第6話 いちゃいちゃ晩御飯
家に帰ってきて、すぐに買ってきたピザやらチキンやらをテーブルに並べる。
冷蔵庫にあったジュースをいくつか取りだしたら、もうこれで夕食の準備は完了だ。大学生の間しかこんな食事は許されないと思うバリエーションがそこにはある。
コップにブドウジュースを注ぐと、一つを玲奈に渡してぶつけ合う。
「「かんぱーい!」」
中身はジュースだけどお酒のようなノリで乾杯の音頭。
そのまま一気に喉を潤した。
「さて。早速開けましょうか!」
そう言って玲奈がピザの箱を開けると、食欲を刺激する美味しそうな香りがいっぱいに広がる。
お腹から間抜けな音が鳴り、玲奈がそれを聞いてくすくすと笑っている。
そのことにちょっとした恥ずかしさを感じながら、近くの一切れを掴んで口に運んだ。
スーパーで売ってるピザと違って、ピザ屋のピザはチーズが伸びて絶品だ。
「あ。隼人、ちょっと」
玲奈がティッシュを近づけてきて、強く頬が拭われる。
いつの間に付いたのか、トマトソースが頬を汚していたみたいだ。
「はい、取れた」
「ありがとう」
お礼を言って、それからポテトを一本手に取る。
ケチャップソースを先端に付けてから玲奈の前にまで運ぶと、彼女は少し不思議そうに首を傾げた。
いきなりこんなことをしておいてちょっと恥ずかしくなるけど、顔を背けて意味を話す。
「ほら、あーん」
「っ!」
チラッと横目で見ると、玲奈はそれはもう輝く笑顔を浮かべて嬉しそうにポテトを咥えた。
器用に唇を動かして全体を口の中へと入れ、しっかり味わうように食べている。
コクン、と可愛らしい音を鳴らして飲み込むと、今度は同じようにケチャップを付けたポテトが顔の前に差し出された。
「お返しっ。ほらあーん。あーん!」
「はいはい」
あまりの勢いに思わず苦笑が漏れる。
と、そこまではいいんだけど、ついうっかり玲奈の指まで一緒に咥えてしまった。
「あ、ごめん」
「……」
しばらくポテトを持っていた指を見つめていた玲奈は、ふふっと微笑むとその指でもう一本ポテトを掴んであえて指も一緒に舐めるように口へと運ぶ。
「これで間接キスだね」
そう言われると、頬が熱を帯びて朱に染まる。
たしかにそうだけど……恋人になったとはいえ今日の朝の出来事だからまだ慣れない。
ついこの間までは、相手が杏奈だったというのに。
などと思って、裏切った元カノのことを思い出している自分自身が嫌になってくる。
と、表情にそれが出ていたのか、玲奈が不安そうに顔を覗き込んでくる。
「隼人、顔怖いよ。もしかして嫌、だったかな? ごめん……」
「あぁいやそうじゃなくて。間接キスと言わずキスくらいいつでもやってあげるからさ」
心配させないようにと強がってみせる。
けれど、強がりだと思っていたのはどうやら俺だけだったみたいで、玲奈が一瞬獣のような目をしたかと思うと素早く立ち上がった。
隣に移動してくると、頬を掴まれて唇が押しつけられる。
好きな人との初めてのキスは甘いもの。そんな話をよく聞くけど、まぁお察しの通り甘いと感じるのは心だけで味覚的にはトマトの味でした。
「チーズとトマト。でも、ピザの何倍も美味しい」
「玲奈はジャガイモってところかな」
「私だから許すけど、他の女子にそういうこと言ったらダメだからね。そこは嘘でも幸せの味って答えないと」
「ごめんって」
「ごめん嘘。私以外の女子にそういうこと言うの絶対に禁止ね」
頬を膨らせて拗ねたような玲奈が可愛い。
こんなことを言うってことはキスをするって事だし、そういう相手は今後玲奈しかいないから大丈夫だと頭を撫でて耳元で囁く。
我ながらアウトラインギリギリのことをやってるけど、玲奈的にはお気に召したみたい。
肩に顎を乗せて甘えるようにすり寄ってくる。
「えへへ~。もっかいキスしよ」
「まず先にご飯食べようよ」
「あ、そうだね。デザートは食後のお楽しみっ」
それも俺のセリフなのではないだろうか。
ま、まぁあまり深く考えるのはやめておこう。
向かい合って座るのもなんか違うということで、二人肩を触れ合わせて座り、チキンを手に取る。
柔らかな鶏肉を味わい、ブドウジュースで口内を潤す。
ただ、うん。さっきのキスの衝撃は思った以上に大きくて、心なしか食べるものの味が薄く感じるよ。
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