第29話 何気ない日の終わりに
琢己から電話があった段階で予想するべきだったし、何より大事なことを忘れていた自分の間抜けさにも呆れてしまう。
ソファに座ってドライヤーで玲奈の髪を乾かしていた時、またスマホが震えて今度は実家からの着信だと表示される。
「隼人もダメだよ。ちゃんとブロックしておかないと」
「そうだな悪い」
「元カノの連絡先もブロックしてないんじゃない? あの日の様子を見る限りあの子も絶対にしつこいよ」
「そう、だよな……」
高校時代のちょっとした、否、だいぶ嫌な記憶が思い出される。
さすがにもうあんな事件未遂になりそうなことは起こさないと思うけど……でも念のために連絡先もすぐにブロックして関わりを持たないようにしないと。
実家からの電話は無視して通話を拒否し、すぐに着信を拒否する。
どうせ、琢己からいろいろと吹き込まれて理不尽な言いがかりなんだ。聞く必要はない。
実家の着信を拒否した後は杏奈の番号も拒否。あとアカウントすべてをブロックだ。
学校で接触してきて以来、特に連絡もないからここまでする必要は正直ないと思ったけど、玲奈の助言には従っておくのが吉だ。
杏奈と繋がっていたすべてのアカウントと連絡手段をブロックする。これでとりあえずは余計な気苦労をしなくて済むと思う。
ホッと一息つき、シャンプーの香りが漂うさらりとした玲奈の髪を梳いていく。
「また一つ夢が叶った」
「え?」
「隼人に髪を乾かしてもらうの。小学生の時に少女漫画でこういうシーンを読んで以来、ずっと夢だったんだ」
背中を倒して俺に体重を預けてくる。
「こんなのでよければ、言ってくれればいつでもやるよ」
「そういうと思った。ありがとね」
毛先が鼻をくすぐり、少しむずがゆい。
いい感じに髪が乾いたところで、玲奈に着替えを渡してパジャマを着てもらう。
どうも玲奈は夜寝るとき……というか家の中では裸族っ気があるらしくてあまり服を着ていないけど、わがままだと思いながらも俺の理性のために最低限の衣服は着用してほしい。
パジャマに着替えた玲奈はノートパソコンを取り出して、大学の学習サイトにアクセスした。
「うわ、やっぱりレポート出てる」
「出せるの?」
「授業スライドは添付されてるからどうにか出せると思う。隼人は課題出てないの?」
「今日はサボるわ」
「もうっ。寝坊しちゃった私が言うのもあれだけど、課題はちゃんとしないとダメだよ」
玲奈にたしなめられ、気のない返事をしてソファから立ち上がる。
さすがに玲奈の邪魔をするわけにはいかないし、俺の部屋でアニメを見るかゲームをするかどっちかで眠気が訪れるのを待つとしよう。
「じゃあ、俺部屋に行くわ」
「分かった。終わったら私も部屋に行くから、起きてたら一緒に寝よう?」
「りょーかい」
一応「おやすみ」と言葉を交わして自分の部屋に入る。
ここ最近、あまりこの部屋に入っていない気がする。基本的に三階の二人部屋で寝起きと過ごすことが多いから、自分の部屋なのにどこか懐かしさを感じた。
スマホを予備の充電器に繋ぎ、ベッドの上に体を投げ出す。というか、自室にある充電器の方が予備っておかしいだろ。
完全に生活空間が逆転している現状に苦笑いして、ゲームでもしようかとコントローラーに手を伸ばす。
ゲーム機本体からコントローラーを外すと、スリープ状態だったゲームはすぐに起動してホーム画面が表示された。
発売されてからずっと遊んでいるオープンワールドゲームを選択し、続きから再開する。
始めると、敵の拠点が目の前にあった。
早速戦闘を始めようとして――、
「終わったよ隼人~。って、あ、これ隼人もやってたんだ」
「はや!?」
え、もう課題終わらせたの? 俺がやるとこの何倍も時間がかかるのに。
驚く俺の前を通り過ぎ、玲奈にコントローラーを持っていかれる。
「ちょっと借りるね。隼人にオススメの兵器の作り方を教えてしんぜよう」
「厄災だぁ……」
このゲームの今作は前作以上に何でもかんでも作れる要素が特徴的だ。
ネット上では悪魔みたいな兵器を大量に作る職人をよく見かけるが、玲奈もその一人なのか……?
「翼を二つ、台車をここに、ロケットとゴーレムと大砲で……はい、完成」
「見覚えのある兵器が生まれたぞ」
前作でめちゃくちゃビジュアルが良かった空飛ぶダンジョンを小さくしたみたいな兵器じゃねぇか。完成度高すぎるって。
早速使ってみると、拠点上空にまで飛んだ兵器は大砲で拠点内を蹂躙して敵を吹き飛ばし爆散させる。
他の拠点でも使ってみると、絶大な効果を発揮していた。
「頭がいい人は発想力も豊かだなおい……」
「ムカつくことがあったらこれでストレス発散してるんだよね」
「確かにこりゃ最高に気持ちいいわ」
敵が燃えながら吹っ飛ぶんだもん。マジで爽快。
ただ、この兵器にも一つ欠点があって。
「ただの作業だから、眠くなってくるな」
敵が吹き飛ぶのを見ているだけ。普通に眠たくなる。
「寝る前のちょっとした時間にはピッタリでしょ? これでスッキリして眠たくなってお布団に潜るの」
「あぁそれ気持ちいいやつ」
「でしょ? というわけで、隼人もどう?」
玲奈の提案にすぐに頷き、セーブしてソフトを終了し本体をスリープ状態にすると、スマホを充電器から抜いて三階に移動する。
そこでもう一度充電器に接続し、今日はちゃんとアラームが鳴るように設定されているのを確認して電気を消した。
「おやすみ玲奈」
「隼人もおやすみ」
お互いに苦しくない力加減で抱き合って眠りにつく。
ああ、とても幸せな気分だよ。
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