第31話 朝早くの登校

 昨日は体調不良で寝過ぎたせいか、今日の目覚めは早かった。

 普段なら寝ている六時には目が覚めて、着替えを終わらせて朝食のパンを焼く。

 クルミパンをトースターに入れて、焼き上がるまでネットでニュースを眺めていると、玲奈も早くから起きてきた。


「おはよう隼人。今日は早いね」

「目が覚めちゃって」

「授業は一限から?」

「そうそう。玲奈は二限からだっけ?」

「そうだよ。でもさ、私も一限から行くよ。一緒に行こう?」


 魅力的な提案に、俺はお言葉に甘えることにした。

 一限に間に合う電車は人が多くて大変だから、車で行けるとなるとそれは便利になる。

 お礼を口にして二人分の牛乳をコップに注いでいると、パンが焼き上がってクルミパンが皿に乗せられ、代わりに玲奈が朝食べる用の冷蔵ピザがトースターに入れられる。

 焼き上がるまでにと玲奈が二階に上がって着替えに行った。

 パンと牛乳では少し寂しいと、昨日の夕方に玲奈が買ってくれたリンゴを一つ切り分けて皿に盛り付ける。

 玲奈が降りてくると同時にピザも焼き上がったから、皿に移して二人で席に座り、朝ごはんを食べよう。

 トマトとチーズの濃厚な香りが鼻を刺激するけど、朝からよく食べられるなと思う。朝が弱い俺はピザとか少しキツイ。

 クルミのカリカリ食感を楽しみ、牛乳で流し込んでリンゴのしゃきしゃき感を味わいながら自分の分を食べ終えると、顔を洗いに行く。

 冷たい水で眠気を吹き飛ばし、リビングに戻ってくると朝食を終えた玲奈が洗い物をしてくれていたからその間に洗濯物を干していく。

 皿を乾燥機に入れ、洗濯物がすべて干せると朝の準備は完了だ。


「ちょっと早いけど、道が混むかもしれないしもう出る?」

「メイクとかしなくていいの?」

「車の中でささっと終わらせるから大丈夫。普段もメイクなんて大体五分くらいだし」

「素も可愛いから必要ないのか」

「褒めてもキスくらいしか返ってこないよ」

「最高のご褒美だよ」


 思ったことを口にしただけでキスしてくれるとか最高かよ。

 とまぁ、それはおいといて鞄を持つと、家を出て戸締まりをして車に乗り込んだ。

 忘れ物がないことを確認して出発する。

 早い時間に家を出たことが功を奏したのか、道路は特に混雑することなくスムーズに走れている。これがあと二十分三十分遅ければ、渋滞なんかにはまって大変な目に遭っていたんだろうなと思う。

 信号にいくつか引っかかった程度で問題なく大学まで行くことができた。

 車を停め、時間を確認した玲奈が顔を俺に向けてくる。


「一限始まるまでだいぶ時間あるけど……どうする?」

「ごめん、先に講義室行ってるよ。実は予習課題がまだできてない」

「そうなんだ。じゃあ、行ってらっしゃい。お昼は一緒に食べれる?」

「それはもちろん。じゃあお昼にまた食堂で」

「待ってるね! 行ってらっしゃい!」


 玲奈に見送られて一足先に講義室へ向かう。

 今日の一限は駐車場から少し遠い六号館の四階だ。時間に余裕はあるけど一応駆け足で向かうと、運動不足が祟ってかわずかに呼吸が乱れる。

 人が少ない朝の大学を駆け、六号館四階に上がって目的の講義室の扉を開けた。


「あれ。今日はずいぶん早いんだ」

「昨日体調不良でずっと寝てたから早くに起きたんだよ」


 講義室には先客として坂上がいた。

 坂上も、配られたプリントと辞典を並べて今日の予習課題を解いている。

 俺はその隣に座り、同じくプリントを取り出した。


「気が緩んでるんじゃないの~?」

「人のこと言えないだろ」


 お前が今やってるのも今日の課題だろうに。

 違いない、と笑った坂上と並んで課題を解いていく。

 幸いにも内容はずいぶんと簡単で、少しずつ講義室に人が入ってくる頃にはすべて終わらせることができた。

 さて、と。先生が来て授業が始まるまでは、坂上との雑談タイムだ。


◆◆◆◆◆


 一限、二限と終わり、玲奈と食堂でお昼を食べて三限空けて四限を受けて。

 今日の授業は一通り終わった。

 四限は先生の都合で十五分ほど早く終わったから、先に駐車場に近い八号館の一階にある椅子で玲奈を待つ。

 四限終わりのチャイムが聞こえ、それからしばらくすると玲奈が手を振りながら駆けてきた。


「ごめんお待たせ! 長く待たせちゃった?」

「こっちが早く終わっただけだから気にしないで。じゃあ、帰ろうか」

「そうだね。帰りに夕食の材料買うためにスーパー寄ってもいい?」

「もちろん。今日は何が安かったっけ」


 最近知ったスーパーの公式アプリを開き、今日の広告を確認する。

 今日は鮮魚コーナーの売り出しがあるそうで、マグロの短冊やブリの短冊がお値打ち価格らしいから海鮮丼とかにしてもいい気が……


「――見つけたぞ!」


 夕食のメニューに思いを馳せていたら、突然聞こえてきた声にため息を吐く。

 スマホをポケットに片付け、声の主を見るけど、多分今の俺の目はゴミ箱を見るそれと同じみたいなものだと思う。


「着信拒否しやがって! ふざけんなよ!」

「当たり前だろ。何の用だよ」


 相手をするのも面倒くさい。

 もう帰ってくれないかな、と、姿を見せた琢己に対して嫌悪感を混じらせて思ってしまう。

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