第26話 手料理を振る舞おう
映画が終わった。
レビューサイトに投稿された感想通り、後半はイケオジがサメをしばきまわしている映画だった。
トドメのシーンなんて、先端が尖った丸太をぶん投げたら逃げるサメの脳天を直撃して死んでいったなんて笑うなというほうが難しいというものだ。腹から声を出して笑ってしまった。
やっぱりちょっと出来のいいB級映画じゃないかこれ。面白いのが悔しい。
「ね。面白かったでしょ?」
「サメ映画をこんなに楽しむとは思わなかった」
玲奈が満足そうに笑っている。
二人で向かい合って笑い、そして時計を見ると針はもうすぐ三時を示そうとしていた。
玲奈が両手を組んで頭上へと伸ばす。
「んー、っと。そろそろバイトに行かなくちゃ」
「今日シフト入ってるんだ。そういえばどこで働いてるんだっけ」
「今日はスーパーだね。喫茶店と掛け持ちしてる」
「うわ、大変そう」
「そうでもないよ。どっちも店長さんが優しい人で、割と働いてる日数は少ないんだ。隼人はどこでアルバイトを?」
「俺もスーパー。明後日にシフト入ってるよ」
「そうなんだね。頑張って!」
頑張れと言うのは今だと俺だと思うんだけど。
玲奈が鞄を持って玄関まで行ったから、そこでいってらっしゃいのキスとして唇を額に付ける。
「~ッ! もっかい!」
「帰ってきたらな」
「約束だからね! あ! 夜は遅くなるからご飯適当に食べておいてね。出前とってもいいから!」
手をブンブン振って玲奈が出ていった。
さて、どうするか。
夜は好きにしていいって玲奈は言っていたけど、それを正直に受け取って出前なんかを頼むのは気が引ける。
それに、帰ってくるのが何時になるか知らないけど、そこからご飯を作って食べてだと大変だろうし、何より寂しいと思う。
帰るつもりのない実家では俺一人でご飯を食べることも多かった。というよりほとんどそうだった。
だから、同棲を始めて玲奈と二人でご飯を食べたときに誰かと一緒にご飯を食べる楽しさとか嬉しさとか、そういうのを知ることができた。
一人で食べるなんて寂しい思いを玲奈に味わってほしくないから、今日の夜は俺が作ろう。そして、帰ってくるまで待とう。冷めればレンジなり温め直しなりすればいいのだから。
そうと決まれば行動は早い。
俺自身そんなに料理のレパートリーがあるわけでもないから、簡単に作れるもので我慢して欲しいところではあるけど。
エコバッグとクレジットカードだけ持って家を出る。
徒歩六分の距離にスーパーがあるから、本当に何から何まで恵まれている場所だなと思う。多少重くなっても冷凍食品を買ってもすぐに帰ってこられる。
店先で今日は何が安いのかを確認して、そこから俺が作れる料理と内容のすりあわせだ。
「鶏肉が安い。あとじゃがいもと人参とブロッコリー。そんでアジが安いときたか。焼き鳥してジャーマンポテト作って味噌汁にするか」
焼き鳥は御影が焼いたものと比べられそうで怖いけど、でも鶏が安いのなら無理して豚肉や牛肉を買うこともないだろう。実を言うと魚料理とか俺ほとんど作れないからアジの焼き魚とか最初から選択肢に入れられないし。
精肉コーナーに向かい、鶏肉パックの前で腕を組んで唸る。
「これは量が多い……こっちは色が悪い……むむむむ……」
専門家じゃないけど、中々いい感じのお肉と出会えない。
今のところ量が多いってのが色とかそういうの含めて求めている物に近い気もするんだけど、冷凍保存するほど余るかと言われたら頭を悩ませるし、かといって全部使おうと思うとジャーマンポテトとかの出来上がりを調整する必要も出てきそうだ。
まぁ、いっか。玲奈は疲れているだろうし多少多くても問題ないと思う。そう信じたい。
量が多いからと一旦戻したパックをかごに入れ、順番は変わったけど生鮮コーナーに。そこでじゃがいもや玉ねぎなんかを次々かごに放り込んでいく。
メインと付け合わせはこれでいいとして、味噌汁はどうしよう。家に味噌と豆腐はあったから豆腐の味噌汁にするとして、ワカメはいるだろうか。
個人的にはあった方が嬉しいから、乾燥ワカメもついでにお買い上げ。
そうそう。ネギも大切だよね。
店内をあっちこっち行ったり来たりしてレジに並ぶ。
お支払いを終えて商品をかごに移しながら、ふと思った。
「玲奈のバイト先、ここじゃないのか。駅前のスーパーかな」
こっちのスーパーは家から近いし大手企業の店だけど、駅前のスーパーは働きやすいって先輩が言っていた気がする。
ちなみに俺はもっと遠くて、駅前のスーパーと同じ企業のスーパーだけど店は最寄り駅から二つ離れた駅の前にある。
実はほんの少しだけ玲奈が働いている姿を見たかったけど、よくよく考えると邪魔するのも悪いしこれでよかったのだ。
重くなったエコバッグを肩から提げて家に帰る。
さーて。玲奈に少しでも喜んでもらえそうな料理を作るとしますか。
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