第13話 見たくもない顔
眠くなったけど、要点をしっかりまとめて授業は終わった。
来週締めきりの課題の説明をされて、ようやくお昼休みとなる。
筆記用具とかを片付けていると、篠原が真っ先に立ち上がった。
「うっし食堂行くか! お前らどうする?」
「俺も行く」
「じゃあ、私も行こうかな~」
「ごめん僕はパス。用事があるから」
というわけで、坂上を除いた三人で食堂に行くことになった。
鞄を持って立ち上がると、スマホが震えて受信したメッセージが表示される。
「『お昼一緒にどう?』か。ごめん、今日は友達と食べるっと」
「誰かに誘われたの? 私たちのことは放っておいて行っていいのに」
「昨日もご飯一緒に食べたから。今日は久々にこの集団で行こうぜ」
「だな! 急がないと席埋まるから行くとすっか!」
お昼の時間は席の争奪戦となる。
幸いなことに三号館は食堂から一番近い建物だから、二限を受けていた組の中では比較的席が取りやすい方だと思う。
篠原がすぐさま飛びだしていき、早歩きの形で俺と雨宮が続いた。
と、雨宮のスマホが震える。
「あ、りっくんとゆーゆも食堂に行くって。せっかくだし二人も一緒でいいよね」
「だな。一条たちは……今日は授業ないんだっけ」
「利香は休みだし、せーなんは四限だけだったはず」
友達二人も食堂で合流するとなって、俺たちも足早に向かう。
食堂に駆け込むと、ちょっと出遅れてしまったようで既に長蛇とはいかないまでも列ができていた。
と、先に着いていた篠原が友達二人と俺たちを待ってくれている。
「遅いぞ! 早く並ばないとカレーがなくなる!」
「いや、カレーはなくならないだろ」
「限定の韓国唐揚げ丼は怪しいけど他は大丈夫だって」
篠原に冷静なツッコミをした、りっくんこと
メニューをしっかり把握しているゆーゆこと
この他に、
と、友達紹介はおいといて、列がこれ以上長くなる前に最後尾に並ぶ。
雄馬の言うとおり、韓国唐揚げ丼はなくなりそうだという雰囲気があるけど、正直言って食堂の丼ものは普通のカツ丼以外はどれも微妙だから期待していない。俺の狙いは別のものだ。
十分ほど待って、ようやく俺たちが注文できるようになると、俺はおばちゃんに日替わりAランチを頼む。
今日は照り焼きハンバーグに卵焼き、サラダ、豚汁とご飯が付いている。これで五百円いかないんだからほんと学生の味方って感じだよ。
篠原たちもそれぞれが食べたいものを注文して……篠原、特盛りカレーとかマジか。頼んでるやつ初めて見た。
トッピングのコロッケと唐揚げが転がり落ちそうになるのを防ぎながら席を探す篠原を追いかけるように俺たちも注文したものが乗ったトレーを持って移動する。
と、その時だった。
「……あ、隼人先輩」
聞きたくなかった声を聞いて、思わず表情が硬くなる。
黙って一歩進むと、慌てたように次の言葉が紡がれた。
「待ってください! お願いします……」
ため息を吐きながら振り返ると、言うまでもない人物がそこにはいる。
伊予島杏奈。
俺を裏切ってクソ弟を選んだ元カノだ。
「なに」
「えと、あの日のこと、ちゃんと説明したくて……」
「説明も何も見たまんまだろ。じゃあな」
苛立ちを隠せない口調で吐き捨てて踵を返す。
これでまぁ雨宮は大体の事情を察したか、大喧嘩くらいに思っているのかは分からないが小さく頷くような仕草をしていた。
一方、事情を何一つ知らない坂田と雄馬は戸惑うように歩を進めて俺の隣に立った。
「な、なぁ。お前ら何があったんだ?」
「説明って何のことだよ。お前、何されたんだ?」
「関係ない。もう俺とあいつは終わった関係だから」
「終わったってお前」
「別れたのかよ」
そう言った途端、悲鳴に近いような声が響く。
「嫌です! 私まだ別れたくない!」
周囲から何事かと視線が飛んでくる。
でも、それ以上に別れたくないってなんだよ。浮気しておいて体の関係まで持っておいて今さら別れたくないとかふざけてるだろ。
相手にするのも面倒だから、もう無視して篠原を探す。
「待ってください先輩! 私、別れるなんて認めてませんから!」
「……しつこいな。お前が認めなくてももう俺たち終わりなんだよ」
「嫌です! 嫌だ!」
縋り付くように抱きついてくるものだから、トレーが揺れて落としそうでたまらない。
すかさず自分のトレーを片手に持ち、もう片方の手で俺のトレーを持ってくれた雄馬に感謝の念を送りつつ、杏奈を引き剥がす。
「いい加減にしろよ! 浮気しておいて別れたくないはないだろ!」
「「「え……」」」
雨宮も坂田も雄馬も同じタイミングで同じ声を。
どうにか杏奈を引き剥がし、雄馬からトレーを受け取って歩き出す。
それでも諦めない杏奈は、腕を強く握ってきた。
「待ってください! せめて話し合いを!」
本当に鬱陶しい。
いい加減にしてくれと、ランチの犠牲覚悟で振り払おうとしたその時、急に杏奈の手が払われた。
「私の彼氏が嫌がってるんですけど。やめてくれませんかね」
声に若干の怒気を孕ませて、玲奈が助けてくれた。
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