっきの話の流れついでだ。玲奈もサークルに誘ってみよう。たしか無所属だって言ってたから、ちょうどいいかもしれない。
用紙二枚を手にして駐車場に向かう。
二限がなかった玲奈は既に車の中にいて、座席を倒してすやすやと眠っていた。
気持ちよさそうに寝ているところを起こすのは少し申し訳なかったけど、このままでは俺は中に入れないしお昼を食べ逃すことになる。
窓をノックすると、その音で玲奈が目を覚ました。
鍵を開けて車内に入れてくれる。
「お待たせ」
「お疲れ様~。……それは?」
「あぁこれな。学祭の個人パフォーマンスの応募用紙が一枚。あとはサークルの入部届」
「詳しく聞かせて」
「前にラウンドゼロ行った時、カラオケで踊ったろ? あれを本当に学祭でパフォーマンスやらないかって誘われたんだ」
「へぇ。でも、楽しそう。私はいいなと思うけど」
「マジ? じゃあ、応募しておく?」
「うん! それで、入部届っていうのは?」
「俺今アウトドアサークル入ってるんだけどさ、結構ゆるいし旅行とか楽しく遊ぶだけみたいな感じの活動だから玲奈もどうかなって」
「隼人と同じサークルかぁ……いいね。どっちも参加したい!」
よし、そうなればちゃちゃっと記載するか。
入部届は印鑑が必要だからこれは玲奈に預けるとして、応募用紙に必要事項を記入していく。
あと、雨宮に参加する旨を伝えて、ついでにサークルの方を結局どうするかも確認する。
『ありがと~! サークルの方もよろしく!』
とのことだったから、雨宮と玲奈がサークルに入りたいということを代表に連絡だ。
玲奈のことは代表も知っていたみたいで、興奮気味に快諾の返事が送られてきた。女性だから変なことしないと思うけど、この文面を見る限りは活動中に妙なことしないか目を光らせておこう。
とりあえず今やることはこれで全部か。
一息つくと、玲奈が美味しそうなお弁当を用意してくれていたから、喉を鳴らしてお箸を手に取る。
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