第36話 これからも二人一緒に
家に帰ってスマホを見ると、篠原たちから鬼のようにメッセージが届いていた。
どれもこれもが俺たちを心配する内容で、温かいメッセージの数々に涙が滲んでくる。
連絡先を交換している教授からも心配するメッセージが来ていて、想像以上に話が広まってしまったと思うと少し怖い気もするんだけど。
車を運転してくれたお姉さんは帰ったみたいで、車だけが家の駐車場に置かれていた。
ああいや、ボンネットに何か乗ってる。
「お見舞い?」
「中身三十万円だぁ。大金を外に置きっぱなしにするの、空き巣に狙われるようになるからやめてほしいんだけど」
それ以前になんで三十万円もポンと置かれているんだよ。もっとお金は大事にしてくれと思う。
先日も百万円送金してきたというのに……ほんと、玲奈のお姉さんは何者なんだろうか。
とりあえずお見舞いの封筒は玲奈に渡し、玄関の鍵を開ける。
リビングの電気を点け、荷物を下ろしてソファに倒れ込んだ。
やれやれ、やっと一息つける。今日はいろいろありすぎて脳の処理が追いつかないって。
時計を見ると、もうすぐ十時が来ようとしていた。夜ご飯もまだなのにずいぶんと遅くなったものだ。
ウーバーってまだ営業時間だったよな。ワックとかならまだ営業時間内かも。
「玲奈~。お腹空いたしワック頼もうと思うけど、何がいい?」
スマホを見ながら質問を投げる。
しかし、返事がない。
どうしたことか思っていると、お腹に強い衝撃があった。
「おわっ! 玲奈!?」
「……」
無言で玲奈が抱きついてきていた。
手を伸ばそうとして、肩が小刻みに震えていることに気づく。
「……ね」
「え?」
「ごめんね。私がイライラして挑発するようなことを言ったからこんなことになって。本当にごめんね」
そんなことで悩んでいたのか。
そもそもトラブルを呼び込んだのは俺の方だし、玲奈がそこまで気にするのは間違っている。
「嫌わないで。どこにも行かないで。お願い……一緒にいて……」
「……ったく、玲奈はバカだな」
弱めのデコピン。
額を押さえて涙目で見てくる玲奈の頭を優しく撫でる。
「玲奈は全然悪くない。気にする必要はない。俺は玲奈を嫌う事なんてないから、安心して」
「隼人ぉ……ありがとう……!」
「俺の方こそ本当にごめん。女の子の顔に傷を付けるような事になっちゃって」
「隼人以外の男に何を言われてもいいから平気。隼人は……顔に傷があるのは嫌?」
「全然。むしろ、俺のために動いてくれてできた傷だから、悪いとは思うけど見ると嬉しく感じるよ」
「そっか。じゃあ、私も問題ないから安心して。それに、傷って言ってもすぐに分からなくなるほどの小さいものだし」
玲奈が気にしていないのなら良かった。
お互いに不安に思っていることを解決して、それから改めて夜ご飯を食べようという話になって食べたいバーガーを選ぶ。
ウーバーで注文して、届くまでに干しっぱなしだった洗濯物を取り込むとする。
玲奈は明日のために米を洗い、俺は洗濯物を畳んでまとめていく。
「ねぇ隼人。お風呂、どうする?」
「うーん……明日は授業ないし、今から用意するのもあれだからシャワーで軽く済ませるわ」
「分かった。じゃあ浴槽は洗わなくていいね」
食後にささっと済ませてしまおう。
洗濯物を仕分け、ウーバーの到着を待っているとインターホンが鳴った。ようやくの到着か。
俺が受け取りに行き、配達員さんにお礼を言って品物を受け取り、戻ると玲奈は既に席に座っていた。
お腹から可愛らしい音が鳴り、赤面している玲奈を愛おしく思いながら袋を開ける。
「はい、玲奈のダブルチーズ」
「ありがとう。隼人は何にしたんだっけ」
「そりゃ王道のビッグワックよ」
それとセットで頼んだポテトとドリンク、追加注文のナゲットを机の上に並べる。
夜遅くに食べるジャンクフードは背徳の味。いつも以上に美味しく感じる魔性の力が宿っている。
疲れた体と脳に、バーガーの脂質とドリンクの糖が満たされていく。
「よかった。この時間が失われなくて」
「俺も同じこと考えてた。最悪玲奈に別れを告げられるかもって怖かったし」
「そんなこと!」
勢いよく立ちあがった玲奈の衝撃でポテトが散りそうになったのを、どうにか防ぐ。
「ごめん……」
「いや、いいって」
「うん。でも、私が隼人に別れようなんて言うはずがないよ。別れるくらいなら死んでやる」
怖いって。
でも、そこまで愛してくれていると思うと冗談抜きで嬉しいかな。
「ねぇ隼人」
「なに?」
「私たちの関係は永遠だからさ、その……今日、よければ……」
「それはごめん。さすがに疲れてるから寝させてほしい」
夜の時間は今度余裕があるときでお願いします。
納得してくれた玲奈と共に、もう一口バーガーにかぶりついた。
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