第27話 家事炊事だってできるんだ

 家に帰り、買ってきたものを机の上に置いてから干していた洗濯物を取り込む。

 まだ少し玲奈の下着に触れるのは恥ずかしいけど、そのうち慣れることだろう。

 取り込んだ洗濯物を畳み、それから浴槽も洗ってお湯を張れるようにしたらいよいよ夕食作りの始まりだ。

 じゃがいもの皮を剥いて適度な大きさに切り、玉ねぎを切ってソーセージと合わせて耐熱容器に放り込む。で、これはレンジにぶち込んでしばらくチンすれば八割九割完成するのだからジャーマンポテトは楽なものだ。

 じゃがいもを熱している間にメインになる焼き鳥を作ってしまおうと思う。

 パックを破り、胸肉全体に塩胡椒を振りかけて事前に少しだけ味付けを施しておく。並行してフライパンも熱しておくとなおよしだ。

 充分に熱が通ったと判断したら、肉をフライパンに移して焼き上げていく。

 両面にいい感じの色合いで焼き目がつくくらいに炒め、適宜少しだけ塩胡椒を振る。

 で、ここからが自己流のアレンジだ。


「ほんの少しだけマヨネーズとバターを入れると美味いんだよなこれが」


 小さじ一杯に乗るか乗らないかの分量のマヨネーズを投入し、小さじで切り分けたバターの欠片も一緒に炒める。こうすることで、胡椒のピリッとした味わいの奥に少しのまろやかさが加わって締まりのある味わいになるんだ。

 香ばしい香りが漂い始めたら、肉をフライパンから出して皿に盛り付ける。

 少し時間が経ったけど、既に出来上がっていたじゃがいもをレンジから取り出し、市販のジャーマンポテトが作れる粉と混ぜ合わせて早速二品が完成した。

 肉とジャーマンポテトを並べ、野菜室で眠っていたカットキャベツを盛り合わせたら大皿料理は終わり。

 次に味噌汁を作っていく。

 お湯に顆粒だしを入れてネギも一緒に投入し、少し煮込んでからワカメを入れて味噌を溶かし、最後に豆腐を入れる。

 はいこれで味噌汁も完成っと。夕食の準備はこれにて整った。

 後は玲奈が帰ってきたら一緒に食べるだけだから、しばらく暇になる。


「そうだお風呂お風呂!」


 ご飯前にお風呂に入っていてもいいかもと思う。

 すぐにお湯を入れに行き、温度も確認してお湯を溜め始める。

 お湯が溜まるまではアニメ鑑賞を楽しみ、有能な機械くんがちょうどよくお風呂が沸いたことを報せてくれたところで着替えを持って浴室へ。

 サッと全身を洗ってお湯で温もり、仰向けになってしばらく浮いてから風呂を出る。

 お風呂から出たらまたソファに移動して、さっきの続きからアニメを見て時間を潰した。

 シリーズの半分まで見て、時刻がもうすぐ八時半になろうかという時に玄関の扉が開く音がする。


「ただいま~。疲れたよ~」


 玲奈が帰ってきた。

 約束もあるから、ソファから起き上がって玄関まで迎えに行く。


「お帰り」

「ただいま~。お出迎えありがとうね」


 ニコッと笑う玲奈が可愛くて、靴を脱いだところをそっと優しく抱きしめる。


「わわっ! えへへ……疲れが吹っ飛ぶね」

「そりゃよろしいことで」

「あ、そうだ。干してあった洗濯物がなくなってたけど、取り込んでくれたの? ありがとう!」

「それくらいはやっておかないとね」


 これで何もしていなかったら愛想尽かされても文句は言えない。

 玲奈は、片手に半額シールが貼られたお寿司のパックを持ってリビングへと向かっていた。


「そういえば、隼人は今日何を食べたの?」

「まだなんだ。玲奈が帰ってくるまで待ってた」

「え、そうなの!? ごめん何か作るね!」

「いやいやいやいや! ご飯は作ってるんだ。口に合うか分からないけど……って、お寿司があるからいらないかな」


 そう言った瞬間、玲奈は慌てて駆けだして冷蔵庫を勢いよく開けると、中身が潰れるんじゃないかって勢いでお寿司のパックを冷蔵庫の奥深くに投げ入れて扉を閉めた。

 ちょっとした奇行に驚いていると、戻ってきた玲奈に腕を引かれる。


「せっかく隼人が作ってくれたんだもん! 半額のお寿司よりもご馳走だから!」

「そんな手の込んだもの作ってないんだが」


 どう考えてもお寿司の方が美味しいと思うんだが。

 ただ、玲奈はすごく嬉しそうな顔をしているから、無粋なことを言う必要もあるまい。

 二人分の料理を温め直し、ご飯とお味噌汁を入れて箸とお茶も用意する。


「わぁ……! 隼人、こんなに料理ができたんだね」

「玲奈に言われたら嫌味に聞こえるなぁ」

「ごめんなさい! そんなつもりはなくて……」

「あぁいや俺もそういうつもりで言ったんじゃ……」


 自虐もほどほどにしておかねば。

 玲奈が早速鶏肉を口へと運ぶ。

 前に作ったのと同じ要領で作ったから味見するのを忘れていたことに今気づいたけど、果たしてどんな感じになっているのだろう。


「ん! 美味しい! 初めて食べる味だよ!」

「それはよかった。気に入ってもらえたら嬉しいよ」

「お世辞じゃなくて好きだなこれ」


 微笑み、続いて味噌汁に口を付ける。


「癒やされる……」

「ん。結構いけてる」

「……やっぱりさ、好きな人と一緒に食べるご飯は美味しいよね」


 玲奈の意見には完全同意だ。

 二人で会話をしながら食べるご飯は、一人で食べる高級料理の何倍も価値があると思う。

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