第23話 明日への活力

 お会計を済ませ、全員で玲奈の車に乗り込む。


「じゃあ帰ろうか。どこまで送ろうか?」

「ねぇゆーくん今日泊めて~」

「いいよ。じゃあ岩崎さん。大学近くのコンビニまでお願いします」

「分かった」


 ちょーっと酔いが回ってさらに甘くなっている美咲さん。その頭を撫でている雄馬。

 こいつらも俺たちのこと言えないバカップルだと、これ言うの今日何回目かな。

 雄馬が借りているマンションは大学のすぐ近くで、指定されたコンビニに着くと二人が車を降りた。


「じゃあね玲奈~。また~」

「うん。また学校で」

「雄馬もまたな」

「おう。今日はありがとう」


 扉を閉める。車が駐車場から出ていくのを二人は見送ってくれていた。

 すっかり暗くなり、対抗する車のヘッドライトと建物の灯りが色づく景色を眺めていると眠くなってくる。


「寝てていいよ。着いたら起こしてあげるから」

「ん。じゃあお言葉に甘えて」


 ゆっくりと目を閉じる。

 ボウリングで疲れていたのか、腕の疲労感がすぐに消えて意識も静かにフェードアウトしていった。


◆◆◆◆◆


 体を揺さぶられたことで意識が徐々に戻ってくる。

 目を開けると、もう家に着いていて助手席側の扉を開けた玲奈が優しく起こしてくれていた。


「起きた?」

「起きたー」

「ふふっ、子供みたい。隼人のそんな姿を見られるとか、なんだかちょっと嬉しいな」


 シートベルトを外して、ふらふらとする足取りで外に出る。


「疲れてるのは分かるけどもう少し頑張って。せめてお風呂には入ろうね」

「んー」


 力なく返事を返す。

 玲奈に家の鍵を開けてもらって、玄関に入り靴を脱ぐ。

 浴槽にお湯を溜めるためお風呂場に玲奈が向かった。その間に俺は洗面台から歯ブラシを持ってくる。

 お湯がたまるまで歯磨きでもしようと腕を動かしていると、ボールの投げすぎで疲れた筋肉が悲鳴のような倦怠感を巡らせてきやがった。

 そのせいで頭と思考がはっきりとしてきて……。


「んあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「どうしたの隼人!?」


 悲鳴に驚いた玲奈が飛んでくるけど、違う違うんだ!

 家に着いてからの幼児退行が思い出されて恥ずかしさで悶絶してしまう。眠くなるとたまにやっちゃうんだけどそれをここでやらかすか!

 恋人じゃなくて彼女とダメヒモ男、母と息子みたいな関係式が成り立っていてもおかしくないやりとりは早急に忘れてしまいたい。

 恥ずかしさマックスで高速で腕を動かし、口の中がものすごく泡立つまで歯ブラシを擦らせる。

 ミント系の香りが鼻を衝いて咳き込みそうになった辺りで立ち上がり、口をゆすぎに洗面台へと急ぐ。

 中を洗い流し、歯ブラシを片付けてリビングに戻ると、部屋に入ったタイミングで玲奈がパジャマと着替えを差し出してきた。


「はい。お風呂に行くでしょ?」

「お湯たまった?」

「シャワー浴びながら使わないときにお湯入れたらちょうどいいと思う」


 なるほどいいかもしれない。

 玲奈の案に従って先にお風呂をもらうとしよう。

 着替え一式を受け取り、脱衣室に移動してそこで服を脱ぎ洗濯機とかごに分けて脱いだ服と下着を入れる。

 それから浴室に入ると、浴槽の三分の二くらいにまでお湯がたまっていたからこれなら問題ないと思い、まずは風呂場の椅子を温める。

 お湯をシャワーに切り替え、心地よいお湯を浴びながらまずは頭から洗っていく。

 ただ、ここで分かる人には分かると思うんだが、指で頭皮を揉んでいると妙な心地よさが全身に広がってまたすごい眠気が優しく全身を包み込もうとしてくる。

 風呂場での睡眠は正しい睡眠じゃなくて気絶というのはよく聞く話だが、気絶でも怪我したり溺れたりしなければ問題ないのではと、時折考えてしまう。

 でもここで寝たら玲奈に迷惑をかけてしまうなと思うと、頑張って睡魔に打ち勝てるんだ。

 頭を洗い終え、ボディーソープで全身を洗い、泡と汚れを洗い流してスッキリしてから浴槽に浸かる。

 あったかいお湯が全身に染みこむようでとても気持ちがいい。ガチで油断すると眠って溺れそうだ。

 それだけは防ごうと警戒もしつつ、浴槽の縁に腕を置いて足を伸ばしてリラックスする。

 おっさんみたいな声が喉から漏れ、浴室に響くダサい自分の声を聞きながら湯煙を眺めていると、扉が開く音がした。

 衣擦れの音もわずかに聞こえて、浴室の扉が開かれる。


「よっと。私も入るね」

「玲奈!?」


 一糸まとわぬ姿で普通に入ってきた玲奈を見て、さすがに驚いた。

 今までお風呂は別だったから、いきなりの展開に驚くなと言うのは少々無理がある話だと思う。


「まだ俺が入ってるんだけど」

「二人で入ればいいじゃん。少し狭いけど浴槽も広さはあるし」

「いやでも……」

「私たちもう裸なんて見せ合ってるし、それに……」


 嬉しさを滲ませるような表情を浮かべて玲奈が自分の下腹部を擦っている。

 あの日、ベッドの上で乱れる玲奈の姿が思い出されて、頬が熱を帯びた。


「今さら一緒のお風呂なんて恥ずかしくないじゃない」

「……そう言われるとそうだな」


 これは玲奈が正しい。俺たちの関係性ならこんなの普通のうちだ。

 さて、では玲奈が体を洗い終わるまでは足を伸ばして広い浴槽を堪能させてもらうとしよう。

 五分ほどたっぷり満喫し、玲奈が体を流し始めたのを確認してスペースを空ける。

 俺と玲奈、二人で向き合うようにして浴槽に浸かった。

 二人で入るとやっぱり少し狭い。けれどお湯とはまた違う肌の接触による温もりが心の奥深くまで浸透して夢見心地であった。

 そのまま二人で満足するまでお湯の快楽にこの身を委ねた。

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