第19話 ボウリングゲーム
一悶着あったけど、俺たちはボウリングをするためにレーンがある階に移動した。
それぞれで靴を借りてボールを選び、好みのドリンクを持って席へと座る。
が、やはりと言うべきかちょっと空気は重かった。
「まぁ切り替えていこうぜ。ほら、最初はお前だろ」
雄馬にそう言われ、頬を叩いて気持ちを切り替えた。
実原さんには後でお詫びをするとして、今はせっかく来たんだし楽しまないともったいない。
玲奈も美咲さんも頷いたのを見て、俺はボールを持ってレーンに立ち遠くのピンを見据えた。
「隼人頑張って~」
後ろから玲奈が応援してくれる。
これは格好いい所を見せなくてはと、自然と力が込められた。
大きく腕を振り、一ピンと三ピンの中間辺りを狙って投げる。
ここを上手く捉えることができればストライクが狙える。カーブとかプロが使うような技は素人の俺には使えないから、真っ正面からウィークポイントを狙っての投球だ。
自分でも分かる綺麗なフォームで投げられたボールは、俺の狙い通りのコースを転がり、けれどピンの直前で少しブレてなぎ倒していく。
俺から見て左奥二本が残る初球。ストライクとはいかなかったけど、充分スペアを狙うことができる残り方だ。
「案外上手いじゃん」
「だね。よく行ってたのー?」
「いや、結構久々」
家庭用ゲームでやりこんではいたけど、実際のものとは力の入れ具合とかブレ方とか違うというのは小中の時に誘われて遊んだことで実感している。
それでもここまで上手くいったのは、体に馴染んだ動きと成長した筋力による無理やりのカバーのおかげだろう。
ボールが戻ってきた。
通ぶって正直やる意味が全く分からないボールふきふきをして、体の正面に構えて残るピンを狙う。
第二球目。
並んだ二つを倒すなんて簡単で、ボールは二本のピンをなぎ倒してスコアボードにスペアの文字を表示させる。
「うっし!」
「やる~」
「さすが隼人!」
雄馬と玲奈に褒められ、美咲さんに拍手を送られた。
新たにピンがセットされ、俺がオレンジジュースに口を付けている間に今度は玲奈が席を立ってボールを手に取る。
「頑張れ玲奈~」
美咲さんの応援に手を振って応えた後、勢いよく腕が振り抜かれる。
玲奈の初球は、レーンの右端を滑りエグい角度で曲がって第一ピンに襲いかかった。
数本が軽く吹っ飛ぶ威力のボール。当然と言うべきか、そんなものの直撃を受けて無事でいられるはずもなく、すべてのピンがなぎ倒されてレーンの奥に消えていった。
一発目からストライクを叩き出した玲奈には驚くしかない。
「やったよ隼人! 褒めて褒めて!」
テンション高めで戻ってきた玲奈が甘えるように頭を差し出してきた。
彼氏として、頑張った彼女を褒めるのは義務みたいなものだから、玲奈が望むまま優しく頭を撫でてやる。
猫みたいに、今にも喉をゴロゴロ鳴らしそうな感じですり寄ってくる姿がたまらなく愛おしい。
「おめでとう! すごい!」
「本当に岩崎さんなんでもできるなぁ……」
「玲奈、結構やってるの?」
「高校の時に付き合いで少し。でも、小学生の時にゲームでたくさんやってたから」
「あ、ウイースポーツパラダイス?」
「そうそう! 隼人もやったことあるの?」
「俺もそれで練習したから」
「そうなんだ! ゲームもソフトも家にあるから、今度二人でやろうね!」
懐かしいものがあるんだなって。
俺が遊んでいたやつはゲーム機本体がぶっ壊れて、ソフト持ち込みで隠れ家的ネットカフェで本体を借りることでしか遊べなくなったから、また遊べるんだと思うと嬉しくなる。かなり昔のゲームだけど名作だからね。
と、そんな俺たちを美咲さんも雄馬もストローでジュースをちゅーちゅー吸いながらニマニマとした笑みで眺めている。
「いちゃいちゃフィールドでコーラの炭酸消えたんですけど~」
「オレンジジュースの酸味はどこへやら」
俺たちのやりとりが糖分マシマシみたいな描写をするんじゃないよ。はいそこ美咲さんもブラックコーヒーを取りに行こうとするんじゃない。
冗談、と笑っているけど半分くらい冗談じゃなかっただろ。
さて、と。次は雄馬の番か。
「頑張ってゆーくーん!」
「おう!」
雄馬は美咲さんに格好いい所を見せられるのか、見物だな。
雄馬は自分のボールを持ち、しっかりとピンを見据えて構え、ボールを投げる。
斜めに転がっていったボールは……もう少しでピンに届くという場所で横の溝に落ちた。ガーターだ。
スコアボードに虚しい文字が表示され、返ってきたボールを無言で掴んでもう一度投げる。
今度はしっかり真っ直ぐに転がって、ピンを六本ほどなぎ倒していった。
「ドンマイ! 次があるって!」
美咲さんは盛り上げ上手だと、そんな簡単な感想が出てきた。
どこかしょんぼりした様子の雄馬には、そっとハンカチでも渡しておくとしようか。
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