第20話 二人の共同作業
各々が五回分くらい投げた辺りで、新しくドリンクを入れに行く。
雄馬と美咲さんが俺と玲奈の分も一緒に持って来てくれると言うことで、お言葉に甘えて白ブドウのジュースを頼んで送り出す。
で、その間にスコアボードを確認すると、やっぱり玲奈の点数だけがずば抜けて高かった。
「ストライク四回にスペア一回、そのうちターキーが一回と」
「本当なら全部ストライクで埋めたかったんだけどね」
「充分すぎるよ。俺はほら、こんな感じだし」
俺のスコアボードを見る。
スペア二回、他は残り物ありって感じのごく普通のものだ。
雄馬と美咲さんに比べると得点は高いが、玲奈の凄腕っぷりの前では霞む。
「よしっ、じゃあコツを教えてあげる」
「え?」
「ほら、ボール持って」
促されるまま立ち上がり、ボールを持ってレーンに立つと後ろから抱きしめられるようにして手が触れる。
玲奈の滑らかな手のひらの感触が手の甲に伝わって、ふわりと漂う好きな匂いに鼓動が早くなる。
「隼人?」
「あ、ごめん。それで、ここから……」
「うん。でね、こう、隼人の場合だとボールを離したときの手の位置が狙いたい場所に重なるようなイメージで投げるといいよ」
「ということは……このコースかな」
「レッツゴー!」
アドバイス通りに修正してボールを投げる。
迷いのない軌道で転がったボールは、俺が最初からずっと狙っていた場所にピンポイントで命中してピンをなぎ払った。
スコアボードにストライクの文字が堂々と映し出される。
「やったね!」
「ああ! ありがとう!」
嬉しくてつい周りには人がいることを忘れて抱きついてしまう。
「きゃっ!」
「あ! ごめん……」
「あ……ちが、その、もっと……!」
両腕を広げて上目遣いにそんなことを言われては、もう可愛い以外の言語能力が失われてしまう。
鏡を見たらだらしない顔をしているだろうなと思いながら、玲奈の望み通り優しく抱きしめてあげる。
「美咲。なんかすっごいバカップルがいる件について」
「気にしたら負けだよゆーくん。この先もずっとこんな感じだから慣れないと保たないって」
「ジュースじゃなくて水にしたらよかった」
「私はちゃんとブラックコーヒー持って来たから」
本当にブラックコーヒー持って来たよこの美咲さんはよぉ。
俺たちのやりとりを砂糖に見立ててコーヒーを啜るんじゃない。別にいいんだけどなんというか、え、そんなに甘いことか?
正直スキンシップも距離感も杏奈と付き合っていたときよりも近いし幸せだけど、まぁ多少は引っ付きすぎかもしれないがこれが世間のデフォルトなんじゃ?
ちょっと周囲とのギャップに驚きつつ、雄馬にお礼を言ってジュースを受け取る。
俺がジュースをもらっている間に玲奈がさらっとまたストライクを出して、順番が雄馬に移った。
結果はスペア。一投目がずれて二本を倒し、二投目で残る八本を倒していた。
そして、次に美咲さんの番になる。
「ねぇゆーくん。私もさっきのやつやってほしい」
「仕方ないなぁ」
雄馬が美咲さんの後ろに立ち、背中から抱きしめるようにして二人でボールを持つ。
「おっ、バカップル」
「隼人後で一緒にトイレ行こうな。鏡ってやつを見せてあげる」
「そんなもうっ。お似合いだなんて……!」
「私、こんなにお間抜けな玲奈初めて見たかも」
美咲さんが若干引き気味だった。
なんでだよ玲奈、可愛いだろうに。
二人の共同作業で投げられたボールは、ゆっくり転がって割と早い段階で溝に落ちてガーターになる。
続く二投目も同じように投げて、今度はピンに届いたけど二本を倒して奥に消えていく。
結果は二本なんだけど、でも二人ともすごくやりきったみたいな感じでキラキラした顔をしていた。
と、隣を見ると玲奈が指をもじもじさせている。
「一緒に投げるか」
「っ! うん!」
まだ玲奈ほどじゃないけど、なんとなく俺も玲奈がしたいことが分かってきた気がする。このまま言葉を交わさなくても何を考えているか分かるようになればいいんだけど。
俺がボールを持ち、玲奈の手が添えられて二人で協力して投げる。
ただ、俺たちのは雄馬たちのと違って割と威力が出ており、真っ直ぐ転がったボールはピンをすべて倒して奥へと消えていった。
二連続ストライク。ゲームでもできたことがないものを初めて出せて嬉しくなる。
「隼人上手!」
「玲奈の教え方が上手いし、合わせてくれるからだよ」
「えへへ。でも、隼人も吸収が早いからすぐに上手くなるんだよ」
「ほら始まったいちゃいちゃが」
「確かにこれは慣れないと体が保たねぇわ」
後ろ二人が何か言っているけど、聞き流しておくか。
次に玲奈が当然のようにストライクを出して、また雄馬に順番が移る。
結局、全十ゲームが終わる頃には玲奈が圧倒的なポイント差で一位となっていて、続き俺、美咲さん、雄馬という形に終わった。
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