第22話 締めの居酒屋

 カラオケでたっぷり二時間ほど歌い、満足するほど遊び尽くした。

 もう時間もいい頃合いだし、最後にどこかでご飯を食べて解散しようという話になる。

 てなわけで、玲奈の車に全員乗って、話し合いの結果決まった場所に向かうことになった。


「――で、それがうちだったと」


 人数分のおしぼりを運びながら御影がそう言った。

 俺の案が採用されて、四人で居酒屋御堂に来ている。

 予約なしで四人は少し迷惑かもしれないと思ったけど、週初めの方で特に予約が入っているわけでもなかったからあっさり通してくれた。これは本当に助かる。

 御影は少し物言いたそうにしているけど、口元がにやけているからポジティブな内容なのだと信じたいね。


「この店の焼き鳥が美味しいからさ。布教だよ布教」

「何言ってんだ全員リピーターじゃねぇか」

「あれ、雄馬も来たことあるんだ」

「私が連れて行ったんだ~。まっちゃんの言うとおり焼き鳥の味に感動しちゃって」

「なるほど」

「いやー、嬉しいねぇ! お通しのサラダと……こっちの唐揚げはサービスだよ!」


 大将の豪快な笑い声と共に、俺たち全員の前に五百円の唐揚げがドンとサービスで置かれた。


「親父ぃ。またそんな」

「細かいこと言うんじゃねぇ! うちみたいな個人経営の居酒屋はこういったサービスでお客さんに喜んでもらうんだろうが!」


 このサービスがなくても味だけで勝負できる名店だと思うけどな。もっとお客さんが多くても不思議じゃないのに、もったいない。

 まぁでも申し訳ないが現状だと俺たちだけが知っている隠れた名店みたいになっていて、このままでいてほしいと願う悪い俺がいるのもまた事実。

 さて、と。注文するか。


「皆、どうする?」

「私アルコール頼んでもいい?」

「そういえばみっちゃんは二十歳迎えてたっけ。いいんじゃないかな」

「俺はまだ誕生日先だから烏龍茶で」

「私たちもだね」

「だな。飲み物は烏龍茶が三つと……」

「カシスオレンジ!」

「カシスオレンジが一つ、後は御影オススメの焼き鳥持って来てくれよ」

「はいよ。注文承りました」


 御影が厨房に引っ込んでいき、すぐに全員分のドリンクを持って来てくれた。

 それぞれがグラスを持ち、真ん中でぶつけ合う。


「「「「かんぱーい!」」」」


 一気に口の中へと流し込んで、勢いよく喉を潤す。

 いかにも大学生って感じの集まりな気がして、テンションが上がっていた。雰囲気酔いを起こしそうになる。

 それから今日のボウリングについてわいわいと話し合っていると、香ばしい匂いと共に焼き鳥が運ばれてきた。


「ほいお待ち。焼き鳥オススメセット」

「御影に焼かせてみたんだ。正直な感想を伝えてやってくれ」


 御影の肩を叩きながら大将が笑う。

 それは楽しみだ。御影がどれほどの腕か、見させてもらおう。

 ねぎま串を取り、ネギと一緒に肉を口に放り込む。


「「「「うまーッ!!」」」」


 四人の声がハモった。

 御影が少し照れたように笑っているから、感想の追撃を見舞ってやろうと思う。


「大将の焼き鳥にも劣らない味だよこれ!」

「焼き加減神じゃん。ほどよい焦げの風味がクセになりそう」

「今度さっちゃんやもみじも連れてきてあげないと」

「タレが少し薄めか? でも気にならないくらい味が出てくる!」

「さすが、一番のお得意様な隼人くんは着眼点がいいねぇ。メモしておけよ御影!」


 一番と言っても他の三人より多分一二回くらい来店数が多いだけだと思うんだけど。

 次に塩で焼いた豚バラを食べると、これまた塩加減が絶妙で、肉と塩の旨味と汁が口いっぱいに広がった。


「塩は完璧だわお前」

「ごめんなさい、これ大将の塩より美味しいかも」

「そうかな? ありがとう」

「これは手厳しい! 今度からタレの父、塩の息子で売り出していくかな!」


 冗談っぽく言っているけど、でも案外それがいいのかもしれないな。そこら辺詳しくないからなんとも言えないが。

 次から御影が焼く時は塩で焼いてもらうようにしよう。

 皿に乗った他の焼き鳥も美味い美味いと食べ進め、少なくなってきた頃に雄馬が追加で注文をする。


「烏龍茶もう一杯ください。あと、タレでつくね串と塩で豚バラ」

「あ、私も烏龍茶ほしいです。ついでにこの牛すじ煮込みも試してみたい」

「御影~。俺もタレでつくね二本」

「はいよ! 少々お待ちを」

「待って私も烏龍茶とキス天食べたいです!」

「はいよ!」


 追加の注文を伝えて、残ったドリンクを飲み干し唐揚げにかぶりつく。

 肉汁とにんにくの風味が飛び出して、やっぱりこの店の肉料理はどれも美味しいんだよ再認識した。


「無限に来たい」

「分かる! なんなら毎晩これでもいい!」

「ゆーくんそれだと栄養バランス崩れるよ」

「隼人も。たまには贅沢もいいけど私が栄養とか考えて作る料理も食べてよね」

「それはもちろん。玲奈の手料理も美味しいから、ほんと感謝してる」

「「夫婦じゃん」」


 美咲さんと雄馬のツッコみに、俺と玲奈が頬を朱に染める。

 同棲じゃなくて事実婚みたいな感じになりそうだが、きっとそうなるのは早い気がしてきた。

 体裁とかいろいろあるけど、何なら今すぐ結婚してもいいと思えるようになっている。すぐに結婚はできないとかついこの間に言っていたのになんという変わり身の早さか。

 その後、御影がドリンクを持って来てくれて、それぞれが頼んだ料理も到着した。

 サラダを食べ終える頃合いという提供タイミングもいい感じ。やっぱり追加で頼んだ料理も美味い。

 昼間にドリンクを飲み過ぎたこともあり、これだけ頼むとお腹もいっぱいになってきた。

 美咲さんが締めに注文したお茶漬けを最後に、今夜はここまでとしよう。

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