第25話 映画鑑賞

 お昼を終えて玲奈が洗い物をしている間に、俺はソファに座ってボーッと液晶モニターを眺めていた。

 ここ最近、アニメとか映画を全然見れてない。なんというか三日以上コンテンツに触れてないと、月額料金払って契約しているVODは損している気がしてもったいなく感じる。

 特に映画はもう二週間ちょっと見ていないから、何か面白いものはないかとリモコン代わりのタブレットを適当に操作していく。


「映画見るの?」

「そのつもりなんだけど、面白いのないかな~って思ってさ」

「そうなんだ。……あ、これ私が契約してないところのだ」

「何か気になるのある?」

「いくつか」


 そう言うので、玲奈にタブレットを渡した。

 わくわくした様子でタブレットが操作され、液晶画面には海底から迫ってくる巨大なサメの姿とその映画のタイトルが映し出される。


「え、これ?」

「嫌?」

「嫌って訳じゃないけど……サメ映画ってあれなイメージが」


 言葉はあえて濁す。


「大丈夫。この映画はサメ映画だけど面白かったから!」

「あらすじだけは知ってるけど……本当に?」


 確か、海底で発見された古代の巨大ザメが大暴れして人に襲いかかって食い散らかしていく、みたいな紹介のされ方だったと思う。

 ただそれは公式サイトの紹介文で、実際にレビューサイトに投稿された感想としてはイケオジハリウッド俳優が巨大ザメに襲いかかる映画って感じだったから訳が分からない。だからこれもB級映画の仲間なんじゃないかと思ってるんだけど。

 でもまぁ予告編を一回見たことあるし、その時は映画館に見に行こうかと二秒くらい考えてやめたからここで見ても面白いのかもしれない。

 せっかく玲奈が見たがっているのだ。俺も付き合おう。


「じゃあこれにするか」

「うん! あ、棚にポップコーンあったからジュースと一緒に持ってくる」


 素早く立ち上がって棚から袋のポップコーンを取り出すと、ジュースのペットボトル二本と一緒に持って来てくれた。

 ブドウとオレンジどっちがいいかと聞かれたから、ブドウを受け取って再生ボタンを押す。

 制作会社のロゴが映り、その間にポップコーンの袋を開ける。と、次の瞬間いきなり潜水艦の乗降口が破裂した。


「漂うB級臭……」

「これからが面白いから!」


 本当かよ、と思ってしまった。

 主人公らしき人が格好よく負傷者を救助しているシーンが流れている。この人が噂のイケオジハリウッド俳優さんだろう。

 この人が巨大ザメに襲いかかってしばきまわすとか、この映画はこれからどんなトンデモ展開に転がっていくのか。怖いもの見たさで興味が出てきたじゃないか。

 救助船のレーダーに大きな影が映り、イケオジが戸惑い迷い、苦渋の決断で仲間を見捨てて潜水艦から離れる。

 そうしたら、影が潜水艦に体当たりして潜水艦は粉々に爆発四散した。


「漂うB級臭……」

「分かる! 分かるけど冒頭だけだから!」


 サメの体当たりで吹き飛ぶ潜水艦とか嫌だよ。脆すぎるってそれは。

 冒頭シーンから数年が経ち、海の上に作られた海洋研究所で未知の海溝が調査されていた。

 その途中で何か事故が起こり、あのイケオジを呼びに行こうという意見で纏まっている。


「そういえばさ。玲奈ってサメ映画はよく見るの?」

「見るよ。いろんな映画を見るけど、サメ映画みたいなモンスターパニック系とかアクション系とか割と好みかも」

「お、気が合いそう」

「そうなんだ。じゃあ、この先映画デートとかで揉めちゃうことも少ないかもね」

「それ、何気に助かるよな」

「だよね!」


 正直なところ自分が興味ないジャンルの映画を見るのって好きな人と一緒でも退屈に感じるときが多々ある。

 杏奈と映画に行った時、ネズミーの映画だったからそういうのあまり見ない俺は上映中に爆睡こいたことがあるからな。映画が終わって感想を求められて大変な目に遭った。

 その点、玲奈とは好きなジャンルも被ってそうでそういう事態にはならないのではと思える。

 映画はある程度展開が進み、壊れて沈んだ船に辿り着いたイケオジが研究員を救助して、離脱しようとしていた時に巨大なサメが襲ってくるシーンになっていた。

 仲間を逃がすために若い女性研究員が小型艇で注意を惹くけど……あ、喰われた。


「サメが人を食べるのに合わせてポップコーンを食べるのってちょっと楽しくならない?」

「ごめん、それはちょっと同意できないかもしれない。というかそんな楽しみ方している人初めて見たかも」


 玲奈の口からとんでも発言が飛びだしたことに驚きだよ。フィクションでもそこに注目して楽しむのか。

 中学時代に周りが玲奈について話していたときの評価と今の玲奈の姿にすごい温度差を感じてつい笑ってしまう。


「今の子が食べられるの期待した?」

「そっちじゃないな」


 子供を食べようとして失敗し、強化ガラスに頭をぶつけて逃げていったサメに笑ったわけじゃない。

 というか、強化ガラスに体当たりしてもガラスは無事で、潜水艦に体当たりしたら潜水艦が爆散するのはやっぱり納得いかない。

 地味に評価は高いがやっぱりB級映画なんじゃないか、と今日何度目かになる疑問を思い浮かべた。

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