第12話 休み明けの学校
ゴールデンウィークが明けた。
最初の授業日、俺は二限からだから少し遅めに起きる。
欠伸を漏らしながら一階に降りると、玲奈の姿はなかった。
見ると、机の上に朝食のホットケーキと書き置きがある。
「『一限からだから先に行くね。遅刻しないように。慣れてきたら一緒に行こうね』か。おっけー」
ホットケーキをありがたくいただき、食べ終えた皿を洗って着替えると、鞄の中身を確認して戸締まりしてから家を出る。
車がないから、玲奈は自動車通学なんだろう。うちの学校は駐車場もあるから自動車を持っている人は車で通学する人もいる。
俺はいっつも電車なんだけど。その方が楽だし、歩くから健康にもいいはず。
使う路線が違うけど、最寄り駅までの距離は実家の最寄り駅よりも近いから助かる。ホームに入ると電車はすぐ来たからタイミングも神。
電車に揺られ、学校に着くと一限がもうすぐ終わるって時間だったからもうここでもタイミングばっちしよ。
三号館の四階端の教室。日本と中国の神話学という厨二心をくすぐられたから取ったものの、正直眠たくなるような授業が開かれるのがこの場所だ。
教室に入ると、そこらのグループでゴールデンウィークに何があったとかの話で盛り上がっているグループがいくつか形成されている。
俺は、そんなグループの一つに混じるように荷物を下ろした。
「お、来たか隼人。お前のことだから寝坊すると思った」
「失礼な」
「でも、はやっちこの授業寝坊で一回欠席してるよね? 他の授業も一限のやつは何回かやらかしてなかった?」
「たしか金曜一限で一回やらかしてたよね」
「うるせぇ。一限とか眠いんだよ」
そう、この授業を取っている三人の友達に悪態で返す。
最初に寝坊すると思ったとか失礼なことを言ってきた男子が
人の欠席を覚えてやがった女子が
金曜一限の授業も一緒で、そこでの欠席を知っている男子が
この授業は俺含めたこの四人で固まることが多いし、他の授業でもこの授業を取っていない友達数人を含めた集団で固まっていることが多い気がする。
鞄から教材とルーズリーフ、それから筆記用具を取り出すと、雨宮が頬杖をつきながら聞いてくる。
「で、はやっちはゴールデンウィークどんな感じだった?」
「まぁ……ギリプラス」
彼女をクソ弟に寝取られて家もなくなったけど、それ以上にずっと好きだった玲奈と恋人になれて同棲も始まったんだから差し引きギリギリプラス、としてもいいだろうと思う。
俺の答えが面白かったのか、雨宮はぷっと噴き出した。
「ギリってなによ。嫌なことでもあった?」
「愛しの彼女ちゃんに慰めてもらえって。嫌なこと大体吹っ飛ぶだろ」
「彼女に夢を見すぎだよ篠原。だから彼女ができないんだって」
「傷口抉るんじゃねぇ! 俺だってその気になれば彼女の一人や二人……!」
「しのしのゴールデンウィークに合コンがどうとか言ってたわよね? 結果発表~!」
「二回参加して美味しいご飯を食べただけ! ちくしょう!」
どうやら三人とも楽しそうな休みだったようで何より。
でも、篠原が言う俺の彼女っていうのは杏奈のことだから、それはちょっと嫌な気持ちになる。
「慰めてもらうも何もないよ」
「……もしかしてはやっち、あんちゃんと喧嘩した?」
「答えたくない」
「お、おぅ……悪かった」
「僕もごめん」
篠原と坂上が謝ってくるけど、二人が悪いわけじゃないからちょっと申し訳ない気になる。
ただまぁ、雨宮が言ったような喧嘩以上に胸糞悪い一件だったから、ちょっと当たりがキツくなってしまうのも許してほしい。
でも、人には機嫌とかそういうのがあるもんだし、俺たちは誰かが失言したときも許し合ってきたから、こういう関係性が長続きしているんだ。
俺のことを話すと変な空気になりそうだからどうしようかと思っていると、チャイムが鳴って教授が入ってきた。
雑談はここまでで、授業を受ける状態になる。
前の方からレジュメが配られて、全体に行き渡ると最初の五分間は教授によるゴールデンウィーク中に何があったのかの軽い報告のような雑談タイムが始まった。
それを聞きながら、ふと思う。
今日は被っている授業がないから会わないと思うけど、杏奈も普通に学校に来ているんだよな。
できることなら顔も見たくないなと思いながら、教授の失敗談にふふっと笑ってしまう。
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