第16話 デートの提案
お昼を終えて食器を返却台に戻すと、美咲さんが思いだしたようにポンと手を打つ。
「そうだそうだ! 玲奈に提案があったんだった!」
「なに?」
ちょっと気になって、俺も雄馬も二人の会話に耳を傾ける。
「玲奈、今日は車で来てるんだよね? 確か大きかった」
「うん。ワンボックスだから大きいよ」
「だよね! ねぇ、今日この後ラウンドゼロにWデート行こうよ!」
美咲さんからの提案。
Wデートか。面白そうだし、行きたいなとは俺も思う。
が、正直なところ難しい。
同棲を始めてからずっと、少し贅沢しすぎな気がするんだよな。一年生から始めたバイトの蓄えはあるけど、面倒くさがりな俺は口座にいくら残ってるかとかめったに確認しないし。
今後何があるか分からないから、そろそろ支出をセーブしないといけないように思う。
「俺は……」
「いいよ。でも、皆この後授業はないの?」
「私は二限で終わりー」
「俺も今日は五限が臨時休講になったからこれで終わりだね」
「隼人は?」
「この後学生課に行って終わりだけど……」
金銭的理由を伝えるタイミングを逃してしまったように感じる。
うん、まぁいっか。明日から頑張ればいいのだ。
「じゃあ決まりだねっ! てなわけで運転よろしく!」
「はいはい」
半ば強引にだけど美咲さんの提案が通った。
こうなったら全力で楽しもう。ボウリングとか中学の時以来だし、筋肉痛には気をつけないと。
雄馬の腕を取って楽しそうに歩いていく美咲さんを後ろから追いかけていると、玲奈が速度を落として隣に並ぶ。
「私に任せて。お金は私が出すから隼人は楽しむことだけ考えていてくれたらいいよ」
ほんと、玲奈には何もかも筒抜けだな。
今回はお言葉に甘えるとして、後日利子を付けてたっくさん返していかないと。
俺の用事に三人を付き合わせるのも気が引けるし、先に駐車場に行ってもらってから俺は一号館の一階にある学生課へと向かう。
こういうのやったことないけど、まぁそれほど時間はかからないだろう。
必要書類をまとめて職員さんに渡す。
絶対にないと思ったけど、その通りで特に深く聞かれることもなく書類は受け取ってもらえた。あとは各自の電子ページに登録されている住所情報を変更すれば手続きは終わり。
時間にして十分にも満たない。思ったよりも少し早かったし、少しだけ寄り道しても怒られない、よね?
外に出て、すぐ隣にあるコンビニに入る。
せっかくだからホットスナックの一つでも買っていくとしようか。近場のラウンドゼロまでは少しあるし、適度につまめるものがあるといいかもしれない。
そのついでに、スーパーとかでもそうなんだけどつい癖でスイーツ売り場も一緒に見てしまう。
と。
「あ、これ」
新発売のシールが貼られたホイップとカスタードのクリームがたっぷり詰まったシュークリーム。
こういうのは玲奈が好きそうかもしれないと思う。ここ数日で甘いものが好きなんだろうなと分かってきたし。
利子にすらならないけど、これを玲奈に買っていくとして皆で食べるのは揚げ鶏クンでいっかな。
シュークリームと揚げ鶏クンでお会計。それらを持って駐車場に移動する。
ワンボックスと言っていたし、どれが玲奈の車かはすぐに分かるだろうと思っていた。
まさにその通りで、加えて玲奈が車の外で待っていてくれたから一発で分かる。
「あ、こっちこっち!」
「お待たせ」
「ううん! でも、早かったね?」
「すぐに終わったからな」
助手席のドアを開けてもらい、車内に入る。
心地よいラベンダーの香りがふわっと漂い、揚げ鶏クンという匂い爆弾を持ち込んだことをちょっと申し訳なく思ってしまった。
後ろの席に座っていた雄馬もすぐに気づいたみたいで、身を乗り出してくる。
「お前なんか持ち込んだ?」
「食べようと思って揚げ鶏クンをな。分けよう」
「お、さんきゅー!」
期間限定増量キャンペーン中だったから、雄馬と美咲さんと玲奈に二つずつ渡しても俺の分は一つ残る。
車内にあったティッシュを借りて人数分分けると、後ろの二人に渡す。
「ありがとー!」
「いえいえ」
美咲さんからお礼の言葉を受け取ってから、玲奈の分とシュークリームを渡す。
「わっ! こんなに?」
「お世話になってるしなるんだからさ。運転中は危ないから止まっているときにね」
「もちろん!」
シートベルトを着けると、玲奈がエンジンをかけた。
ではでは、ラウンドゼロに向かうとしましょうか。
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