第21話 カラオケデュエット
ボウリングを終え、カラオケをしていこうということで一部屋取る。
学校の授業が終わる時間帯なのか、学生の姿が目立つようになってきた。ギリギリ滑り込めたのは幸運だった。
部屋に入って早速、雄馬がタブレットを手に取る。
「一曲目は君が代からいこうか!」
「チョイスが謎なんだが」
なぜ始まりが国歌なんだよ。もっとこう、他にあるだろ。
そう思ったが、あえて何も言わずに流れを見るとしようか。
あの独特の前奏が始まって、雄馬が深く息を吸い込む。
予想以上に上手くて、でもこれが国歌だからかすごいと思うよりも前に笑いが込み上げてきた。
叩き出した得点はまさかの百点。とんでもないぞこいつ……。
カラオケに行こうといいだしたのは美咲さんだけど、当の本人は歌が苦手らしい。
そういうわけで俺か玲奈に次歌っていいよとタブレットを渡してくれた。
玲奈がそれを受け取って、目的の曲が決まっているのか迷う素振りなく指を動かしている。
「あったあった! 隼人これデュエットしよう!」
玲奈が選んだ曲は、ちょっと前にアニメのエンディングとして使われていた曲だった。
理系男女の恋を描いた物語の主題歌で、とあるVチューバーが歌ってみた動画を出して爆発的に人気が出た曲だった気がする。
高校の文化祭でこの曲を使ってダンスをしていた人たちが多かったから、興味を持って何度も聞いたから歌も踊りも問題ない。
だから特に断る理由もなく頷くと、玲奈のことだから踊りもいけるってすぐに分かったんだろうな。
何も言わずに部屋に設置されているパフォーマンス用の台に連れて行かれる。
ここまできたら俺も頑張るかと思い、手足首を振っていると前奏が始まった。
雄馬と美咲さんが拍手で迎えてくれ、玲奈と顔を見合わせる。
歌い出しは玲奈だ。透明感のある声で歌詞が流れていく。
すぐに俺のパートが来て、なるべく俺の音程を出しつつ玲奈の音と外れないようにちょうどいい高さを探る。
歌いながらのダンスは難しい。しかもここは動画サイトに投稿された元動画だとアニメーションの立ち絵だから、ここのオリジナリティが求められる。
とりあえず腕振って体を回転させておけばそれっぽくなるという、ダンス経験者が聞いたら激怒しそうな謎理論で適当に踊る。
もうすぐサビに差し掛かる。この曲はここの振り付けがメインといってもおかしくないと思う。
サビ直前にもう一度顔を見合わせると、玲奈が優しくうんと頷いた。
サビに入ると同時に指先を触れ合わせ、手を顔の前で裏返しを繰り返す。
特に打ち合わせもしていないのに息がピッタリで、玲奈は完全に俺の動きを理解して合わせてくれている。
歌も踊りも見事なシンクロ率で、最後までやりきることができた。
得点は九十点後半。中々悪くない点数じゃないだろうか。
「すっげぇ……」
「実はこっそり練習してた?」
「してないんだよなこれが」
「だね。私もここまで上手くいくと思わなくてビックリしちゃった」
初めてでこんなシンクロ。普通はあり得ないだろう。
「お前らもう学祭でそれ踊れよ。パフォーマンス時間あるだろ」
「確かにそれいいかも! 私が応募しておいてあげようか?」
「楽しそうだね! 隼人! どうかな!?」
玲奈がキラキラした目で見てくる。
そんな目をされたら断れないじゃないか。今まで学祭はあまり興味なかったけど、そうだな楽しもうか。
「応募期間始まったら応募しておくよ」
「わーい!」
飛びかかるようにして抱きつかれる。もう慣れました。
軽く息を整えて席に座ると、さっきので触発されたのか美咲さんがタブレットを持っていく。
「ねぇゆーくん私たちも!」
「いいよ。曲はどうする?」
「これ!」
曲が選択され、雄馬を連れて美咲さんがステージに上がる。
しばらくして始まった前奏を聞いて、すぐに何の曲か分かった。
少し前に爆発的ブームを起こしたアニメのエンディング曲だ。今でもネット上では主人公の女の子二人の内どっち推しかで議論が交わされているのを見かける。
玲奈も見ていたみたいで、音楽に合わせて肩を前後に揺らしている。
「ちなみに玲奈はどっち派?」
「それ、戦争の火種になる質問だよ。私はセカンドの子かな」
「あー、俺はファーストだわ」
「ほら争いの火種が生まれた! でも、実は同じくらいテロリストの方が好きかも」
「あ、同感!」
作中に出てきたテロリストのお兄さんが格好よすぎて、邪道だと思うけどあの人が一番の推しだわ。
と、そんな話をしていると二人が歌い始める。
ここで初めて知ったことだけど、雄馬って結構声の幅が広いんだなって。ちょっと声帯構造見せてほしいんだけど。
結構な高音でも問題なく歌いこなしていて、美咲さん以上のインパクトで耳に歌が刻まれる。てか、苦手といってる割に美咲さんも上手い。
サビのハモり具合は芸術的で、高得点が予想された。
作中では少女の部隊と少年の部隊は別個として描かれていて時には殺し合うような関係だったけど、それぞれが手を取り合った姿と錯覚するような雰囲気を醸し出していた。
なんか懐かしくなってきた。また今度全話見返そう。
曲が終わり、表示された点数は九十中央辺り。これのどこが歌の苦手なんだか。雄馬のフォロー抜きにしても絶対に九十点は固い。
玲奈がタブレットを操作して、今度もデュエットできそうな曲を探していた。
俺たちのカラオケはデュエット大会になりそうだ。
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