第17話 遊びに来たよ
車を走らせること十五分。
大きなボウリングのピンが特徴的な建物が見えてきて、隣の立体駐車場に車が停められる。
建物から少し距離があるというのに、ゲームセンターの賑やかな音声がここまで聞こえてくるようだった。
「んーっ! 着いたー!」
「だね~。にしても、玲奈運転上手いね」
「そうかな? ありがとう」
美咲さんの言うとおり、玲奈の運転はとても上手だった。
俺も免許は一応持ってるけど、多分ここまで上手に運転しろと言われたら無理だと思う。
本当に何でもできる玲奈を改めてすごいと思っていると、少しの間ボーッとしていたみたいで玲奈に腕を引かれる。
「二人とも先に行っちゃったよ。ほら、私たちも行こう」
「あぁ、ごめん」
玲奈に連れられて店内に。
立体駐車場直結の入り口から入ると、音が聞こえてきた段階で予想できていたけどそこはゲームセンター。
アーケードゲームやクレーンゲームのBGMが混ざり合って何が何やら分からない音楽を奏でている。
「平日昼間だしさ、ボウリングもビリヤードもカラオケも多分空いてるよね」
「だと思うけど」
「じゃあ、ゲームセンターで先に遊んでいかない? ゆーくんどう?」
「俺はいいよ。美咲に何かぬいぐるみでも獲ってあげる」
「ゆーくん大好き~」
俺たちも大概だと思ったけど、それ以上のいちゃつき具合を見せられて口の中が甘くなる。
二人がウサギのぬいぐるみを景品にしているクレーンゲームに行くのを見ていると、玲奈が服の袖を引っ張る。
「ねぇ隼人。私、あれやってみたい」
そう言って指さしたのは、プリクラだった。
「隼人と一緒に撮るの、憧れだったから」
「そっか。じゃあ、行こうか」
「っ! うん!」
いい笑顔を見せてくれた玲奈を連れてプリクラに入る。
高校時代に部活の同級生に誘われて、結局断ったけどそのくらいしかプリクラと関係がなかった俺は初体験だ。何をどうすればいいのかなんてアニメでごく稀に語られるうっすい知識しか持ち合わせていない。
女子中学生や女子高生がスマホカバーに挟んでいるもの、程度の認識だから細かなところは玲奈にお任せする。
「準備できたよ。ポーズどうする?」
「無難にピースサインとか?」
「えー、つまんない! 最高のポーズを教えてあげるよ!」
それは興味がある。
どんなポーズをするのか、わくわくしながら待っていると、なぜか玲奈は教えてくれずに機械音声が撮影のカウントダウンを始める。
「な、なぁ玲奈さん……?」
「じゃあ……はい」
シャッターが切られる寸前、頬に湿った柔らかい感触が押し当てられる。
玲奈にキスされたと分かるまでに若干のタイムラグを生じさせてしまった。
唇をなぞりながら、玲奈は顔を背けている。
「恋人でプリクラと言えばやっぱりキスがいいなーって」
「そっか。じゃあ、もう一つ」
「え、ちょ……」
サービスなのかもう一枚撮れるみたいで、再びカウントダウンが始まったから今度は正面から唇を重ねる。
玲奈が驚いた表情をしていたけど、でもすぐにキスを受け入れてくれてさらには前歯に舌が触れるくらいにそっと優しく深いキスを交わす。
二枚の撮影が終わり、できあがったシールを取ろうと外に出ると、ニヤニヤとした笑顔をした美咲さんがシールを持ってひらひらと振っていた。
「プリでこんなに激しくしちゃう人初めて見たんだけど~。お熱いね~」
「ちょっ、みっちゃん!」
「お腹いっぱいですごちそうさま!」
見ると雄馬も少し離れた所で苦笑いをしていた。
もしやプリクラでガチのキスするのは恋人でもおかしいことなのか? もしかしてやってしまったか?
嫌われたらどうしようとか、ちょっとマイナスな思考が流れていく。
でも、玲奈が俺の手を優しく包み込んでくれた。
「大丈夫。私、とっても嬉しかったよ」
やっぱり、玲奈には何も隠し事はできそうにないな。
ありがとう、と伝えてシールをお互いのスマホケースの裏側に差し込む。
こんなもの何がいいんだとひねくれていた過去のバカな自分へ。恋人とのツーショットが常にあるのとないのとでは感覚が天地ほど違うぞ。マジで。
さて、そういえば。
「ウサギのぬいぐるみは?」
「見たい? これ!」
美咲さんが手にしていた袋から中くらいの白ウサギのぬいぐるみを取り出す。
「獲れたんだ」
「三日分の昼食代は飛んだけどね。でも、美咲が喜ぶ顔を見れたから満足だよ」
「本当にありがとうゆーくん! お弁当作ってくるから好きなもの教えて~」
人のこと言う割にはお前らも相当なバカップルじゃねぇか。
なんて思うが、喉元で言葉は飲み込んだ。
ゲームコーナーは他にもコインゲームとかリズムゲームとかいろいろ楽しめるものがあるけど、まぁこれらは後回し。
そろそろボウリングでもやろうかという話になって、四人で移動を始める。
と、その時だった。
後ろ向きに歩いていた美咲さんが、クレーンゲームの角から歩いてきた高校生らしき女性とぶつかってしまう。
「きゃっ!」
その子はバランスを崩してしまい、美咲さんはどうにか踏ん張って姿勢を維持し、慌ててその子に駆け寄っていた。
「ごめんなさい!」
「あ、いえ、大丈夫ですよ」
不注意だったのは明らかにこちら側だったのに、その子は笑って許してくれた。とても心が広い良い子だと思う。
その子に怪我がないことに安心して胸をなで下ろし――、
「大丈夫か?」
その声が聞こえて、胃が締め付けられれうような感覚に見舞われた。
美咲さんとぶつかった子が来たのと同じ場所から一人の人物が現れ、向こうも俺を見て露骨に嫌そうな顔をする。
「げ、なんでここに……」
「それはこっちのセリフだよ琢己……」
俺から元カノを奪った弟は、杏奈とは違う女性と一緒にいた。
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